私たちの生活に多くの影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。イギリスや南アフリカ、ブラジルに加え、国内でも報告されている変異ウイルスの影響がどれほどのものか、不安に感じている方もいるでしょう。2021年4月9日に行われたセミナー「WHO(世界保健機関)と考える、非常時のメディアのあり方とは-新型コロナとワクチンをめぐる報道-」から、変異ウイルスはどのような点で問題になるのかをまとめました。【第4章 峰宗太郎先生 講演2】
【プログラム】
こちらのページで、ウイルスの変異は常に起こっているとお伝えしました。
下の図は、「nextstrain」というウェブサイトで公開されている新型コロナウイルスの変異の系統樹です。
点の1つ1つが変異ウイルスで、変異があるたびに枝分かれして描かれています。監視されているものだけでこれほどあるのですから、それ以外を含めると膨大な頻度で変異ウイルスは生まれていると予想されます。
次に、新型コロナウイルスが変異する頻度と速度を見てみましょう。
上の図は縦軸がウイルスの変異数、横軸が時間経過で、変異の大まかな平均速度が分かります。1年におよそ21.2回(つまり1カ月におよそ1.8回)変異していることが分かります。つまり、1カ月に2回弱は新型コロナウイルスの変異が起こっている、ということです。
ウイルスの変異というのは非常に自然なことであり、それ自体は騒ぐ必要はありません。そして、新型コロナウイルスの場合は、RdRp(RNA依存性RNA合成酵素)という酵素に「校正機能(コピーされる際のエラーを修復する機能)」があるため、一般的なRNAウイルスよりも変異のスピードが遅いことが分かっています。
どのような変異ウイルスが問題となり得るのかというと、▽伝播性の上昇▽病毒性の上昇▽ワクチン逃避、薬剤の耐性の獲得――の3つです。
1つ目の「伝播性の上昇」は、人から人へ伝播しやすくなる(感染が広がりやすくなる)ことです。伝播性のことを「感染力」と呼んでいるメディアが見受けられますが、これは間違いです。感染力というのはウイルスが細胞に入りやすくなることなどを意味しますので、伝播性と感染力の2つは厳密には言葉を分けるべきでしょう。2つ目の「病毒性の上昇」は、ウイルスに感染したときの重症化率・致死率が上がること。最後の「ワクチン逃避、薬剤の耐性の獲得」とは、ワクチンや薬が効きにくくなる・効かなくなることです。
ここで、性質の変化が懸念されている新型コロナウイルスについてお伝えします。
下の図表は新たな変異ウイルスをまとめたものです。
今話題になっているのは、イギリス型といわれる「B.1.1.7」、南アフリカ型といわれる「B.1.351」、ブラジル型といわれる「P.1」です。
では、問題となる3つの性質の変化について、今分かっている情報をお伝えします。
まず伝播性の上昇について。イギリス型は伝播性が上昇していることは確実ですが、それがどの程度のものか具体的なデータについては実証がなされていない状況です。
次に、病毒性の上昇について。イギリス型は、変異のないウイルスに比べて35〜36%ほどの致死率の上昇が認められました。ただし元々の致死率が1%ほどですから、上昇の結果としても1.35〜1.36%と低く、個々の患者さんへのインパクトは大きくありません。ただし、現場で治療する医療者にとっては重症化しやすい・治療しにくいといった感覚として現れる可能性はありますし、国や行政など管理する立場としては把握しておく必要がある重要な数字だと思います。
最後は、ワクチン逃避の問題です。新型コロナワクチンはスパイクタンパク質をターゲットにしているため、スパイクタンパク質が変異すると中和抗体が付着できなくなる可能性があります。このように、抗体に反応しなくなるよう変異したウイルスが免疫から逃れて生き残ることを「免疫逃避(エスケープ)」と呼び、環境の変化に順応した少数派が生き残りやすくなる状態を「選択圧がかかる」といいます。
どのようなときに選択圧がかかるかというと、抗体がある状態でウイルスの培養を続けることで、時間の経過とともに変異が蓄積することが分かっています。この中に今話題になっている「E484K」という変異があり、E484Kは南アフリカ型、ブラジル型にも含まれています。つまり、この2つはワクチン逃避の可能性があるということです。
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