連載WHO(世界保健機関)と考えるコロナ報道のあり方

【WHOセミナー】ワクチンに関する情報発信で抑えるべき12のポイント

公開日

2021年04月21日

更新日

2021年04月21日

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2021年04月21日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月21日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

人々の生活に甚大な影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。ウイルスやワクチンに関するデマ・根拠のないうわさによるインフォデミック(不確かな情報が感染症のように伝わり、社会が混乱する状況)が危惧されるなか、メディアはどのような点に留意して情報を発信すればよいのでしょうか。また、情報の受け手である私たちは、それをどのような態度で見るべきでしょうか。2021年4月9日に行われたセミナー「WHO(世界保健機関)と考える、非常時のメディアのあり方とは-新型コロナとワクチンをめぐる報道-」から、12のポイントをまとめました。【第1章 芝田おぐさ先生講演】

【プログラム】

誤った情報やうわさは時にウイルスよりも危険な存在に

誤った情報やうわさは、ともすればウイルスよりも早く伝播し、危険な存在です。正しい情報と不確かな情報が大量に混ざり合い、信頼できる情報源や知識が見つけにくくなることを「インフォデミック」とWHOでは表現し、注意喚起を行っています。今、メディアによる質の高い情報提供がこれまでにも増して重要になっているのです。

今、パンデミック(世界的な大流行)をコントロールするために新型コロナワクチンには大きな期待が寄せられていますが、まだ分かっていないこともあります。たとえばワクチンを打てば他人に感染させないのか、ワクチンの効果の持続性、いつパンデミックを抑制できるのかの見通しなどは、まだ明らかになっていません。これらが明確になるまでは、ワクチンを接種したとしても人と物理的距離を取ることや、マスクを着けるなどの行動を合わせて行うことの重要性も強調したいと思います。

人が行き交う交差点 写真:PIXTA

写真:PIXTA

次項より、ワクチンに関する専門的報道における12のポイントをお伝えします。これは新型コロナワクチンに限らず、全ての科学的情報の報道に通じるものです。

1:ヘッドラインのみを報道しない

報道の際には、専門的な論文、研究の報告書、プレスリリースなどに目を通すことがあると思います。それらの文書は、基本的にヘッドライン(見出し)、サマリー(要約)、本文で構成されていますが、中には誤解を招きやすいヘッドラインが使われているものが存在するため、注意が必要です。必ず全体像を把握することが重要です。

たとえ事実が同じでも、表現によって受け手が抱く印象は大きく変わります。たとえば「コップに水が50%ある」という事実を「コップに水が半分も残っている」とするのか、「コップに水が半分しか残っていない」とするかで、受け手の抱く印象は随分異なります。

論文などを見る際には、必ず本文を読んで事実を確認し、主張の根拠となるデータはどれか、データの解釈に誤りはないかなど、批判的に内容を検討することが大事です。

2:データを無批判に信用しない

あらゆるデータについて、収集・分析方法・解釈に誤りやバイアスがないか検討することが重要です。方法としては、可能な限りオリジナルのデータにあたり、そのデータがどのようにして得られたのか、研究方法を記載するのがよいと思います。

ミスリーディングを生みやすい表現の一例として、たとえば以下のグラフのように、途中でグラフを切ることでパッと見た限りそれほど差がないような印象を受けますが、実際にはAはBの3倍、Cの12倍もあるのです。

芝田先生ご提供資料より一部改変して掲載

特に、ワクチンに関するデータは限られた条件で収集・分析された可能性があると認識したうえで、適切に解釈する必要があります。一般的に、試験を行った関係者の関心の方向性によって、たとえ悪気がなくともデータの収集・分析方法に誤りやバイアスが生じてしまう可能性があります。さらに新型コロナワクチンに関しては通常よりも早い査読プロセスを経て各論文が発表されているため、より注意し、批判的な観点から精読していただく必要があります。

3:信用できる情報源を使う/4:情報源を明記する

COVID-19のパンデミックを経験し、首相官邸厚生労働省PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)を始めとした公的機関の情報発信は改善が重ねられ、アクセスしやすく・読みやすくなっています。また、新型コロナワクチン公共情報タスクフォースなど、専門家がイニシアチブを発揮して質の高い情報を発信するウェブサイトなどもあるため、信頼できる情報源をストックし、閲覧できるようにすることをおすすめします。

