医療事故関連の報道は多くなされており、今後もますます注目されると予想されます。医療事故はなぜ起こってしまうのでしょうか。医療事故の原因について、医療安全対策のスペシャリストであり東京大学医学部附属病院救命救急センター長の中島勧先生にお話をお伺いしました。
医療事故の原因には様々なものがありますが、ヒューマンエラー(人の手によって起きてしまう事故)が中心です。
医療機関におけるほとんどの医療行為は人の手によって行われます。医療を提供する側も、医療を受ける側も、ロボットではなく人の手によって行いたい/行ってほしいという思いがあります。そのため、現代でも、ロボット手術など一部の特殊な行為を除いて、基本的な医療行為はすべて人の手によって行われています。しかし、「人は間違えるもの」ですから、人の手が治療を行うことによって、かならずある一定の確率で間違いが生じてしまいます。
医療事故の件数を減らすという観点のみで見れば、もっと機械的にやれば事故は減る可能性はあります。しかし、人と人との接触が望まれる医療界においてそのようなことは医療従事者も患者さんも望んでおらず、ヒューマンエラーが減ることもなかなかありません。
人の教育を行う、人を増やす、人のミスを減らすための機械を導入するなどすれば、医療事故は減るのかもしれません。しかし、医療費を削減するというのが日本の医療の大きな流れであり、ほとんどの医療機関は教育、採用やシステム導入などに十分なリソースをかけることができず、医療事故がなかなか減らない背景になっています。
私が専門にしている救命救急の領域においても、残念ながら多くの医療事故が発生します。
救急科診療において事故が起こってしまう場合には、複数の患者さんを同時に診ているということが大きな要因になっている場合が多いと思います。他の診療科の医師の場合、外来でも病棟でも通常は一人の患者さんを相手にして、順番に診察を行います。この場合、前に診察した患者さんを後でふりかえって診ることはほとんどありません。
一方、救急外来では一度にたくさんの患者さんが運ばれれば、その患者さんたちを同時に診ます。これは、病棟で複数の患者さんの看護をする看護師に近い方法です。このようなマルチタスクであれば、採血された血液が入っているふたつの試験管を同時処理しようとして、間違えて逆に名前のラベルを貼ってしまうなどのミスが発生しやすくなります。