院長インタビュー

健全な経営とサービスで、患者満足度と職員満足度の更なる向上に取り組む大牟田市立病院

健全な経営とサービスで、患者満足度と職員満足度の更なる向上に取り組む大牟田市立病院
野口 和典 先生

地方独立行政法人大牟田市立病院 理事長・院長

野口 和典 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年06月27日です。

大牟田市立病院は1950年に福岡県大牟田市に開院した市立病院です。2010年に地方独立行政法人となったことを機に、接遇の改善や人事評価制度を見直し、患者満足度とともに職員満足度の向上にも取り組んでいます。

同院の診療体制の特徴や、これからの病院のあり方などについて、大牟田市立病院の院長である野口和典先生に伺いました。

病院外観
病院外観

当院には、総合病院として内科、外科を中心にした診療科と、内視鏡センター、化学療法センター、腎センター、健診センターなど、多岐にわたるセンターがあります。地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、災害拠点病院に指定されており、公的な急性期病院として機能しています。

当院は地域がん診療連携拠点病院に指定されており、がんの診療に力を入れています。ほかの医療機関やがんセンター、大学病院とも連携し、より安全で適切な手術や治療を目指しています。

手術治療や放射線治療のほかに、内視鏡を用いた治療や、注射や内服薬を組み合わせたがん治療も提供しています。

当院は二次医療圏の中核病院として、周産期医療に力を入れています。他院から紹介される高齢出産や多胎妊娠(双子)など、ハイリスクの妊婦さんに関しても受け入れています。産婦人科と小児科、麻酔科(麻酔科標榜医:山田阿貴子先生)などが連携して、入院や手術、薬物療法といった対応をしています。一方で、リスクが低いと医師が判断した妊婦さんには、助産師が主体となって医師と共に妊婦健診を行う助産師外来をおすすめしています。助産師外来では、妊婦さんが安心してお産に臨めるように、健康相談や日々の生活のなかでのお悩みに応えています。

心血管撮影装置
心血管撮影装置

近年は人口の高齢化に伴い、認知症の患者さんや複数の合併症を持った患者さんが増えてきました。このような場合は、1つの診療科での対応が難しいため、複数の診療科にまたがって治療を受けていただく必要がありました。そのため、患者さんにもご不便をおかけしていたことと思います。

これからは、高齢者医療を視野に入れて、複合的に診察・治療ができるように、2019年春、病棟と診療科の再編を行いました。たとえば、脳血管内治療科(脳神経外科)と循環器内科、血管外科を合わせて、全身の血管の病気に対応できる専門病棟作りを実現しました。

当院では周囲の開業医の方々と、それぞれの医療機関に適した役割分担をしながら連携しています。がん治療や緊急の救急医療など高度急性期と急性期の医療を当院が担っており、回復期、慢性期の医療は周囲の医療機関にお願いしています。これによって、住民の皆さんが地域で安心して暮らしながら医療が受けられる「地域完結型医療」を補完し、地域包括ケアシステムに貢献しています。

どのような医師に患者さんを紹介するのか、またどちらから紹介を受けてきたのか、お互いの顔が見える連携を理想としており、当院のホームページでは非常勤も含めた医師の写真や経歴、専門資格などを公表しています。またかかりつけ医の先生と当院勤務医が一堂に会する連携懇親会を開催しており、診療科ごとの交流と連携を深めています。

地域の医療機関と当院の間で、当院の電子カルテ情報を共有する連携システム「ありあけネット」を運用しています。同意が得られた患者さんについては、かかりつけ医の先生がご自身の診察室で、当院での検査結果や処方薬の内容、医師や看護師の記録、病歴情報などを見ることができ、日常診療のお役に立つように工夫しています。

急性期病院として保有している患者さんの大事な情報を、サーバーの中にただしまっておくというのは、非常にもったいないことです。当院の患者さんがどのような病気にかかり、どのような治療を受けたか、その情報を患者さんが退院された後にどこの医療機関に行っても役立つようにすべきだと考えています。現在は歯科を含めたかかりつけ医の先生が対象ですが、今後は訪問看護事業所の看護師さんとも共有したいと考えています。

一方で、職員にとってカルテは「見られる記録」であり「見てもらえる記録」となり、より丁寧に記録を残すという意識が高まり、診療の質とともにカルテ記載の質の改善にもつながりました。

救急外来の様子
救急外来の様子

当院は、2010年に地方独立行政法人大牟田市立病院に移行しました。この独立法人化にあたっては、看護職増員でのゆとりのある看護体制作りと、紹介患者さんの診療を中心とした地域医療支援病院の指定を目指し、それぞれ達成してきました。さらには、地域の中で救命救急医療のサブセンターになることや、地域包括ケアシステムにおいては急性期医療を支える基幹病院になることを目標として尽力しています。

