私たちの生活に甚大な影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。国内でも徐々にワクチン接種が進むなか、副反応に関する報道などにより不安な気持ちを抱く方も多いでしょう。「副反応」や「有害事象」とはどのようなものか、その基本の知識を正しく理解することは、COVID-19やワクチンのことを考える際にとても重要です。本記事では、2021年4月9日に行われたセミナー「WHO(世界保健機関)と考える、非常時のメディアのあり方とは-新型コロナとワクチンをめぐる報道-」の内容をレポートします。【第3章 木下喬弘先生 講演前半】
【プログラム】
本日はまず「副反応とは何か」と「副反応と有害事象はどう違うのか」、次にmRNAワクチンの効果と安全性がどのように確認されているのか、最後にイスラエルの最新の研究についてお話しします。
まずは副反応とは何か、副反応と有害事象はどう違うのかについて。これはワクチンの話をする際に基盤となるもっとも重要なポイントです。ワクチンの副反応について考えるときには、まず「因果関係」をしっかりと理解する必要があります。疫学的な因果関係はどのように定義されているのでしょうか。
ある人にワクチンを接種して、ワクチンを接種する前と違う状態になったとしましょう。「ワクチン接種と因果関係がある」といえるのは、タイムマシンに乗ってワクチンを接種する前の状態にいったん戻り、ワクチンを接種しない未来を選択したときに、2つの状態が違うことを指します。一方、ワクチンを接種する前に戻り、ワクチンを接種しない未来を選んだとしても同じ状態になっていたのであれば、「ワクチン接種との因果関係はない」ということになります。
ここから分かるのは、「個人レベルで疫学的な因果関係を証明するのは不可能」であるということです。なぜならこの世にタイムマシンがないのですから。
まずはワクチン接種後に起きた好ましくない出来事に関して、「副反応」と「有害事象」という言葉の定義を覚えていただきたいです。
有害事象とは、ワクチンを接種した後に起きるあらゆる健康上の好ましくないことを指します。一方、副反応とは有害事象の中でワクチン接種と因果関係のあるものです。先の例でいうと、ワクチン接種後に何かが起きた方に関して「有害事象があった」と表現するのはまったく問題がありませんが、「副反応があった」と報道するのは非常に大きな問題になるということです。
それでは、ワクチン接種との因果関係はどのように調べたらよいのでしょうか。まず重要になってくるのが、「ランダム化比較試験」という臨床試験です。
ランダム化比較試験とは、研究の対象者を2つ以上のグループにランダムに分け、治療法などの効果を公平に検証する方法です。
たとえばmRNAワクチンに関するファイザー社の臨床試験では約4万人を集め、サイコロを振るかのごとくランダムに、ワクチンを接種する人と、プラセボ(偽薬)として生理食塩水を接種する人に分けました。そして2つの集団にどのようなことが起こるかを追跡することで、その事象の頻度の違いを元にワクチン接種との因果関係を調べたのです。
このようなランダム化比較試験から分かったことの1つに「有効性」があります。
ファイザー・ビオンテック社の新型コロナワクチンには、95%の有効性(発症予防効果)があり、モデルナ社のワクチンには94%の有効性があったと報告されています。
さて、ワクチンの有効性についてもう少し詳しく見ていきましょう。
以下のグラフはファイザー社の新型コロナワクチンに関する論文に載っている図表です。
横軸が初回接種からの日数、縦軸がCOVID-19を発症した人の割合を示しています。ご覧のとおり、プラセボを打った人は時間経過とともに一定の頻度で発症していきます。一方、ワクチンを打った人については最初のおよそ12日間は発症の頻度がプラセボ群とほぼ変わりませんが、その後に急激に分かれてほぼフラットになっています。
ここから読み取れることは2つ。1つ目は、ワクチン接種後12日間ほどは、プラセボ群と発症のリスクはほぼ変わらないということ。2つ目は、ワクチン接種後12日目くらいから効果が現れ始め、それ以降では発症した人の割合に明確な差があるということです。
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