インタビュー

セロトニンと鬱病の関係。脳におけるセロトニン神経から現代社会を考える

セロトニンと鬱病の関係。脳におけるセロトニン神経から現代社会を考える
有田 秀穂 先生

東邦大学 名誉教授

有田 秀穂 先生

この記事の最終更新は2015年10月02日です。

鬱病は、現代社会において国民病ともいえるほど増加してきています。鬱病とセロトニン神経の関係は密接であり、セロトニン神経を活性化することによって鬱病を根治に向かわせることができると東邦大学名誉教授・セロトニンDojo代表の有田秀穂先生はおっしゃいます。セロトニン神経と現代社会の見解について、有田秀穂先生のご経験に基づいたご意見についてお話頂きました。

鬱病患者は2000年以前には20万人前後でした。ところが、2015年現在では100万人の鬱病患者がいると推定されています。この短期間で急激に3倍~4倍近くに増えているのです。一体なぜでしょうか? その理由はセロトニン神経の活性化の特性から説明できます。

『セロトニンを増やすために。脳におけるセロトニン神経を活性化させるには』でもご説明しましたが、活性化因子は運動と太陽の光とグルーミングです。現代生活において、これらが急激に私たち人間の社会生活の中から失われつつあるのです。

パソコン・スマートフォンの普及に伴い、日本は運動しなくとも日常生活を送れる時代に到達しました。つまり、運動しなくても暮らせる生活が日常化したのです。

具体的には、パソコンで朝から晩まで生活している人の急増です。先に紹介した鬱病患者の増加率は、2000年以降急激に増加したインターネットの普及率に比例します。パソコンひとつで何でもできてしまう世の中は大変素晴らしいものです。しかし、この便利な生活にはまってしまうとセロトニン神経は衰えていってしまいます。

パソコンと向き合って過ごす生活は、指先だけを動かし、頭だけを使う生活です。体を動かすことはほとんどありません。『セロトニンを増やすために。脳におけるセロトニン神経を活性化させるには』で述べた活性化の方法を全く行えませんね。これは、セロトニン神経の活性化という観点から見ると非常に悪影響です。

太陽の光を浴びない生活も当たり前のようになってきています。働いている方は、ホワイトカラーであればオフィスのなかで四六時中パソコンを打っています。これはセロトニン神経にとっては最も避けるべき状況です。太陽の光を浴びない生活は、結果としてセロトニン神経が衰えてしまい、段々集中力が悪くなったり朝の寝覚めが悪かったり、不定愁訴(原因がはっきりしないけれども体調が悪いと感じたり、体のあちこちが痛んだりすること)がでたりする危険性があります。

現代社会でセロトニンを活性化させるのは、状況的になかなか厳しい面があります。しかし、そんな状況下でもセロトニンの活性化は不可能ではありません。そのカギはグルーミングにあります。

『セロトニンを増やすために。脳におけるセロトニン神経を活性化させるには』のとおり、グルーミングは人と人とのおしゃべりが要となります。

パソコンが入ってきてどのような生活をするようになったかというと、パソコンを介してインターネット上でコミュニケーションをするスタイルです。私としては、直接人とコミュニケーションをとる機会が激減しているように感じています。仕事の最中も、自宅に帰ってからも、始終パソコンかスマートフォンをいじっている生活になりつつあります。これでは機械と付き合っているようなものです。

この状態ではグルーミング行動がないため、オキシトシンもセロトニンも出てくれません。つまり私たちは、現代において常にセロトニンとオキシトシンが不足しがちな環境下におかれているのです。

現代生活は便利で快適になりました。しかし、それが普及した結果、起こってきている一種の生活習慣病として、セロトニン欠乏脳は当てはまるのではないでしょうか。

ですから、それを改善するために、『セロトニンを増やすために。脳におけるセロトニン神経を活性化させるには』で紹介したセロトニン活性の取り組みを行い、脳内セロトニン濃度を高めてあげればいいのです。

パソコンを使わない生活は、現代社会においては無理に等しいといえます。ですから、パソコンをきちんと使いながらも、しっかりとセロトニンを活性化させる取り組みをやっていきましょう。

会社員であれば、仕事終わりに少し同僚と飲んで帰る。主婦の方であれば、ママ友の方々とお茶をする。このように少しグルーミング行動を意識すれば、セロトニン欠乏脳にはなりません。鬱の患者さんも減り、パソコンも十分に使いこなすことができます。そういう社会は無理なく作れると私は考えています。

重要なことは、セロトニン神経が弱る理由を知り、弱ってしまったときの本質的な治療は3つの活性化因子を日常生活のなかに取り入れることであると知り、心のリハビリをするということを、皆さんが理解していくことです。