なお、特定の分野において信頼されている専門家をどのように見極めればよいのかについては、その領域で査読付きの論文を出しているか、あるいは論文が発表されている学術誌が第一級のものかが1つの目安になると思います。

さらに、情報源を明記することは、リテラシーの高い受け手にとって深掘りしたい情報にすぐアクセスできることにつながるため非常に有意義です。

5:専門用語を定義する/6:明確な言葉を使う

COVID-19に関する専門用語は公的機関のホームページなどで定義されていることが多いため、その内容を記事に併記したり元ページへのリンクを掲載したりすることで、受け手に正確な情報を伝えることが大切です。

また、いかに分かりやすく受け手に伝えるかは重要な課題です。個人の理解度によらず全ての人が理解できるよう、明確で平易な言葉を使うことが重要です。最近では、なるべく平易な言葉を使うよう心がけている専門家の方が多くいるので、彼らの使っている言葉を採用するとよいかもしれません。

7:研究の段階を示す/8:数字を明確にする

一般的に、ワクチンの開発は基礎研究、非臨床試験、臨床試験という3つの段階を経て薬事承認されています。ただし、新型コロナに関する研究は概して人々の注目度が高く、研究・試験の途中で報道に取り上げられることも多いです。そのことを踏まえ、報道の際には、その研究がどの段階にあるのか、研究の背景にある数字(試験の規模、検査した数、期間など)を明記することが重要です。

9:副反応の情報を開示する

新型コロナワクチンは過去に例を見ないスピードで開発・承認されています。一般的に、ワクチンに見込まれる副反応や臨床試験で見られた副反応を報道することは人々に必要な情報を提供し、不安を和らげることに役立つとされています。情報の透明性が担保されることにより、受け手は自らのワクチン接種の判断に必要な情報が得られていると感じ、それにより安心感を持つことができるのです。

10:適切な画像を用いる

ワクチンの報道において、画像の選択はとても重要です。ワクチン効果・安全性と注射針の痛みは無関係ですから、不要に恐怖心や不安感を与える必要はありません。よい例としては、ワクチン接種者(医療従事者)や患者さんなどさまざまな人々の画像です。一方、悪い例としては不安そうな人や泣いている乳幼児、大き過ぎる注射針などが挙げられます。

芝田先生ご提供資料より一部改変して掲載

11:人口の属性に考慮する

ワクチンは、全ての人に同等の効果を発揮するわけではありません。そのためワクチンの有効性について報道する際には、臨床試験の参加者の性別・年齢などの特徴に注意することが重要です。臨床試験の参加者に関する情報は、通常、論文の表1に記載されていることが多いので、そちらをご参照ください。

12:ワクチンのメリットを伝える

新型コロナワクチンに限らず、有効性があるとされるワクチンに関する情報は、ワクチン接種を考えている人々にとってとても重要なものです。報道を通じてワクチンの有効性に関する事実やデータを伝えることは、人々のワクチンへの不安を解消し、ひいてはCOVID-19流行の収束につながると考えられます。多くの誤った情報があふれる今、ワクチンが人類の歴史で果たしてきた役割と価値について情報を提供することの重要性を感じています。

報道の参考になるWHOのウェブサイト

本日はありがとうございました。

最後に、報道の参考にしていただきたいWHOのウェブサイト(英語)をご紹介します。

  1. 本部の新型コロナウィルス感染症のトップページ(日々の集計データが反映されるダッシュボードや、週2回の定例記者ブリーフ<説明会>のアーカイブにもアクセスできます)
  2. 西太平洋地域事務局トップページ
  3. WHO新型コロナワクチン特設ページ
  4. WHO新型コロナワクチン解説コーナー
  5. トピック解説:変異株とワクチンについて(アニメ動画あり)
  6. インフォデミックの問題に取り組むEPI-WINチームのサイト(公衆衛生上の危機などの情報を、適時に・正確に・理解しやすく・信頼できる情報源から提供することを趣旨につくられたサイトです。現在は新型コロナ感染症の話題が多く取り上げられています)
  7. 学習プラットフォームOpenWHO(世界の医療・公衆衛生関係者向けに提供され、無料で登録・学習可能です。さまざまな健康課題に関するコースがあり、COVID-19関連のページもあります)
  8. オンラインコース「パンデミックにおけるジャーナリズム:COVID-19の報道の今とこれから」(ジャーナリストの方向けのオンラインコースです)

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。