心臓は生まれてからずっと動き続けている臓器であり、それを手術するということは非常に大変なことです。しかし、近年は技術が進歩しており、以前と比べてかなり安全に心臓の手術を受けられるようになりました。心臓の手術の中でも体への負担が少ない「低侵襲心臓手術(MICS)」については、別記事で説明しました。この記事では、この低侵襲心臓手術の費用などについて、引き続き千葉西総合病院の中村喜次先生にお話を聞きました。
まだ全ての施設で行われているわけではありませんが、少しずつ普及してきています。弁膜症の手術について言えば、4分の1くらいの施設で行われているのではないかと言われています。いずれにせよ、受診した病院で必ずこの方法を行っているわけではないので、心臓の手術が必要となり低侵襲心臓手術を希望する人は、まず実施している施設にセカンドオピニオンを聞きに行くのがよいでしょう。
普通の方法で行う心臓手術と費用は全く変わらず、医療保険で行います。低侵襲心臓手術を選んだことによる追加の費用などはありません。
心臓以外に大きな問題がなく、早く回復して社会復帰したい方などには低侵襲心臓手術が向いていると思います。また、逆に全身の状態が悪い方で、従来の手術方法で耐えられるか悩むような場合でも、この方法がうまく行くことがあります。
治療する部位が複数にわたる場合(冠状動脈と弁など)や治療の作業に時間がかかる(弁の修復など)ような場合では、視野が狭いこの方法は不向きであり、従来の方法で行うことを勧めます。また、呼吸機能が悪い方や以前に肺の手術をしたことがある方などは、この方法を受けられません。
患者さんの条件も病院側の条件も、低侵襲心臓手術でも従来の心臓手術でもどちらも安心して受けられる状態ならば、体への負担が少なく回復も早い低侵襲心臓手術をすすめます。
※「カテーテル治療」とは、カテーテルと呼ばれる医療用チューブを足の付け根にある太い血管から通して、血管の中を進めて心臓まで到達し、心臓の治療を行う方法です。
最近、カテーテルの治療で弁膜症(大動脈弁のみ)を治療する方法が普及し始めています。確かに、この治療は心臓を止めたりせず、いわゆるメスで心臓を切るような治療は行わないので、体への負担という点では最も軽いです。ただし、この治療は現在のところ大動脈弁の病気にしか行えません。また、今の医療保険制度では、従来の心臓手術を行うことができないほどに体の状態の悪い方など、手術のリスクが高い方に限られます。
そして、専門家の共通認識では「手術ができる人であれば、現段階ではカテーテルによる弁膜症治療ではなく、手術を行う方が良い」とされています。
カテーテルによる弁膜症治療は受けている患者さんが限られており、治療成績も手術と単純に比較することはできません。いずれにせよ、患者さんによって身体の状態も異なるので、それぞれの治療のメリット・デメリットをよく聞いて、主治医の先生と相談してください。
記事1:心臓の手術―どのような種類があるの?手術時間は?
記事2:低侵襲心臓手術ってなに?―メリットとデメリット
記事3:低侵襲心臓手術のいろいろ―どこでも受けられるの? 費用は?
千葉西総合病院 心臓血管部長、低侵襲心臓手術センター長
千葉西総合病院 心臓血管部長、低侵襲心臓手術センター長
日本心臓血管外科学会 会員日本胸部外科学会 評議員・認定医日本外科学会 外科認定医・外科専門医日本血管外科学会 会員日本循環器学会 会員日本心臓病学会 会員日本冠動脈外科学会 会員日本冠疾患学会 評議員日本低侵襲心臓手術学会 代議員・幹事The international society for minimally invasive cardiothoracic surgery member三学会構成心臓血管外科専門医認定機構 心臓血管外科専門医・心臓血管外科修練指導者ロボット心臓手術関連学会協議会 認定術者・認定プロクター日本ロボット外科学会 国内B級認定ロボット手術専門医・国内A級認定ロボット手術専門医・国際B級認定ロボット手術専門医
1996年、愛媛大学医学部を卒業。現在は、千葉西総合病院 心臓血管外科 部長として、低侵襲心臓手術を軸に置いた外科治療を行っている。
特に2010年より海外で研鑽を積んだロボット心臓手術に関しては、臨床、研究ともに日本をリードしており、日本のロボット心臓手術の発展に貢献している。
中村 喜次 先生の所属医療機関
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