医療事故を防ぐためには、正確な情報収集をする必要があります。医療事故の報告件数は年々増えていますが、その背景は何なのでしょうか。また、医療事故調査制度は2014年に成立した新制度であり、2015年10月1日より施行が開始されます。どのような経緯でこの制度は成立したのでしょうか。また、どのような目的をもって施行されるのでしょうか。東京大学医療安全対策センター長であり、医学部附属病院救命救急センター長でもある中島勧先生にお話をお聞きしました。
日本医療機能評価機構によると、医療事故の報告件数は、2008年に1,500件程度だったのに対し2014年には3,000件を超えています。これは、「医療事故そのものの発生件数が増えている」というよりは、「医療事故に対する意識が高まっており、起こった時の報告件数が増えている」といえるでしょう。報告件数が増えることは医療に対する関心が高まっていることであり、喜ばしいことでもあります。現場で見ていても、以前に比べれば医療事故そのものは、様々な防止の仕組みの導入によりかなり減ってきているように思えます。
医療事故の報告件数
年 2005200620072008200920102011201220132014
報告件数報告義務1,1141,2961,2661,4401,8952,1822,4832,5352,7082,911
任意参加151155179123169521316347341283
合計1,2651,4511,4451,5632,0642,7032,7992,8823,0493,194
医療機関数報告義務272273273272273272273273274275
任意参加283300285272427578609653691718
合計555573558544700850882926965993
医療の安全性を高めるためには、医療機関でどのような事故が起こっており、その原因が何かを調べることが重要となります。医療事故調査制度とは、それらの情報を収集・分析して原因究明及び再発防止を図ることで、医療の安全と質の向上を図るための制度です。
これまでは、上記の通り医療機能評価機構が指定された医療機関の医療事故に関しての情報を収集してきました。しかし、情報収集の対象になっていない医療機関のほうがはるかに多く存在したため、それらの情報は限定的でした。今回成立した医療事故調査制度は、助産所や診療所も含めた幅広い医療機関からデータを集めるように改良されており、重要な情報を見落とさず、医療の安全と質の向上に役立てることを目指しています。
具体的には、診療行為に関連して患者さんが亡くなり、その発生が予期されていなかった場合には、医療機関の管理者である院長は第三者機関である「医療事故調査・支援センター」に報告しなければなりません。その後、医療機関は院内で事故の原因を調査し、調査結果を遺族に説明した上で第三者機関に報告します。
ただし、医療事故調査制度はあくまでも医療機関のデータを収集して安全に役立てることを主目的に作られた制度であるために、患者さんのニーズに十分応えられない部分もあるかもしれません。具体的には、「医療事故かどうかを決めるのは医療機関である」、「原則として、調査を行うのは中立的機関ではなく院内調査である」、「報告書は第三者機関に対して提出されるが、患者さんには渡されない場合がある」など、患者サイドからは様々な課題が残っているとされています。