院長インタビュー

淡路島に求められる医療の提供を─淡路医療センターの挑戦

淡路島に求められる医療の提供を─淡路医療センターの挑戦
小山 隆司 先生

兵庫県立淡路医療センター 名誉院長、東浦平成病院 淡路圏域顧問

小山 隆司 先生

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この記事の最終更新は2019年01月29日です。

淡路島で高度急性期、急性期医療の提供に尽力する兵庫県立淡路医療センターは、特に救急医療、がん診療に力を入れています。また、島内で医療が完結できるよう、早くから地域の医療機関との連携体制を整えています。同院の取り組みについて、兵庫県立淡路医療センター院長の小山隆司先生にお話を伺いました。

当院は1956年に開院して以来、淡路島の急性期・専門医療の提供に尽力しています。

淡路島で60年以上にわたり医療提供をしている中で、ターニングポイントとなった出来事が3つあります。1つは2001年に地域医療支援病院の指定を受けたこと、2つ目は2007年に地域がん診療連携拠点病院の指定を受けたこと、3つ目は2013年に現在の地に新築移転したことです。

地域医療連携室を1992年に設置し、島内の医療機関との連携体制をいち早く強化していました。そのため、淡路島では普段はお住まいの近くのクリニックや診療所で診療してもらい、専門的な治療が必要な病気と診断された方にご紹介で診療する形式を早くからとって来ました。

 

淡路医療センター 外観

新築移転の際には、内装や外観にこだわりました。木目調の床を採用したほか、ぬくもりやあたたかみを感じられるような内装にしたことで、病院が持つ独特の雰囲気をなくすことができたと思います。

新しい病院は紡績工場の跡地に建設され、周囲には赤レンガ造りの旧工場を活用した施設が並んでいます。こうした周辺の景観を壊さないよう、レンガ造りを模した壁を採用しています。

地域救命救急センターとして、主に二次救急から三次救急の患者さんの受け入れに対応しています。

二次救急は一般病棟での入院治療が必要な状態で、三次救急は集中治療室での入院治療が必要な状態です。淡路島は急速に高齢化が進み、救急搬送される患者さんも高齢の方が多いです。患者さんが運ばれてくる原因となる病気も、骨折心不全から大腸癌による腸閉塞など多岐にわたることから、救急科での救急初期診療に引き続き各専門診療科での治療がスムーズにできなくてはなりません。

当院の救急科と各診療科、コメディカルは連携にも積極的で、緊急手術や検査までスムーズな対応が可能です。

 

救急訓練の様子

地域がん診療連携拠点病院の指定を受けてからも、淡路島でのがん診療の充実に力を入れて来ました。たとえば、肺がんの治療では内科的なアプローチから外科的な治療まで、患者さんの状態に合わせて治療方法を選択することができるように、呼吸器内科の充実を図りました。これは、淡路島で医療を完結させるためで、患者さんの病態や治療に対するご希望に添えるよう、放射線治療や抗がん剤治療、手術の体制を整えています。

淡路島の高齢化に伴い、転倒や、骨粗しょう症などを原因とした骨折の患者さんが増加しています。骨折で救急搬送される患者さんも多く、整形外科は地域医療を支えていくためになくてはならない診療科になっています。

高齢の方が元気で最期まで住み慣れた地域で過ごすことができるように、病気の予防に力を注いでいます。

高齢化の進行に伴い、入院治療後に在宅復帰をするものの、身体機能の低下から介護が必要になるケースも多く、最期まで自宅で健康に生活することが難しい患者さんの増加が、今後も予想されます。そのため、病気を予防することの大切さを淡路島に広めていこうと、島内の医療機関や行政と連携をとっています。たとえば、当院の整形外科医師である岩倉医師が中心となって、骨折予防のために骨粗しょう症対策の取り組みを開始しました。

心不全がまるで感染症の流行のように増加することを「心不全パンデミック」と呼び、今後、急速に高齢者が増加する日本国内ではその対策も急務といえます。高齢化を20年先取りする淡路島では、既に心不全の患者さんが急増しています。

そこで当院では、すでに心不全と診断されている患者さんや心不全の疑いがある方を対象に、予防と早期発見の両面からのアプローチを開始しました。この取り組みは、神戸大学と国立循環器病センターと連携して心不全に対する臨床研究として行っていくことも決まっています。将来的には、この研究が心不全パンデミックを少しでも抑えることに繋がればと考えています。また、半閉鎖地域である淡路島は臨床研究には打ってつけです。その特徴を最大限生かした面白い研究になればと、楽しみにしています。

当院は教育機関として、今後の医療を担っていく若手医師を多く受け入れています。淡路島で高度急性期医療や三次救急を担っているため、働くには大変な環境かもしれません。しかし、自己研鑽を重ね、地域医療を学ぶにはさまざまな症例を診ることができる環境でもあります。

 

淡路島まつりに参加した研修医の皆さん

当院で行っている独自の取り組みに、遠隔病理診断があります。これは、バーチャルスライドという技術で顕微鏡の画像をPC上で再現することで、当院の病理標本を他施設の病理医と共有し、診断のマルチプルチェックを可能にするシステムです

当院は、地域がん診療連携拠点病院の指定を受けていて、常勤病理医の所属が必須条件です。しかし、病理医の数自体が危機的に少ない状況で、地域中核病院であってもベテラン病理医の確保は至難の業ですが、このシステムの登場でたとえ経験が浅い病理医であっても他施設との連携で、正確で間違いのない診断が可能になりました。当院では神戸大学、長崎大学との連携のもと、これまで問題視されてきた「一人病理医」による誤診の発生確率を下げ、高い診断精度を確保できただけでなく、常勤医のレベルアップ(病理専門医資格の取得)や研修医・学生の教育にも成果を上げています。

当院は今後も地域に求められている医療を提供していきます。骨折肺炎など高齢の方に頻発する病気は多くあり、これらの治療をしっかりと行っていきます。

また、治療だけでなく病気の予防についても地域に向けて発信していくことで、皆さんが住み慣れた地域で最期まで生活して行けるように支えることが出来るのではないかと考えています。当院を中心に、淡路島を医療で元気にしていくことができればよいと思います。

苦楽をともにする仲間たち

若手医師には研究マインドを持ち続けてほしいと思います。患者さんを診療するだけでなく、その治療結果を自分なりに分析し、フィードバックすることが大切です。フィードバックがなければ何も残りません。どのような診療をして、どのような経過をたどるか分析し、次の医療につなげていってください。

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