日本医療機能評価機構によると、2014年に全国の医療機関から報告のあった医療事故は3,194件で、集計開始以来最多の件数を更新しました。医療事故が注目されることが多くなってきていますが、医療事故とは具体的には何を指すのでしょうか。今回は医療事故の概要について、医療安全対策のスペシャリストであり東京大学医学部附属病院救命救急センター長の中島勧先生にお話をお聞きしました。
医療事故とは、「医療機関において起こった予想外の傷害のこと(傷害の原因としての過誤/ミスの有無は問わない)」を指します。医療事故と言うと患者さんやそのご家族が被害を受けるイメージが強いかもしれませんが、実は医療従事者側が被害者になることもあります。たとえば医師や看護師が診療において負傷してしまった、感染してしまったという場合も医療事故になりえます。
様々な報道などで用語が混在していますが、医療者側にミスがあった場合には医療事故ではなく、「医療過誤(医療ミス)」として区別されることがあります。
それでは、医療過誤とはいったい何なのでしょうか。
薬を間違えた、人を間違えた、輸血する血液型を間違えた、手術する部位や手術する人を間違えたなど、医療従事者側に明らかな間違いがあって患者さんが被害を受けた場合は医療過誤とされます。医療過誤が広く注目されるきっかけとなったのは、1999年に起こった横浜市立大学医学部付属病院の患者取り違え事故です。心臓の手術をすべき患者さんと肺の手術をすべき患者さんが取り違えられて、間違った手術が行われてしまいました。このように、全く本来の治療目的とは性質の異なる間違いをしてしまった場合は医療過誤として認められます。
一方で、本来の治療目的の延長線上として予想できる事故は、必ずしも医療過誤であるとはいえません。たとえば、手術を行った際に患者さんが予想以上の出血をしてしまい、そのまま命を落としてしまったとします。これは医療過誤になるでしょうか。
大きな手術には多かれ少なかれ出血が予想されます。たしかに、輸血を用意していなかったり、出血の可能性を医療従事者側が患者さんや家族に事前説明していなかったりすれば、それは問題です。しかし、それが危険な手術であり大出血の可能性もあることを事前に説明していれば、出血によって命を落としてしまう可能性があることはそもそもの治療の目的の延長線上に予想できることであり、必ずしも医療過誤であるとはいえません。