医療事故を減らすためには何が重要なのでしょうか。医療安全という観点だけではなく、医療そのものの目的という観点から、東京大学医学部附属病院救命救急センター長兼医療安全対策センター長の中島勧先生にお話をお聞きしました。
ヒューマンエラーをなくすためには、間違いだと思ったら間違いだと言える雰囲気づくりを病院全体で行うことがもっとも大切です。たとえば研修医と上級医、医師と看護師など、医療従事者間で何か変だと思ったときに、躊躇することなく言い合えるようなフラットな関係ができれば間違いも減っていくでしょう。少なくとも医療安全の立場から見れば、「医者がやっているから正しい」という絶対的な見方ではなく、看護師でも検査技師でも平等にものを見て判断しようというような気持ちを全員が持つ必要があります。
患者さんも一緒に治療に参加するのだと心がけてみてはどうでしょうか。患者さん自身も、私たちと同じく医療チームの一員ですし、自分の体のことが一番分かっているのは、患者さんご自身やご家族です。ご自身が手術を受ける際など、自分にされる治療に対して高く意識をもって治療や病気に向き合うことで、医療安全は大きく向上するでしょう。たとえば点滴をされるとき、患者さん自身が自分の名前がきちんと書いてあるか確認してみることも大切です。そこで事故が未然に防げる可能性も十分に考えられます。患者さんは治療を進めるにあたり、最後の砦となることもあります。
何かおかしいなと気が付いたとき、医師や看護師に患者さん自らがそれを言えるような関係を普段から構築していくことが重要です。私は整形外科の外来も行っていますが、私の外来にくる患者さんは治療に慣れているので、「この前の注射より、今の注射のほうが良かった」というふうに言ってくれます。そのように、患者さんが医療従事者に教えてくれることはたくさんあり、医療安全も同じです。患者さんやご家族が異常に気付いたとき、自発的に医療従事者に申告することが、医療安全につながっていくのです。
医療安全を考えるためには、まず、医療の役割とは何であるかということについて考えなければなりません。医療の目的を「病気を治すこと」と定義した場合には、安全を目的とするシステムの導入などにより個々の医療事故を減らしていくことが重要になります。
しかし私は、医療の目的は「病気を治すこと」だけではなく「患者さんの不安を取り除く」ということにもあると考えています。医療機関の役割も「病気を治すことを通じて地域の安心感を生むこと」だと考えているので、どうすれば患者さんが安心して医療を受けられるか、また医療従事者が安心して医療を提供できるかということを考えるようにしています。その観点においても、医療従事者と患者さんが良質なコミュニケーションをとることが重要なのです。