熊本地震DMAT派遣.JPG
熊本地震DMAT派遣

このような当院の努力を評価いただき、2018年には自治体立優良病院総務大臣表彰を受賞しました。この賞は、救急医療や急性期医療の実績、また他医療機関との連携状況などを評価し、かつ経営面での健全性の確保などを踏まえて総合的に判断され決定されるものです。

当院は、地方独立行政法人となったことをきっかけに、人事評価制度を全面的に見直しました。同時に、それまでの年功序列的な給与制度も見直し、人事評価と連動するように工夫しました。当院では病院運営の手法としてBSC(バランス・スコア・カード)を活用しており、法人4年間の中期計画のもとで、部門別に単年度行動計画を作成しています。全部で38部門あり、それぞれが行動計画を個人レベルまで落とし込んで、人事評価制度に連動するようになっています。院長は毎秋に全部門の中間ヒアリングを行い、PDCAを後押します。人事評価は、行動評価、目標評価、多面評価より成っており、院長を含め全職員が対象となります。1年間の活動報告書は全職員に公開され、さらに医師が出向している大学医局にも送付されます。これにて職員のモチベーションを保ち、人事評価制度の効能である人材の育成と公平な処遇を達成し、同時に経営理念の浸透を図っています。

当院は久留米大学医学部の教育関連病院であり、卒後初期臨床研修の基幹病院です。さらに、多くの看護学生や複数の医療系学生の臨地実習病院として学生を受け入れています。看護学校の臨地病院として、常に次世代の医療や介護を支える人材育成に寄与しながら教育機関としての役割も果たしてきました。

職員の研修については、階層別研修、課題別研修、人事評価研修など、1年間を通してさまざまな研修を実施しています。また院外の研修会や学会への出席を積極的に奨励しています。スキルアップのための専門資格取得や書籍購入に対しても、費用支援をしています。また、ワークライフバランスを重視し、職員が安心して働ける環境づくりの一環として、2011年に院内保育所を設けました。

より充実した医療環境と患者サービスに努めるため、接遇面、診察面、施設面、環境面について、外来は年2回、入院は1年間を通じて患者さんからご意見をいただき、患者満足度調査を続けています。その評価結果は、諸改善にて活用するとともに公表をしています。さらに、外来コンシェルジュを配置したり、一般募集したモニター制度を利用してご意見をいただいたりするなど、サービス面やアメニティ面でも常に環境改善に努めています。

当院では隔年で、詳細なアンケートを用いた全職員の意欲度と満足度を調査し、組織の活性度をみる組織風土調査を行っています。さらに階層別、職種別、所属別、勤務年数別、年齢別などに分けて分析することで、個別組織の課題を探り、よりよい組織風土作りに向けて努力しています。

病院運営に関しては、院長副院長をはじめ管理職層が合宿等を行い、BSC手法にて中期計画や単年度計画の骨子を作っています。この成果もあって、管理職層は病院内外の諸課題をよく把握しており、計画に見合った部門マネジメントで活躍しています。このため当院の特徴は、院長のトップダウン型組織というより、ミドルアップ型の活性型組織ともいえます。

野口先生

日本は長寿社会となり医療環境も急速に変化しつつあります。当院は、地域の高齢化率からみても日本の10年先の医療環境にあり、超高齢者を多数含む急性期医療、悪性疾患医療を実践しています。この近未来医療の特徴は、フレイルサルコペニアだけでなく、複数の病気で複合病態を有する患者さんが急増していることです。ほかにも認知症、核家族化、多死時代など、長寿患者さん特有の身体的・環境的な諸問題が付随してきます。まさしく地域の中で安心して生活療養していただくための地域包括ケアシステムとして、医療、介護、生活支援、住居支援、予防の視点と多職種連携が必須となってきています。これからの日本の医療を支えていただく若手の医師には、広い視野を持ってこのシームレスなシステムの一員として活躍されることを期待しています。

当院は、常に安心安全な医療の提供を目指しながら、高度な医療の提供と患者サービスの向上に努めています。ご長寿の方が増加し、がん糖尿病、心臓病や腎臓病などの慢性の病気を抱えた方々が増え、一回の入院だけで病気治療が終了するような「病院完結型医療」の時代ではなくなってきました。今や、自宅で暮らし通院しながら、調子が悪くなったら入院治療や医療支援を繰り返し受けていただき、病気とうまく付き合いながら生活する「地域完結型医療」の時代になりました。

当院は地域の医療支援病院として、かかりつけ医の先生方と密接な診療上の連携をしている病院です。紹介状をもって受診された皆さんに安心して受診いただけるように、今後とも多くの方々からご意見をいただきながら、よりよい病院を作っていきたいと思っています。これからも当院の理念どおり、良質で高度な医療を提供し、住民に愛される病院を目指してまいります。

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