インタビュー

ストレスでセロトニンが不足する。セロトニン神経が弱るのはなぜか

ストレスでセロトニンが不足する。セロトニン神経が弱るのはなぜか
有田 秀穂 先生

東邦大学 名誉教授

有田 秀穂 先生

この記事の最終更新は2015年09月30日です。

セロトニン神経は非常に繊細で弱りやすく、セロトニン神経が弱ることによって心身ともに様々な症状があらわれます。なぜセロトニン神経は弱ってしまうのでしょうか。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)の効果も含めて、東邦大学名誉教授・セロトニンDojo代表の有田秀穂先生のご経験に基づいたご意見についてお話頂きました。

セロトニン神経が弱ってしまう最大の要因は、ストレスです。

私たちの体は、どうしても解決できないものごとが続いた場合、ストレス中枢が興奮するようになっています。それは、今日、視床下部・下垂体・副腎軸というストレスシステムとして知られています。これをもっと詳しく説明すると、視床下部のストレス中枢が興奮すると、副腎皮質からストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールという物質が分泌されるしくみです。興奮したストレス中枢は、脳幹にあるセロトニン神経を直接抑制することによって、脳内のセロトニン分泌を落としてしまいます。

やがてセロトニン神経が弱っていくと、5つの脳機能(詳細は『脳におけるセロトニン神経の特徴』)が十分に活動しなくなり、セロトニン欠乏脳という状態に陥ります。セロトニン欠乏脳とは、脳の中にセロトニンが十分に存在していない状態です。セロトニン欠乏脳になると、慢性的に寝覚めが悪い、心のバランスが不安定、自律神経失調症、あちこちに慢性的に痛みを感じる、姿勢のゆがみなど多岐にわたった症状が現れます。

脳の中のセロトニンは、軸索を介して脳の様々な領域に影響を与えます。その活動が、鬱や不安障害を代表としたメンタルヘルスの問題に関わってくるといえます。ですから、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)のような、セロトニンに働きかける薬が開発されてきているのです。

セロトニン欠乏脳になってしまった方々に対する特効的な治療薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)です。SSRIとは、脳の中のセロトニンを増やす働きをします。つまりSSRIは、脳の中のセロトニン濃度を高く維持する薬といえます。

セロトニンは、セロトニン神経が標的神経に情報を伝えるときにシナプス間隙に分泌される神経伝達物質です。その分泌されたセロトニンがシナプス間隙で余ってくると、セロトニンはセロトニン神経末端に戻す機構(セロトニン・トランスポーター)を持っています(それを「再取り込み」と言います)。

つまり、セロトニン神経はリサイクル回路を持っているのです。このリサイクル回路をブロックするのがSSRIで、その名の通り、S=選択的 S=セロトニン R=再取り込み I=阻害剤 という役目を果たしています。SSRIという薬によってセロトニンの再取り込みを抑えることで、ストレスでセロトニン分泌の少なくなったセロトニン欠乏脳の症状を改善させることが可能となります。それがこの薬の役割です。

日本は1999年から16年間にわたって、鬱病患者さんに対してこのSSRIという薬を使い続けてきました。

しかし現在では、精神科領域で、SSRIという薬を使い続けていいのかという議論が上がっています。なぜなら、SSRIを10年以上服用しているにもかかわらず、鬱病が治らない患者さんが実際に多々存在するからです。

その理由は、SSRIの作用機序(薬が効くメカニズム)に問題があります。薬を使っている限り、脳内のセロトニンレベルを高く維持出来し、症状は改善されますが、セロトニン神経が分泌を減らす原因が解消されていない場合には、薬を止めるとまた再発してしまうという点です。

すなわち、SSRIを代表した抗うつ薬は対症療法にしかなりません。前述のとおり、鬱症状があれば、SSRIを服用することでセロトニン濃度を改善し、その症状を和らげることは可能です。脳の中のセロトニンが低くなっている部分を元に戻す働きをしているため、薬を使い続けているかぎりセロトニンレベルを高く維持できることは明らかです。これで症状が改善できることは理解できるでしょう。

しかし、薬を減らしたとたん、脳内のセロトニンは再び欠乏状態に陥り、症状がぶり返してしまいます。この結果、最終的な減薬・断薬ができず、SSRIの依存状態になってしまっている方がたくさんいます。これが現在、大きな問題になっているのです。

熱が出たとき、解熱剤だけ使い続けても病気が治らないのと同じように、SSRIだけを使っていても、セロトニン神経がなぜ弱るのか、どうしたら活性化できるのかという根本的な原因に踏み込んでいないため、SSRIの服用だけではおおもとからセロトニン欠乏脳を解決することはできません。根本的にセロトニンが枯渇しない体をつくらなければいけないのです。

たとえば、元々健康だったけどストレスで鬱になった人がセロトニンDojoにはいらっしゃいます。その方々はだいたいの場合、最初は精神科や心療内科でSSRIなどの抗うつ薬を処方され、それらを服用しています。しかし、前述のとおり、薬が切れるとまた症状が出てきてしまいます。これは本質的な解決法ではありません。薬に頼らずとも、いかに脳内のセロトニンレベルを上げるか―これが根本的に考えるべき事柄です。

そうすると、セロトニン欠乏脳に対して何をすることがポイントなのかを考えなければいけません。

重要なことは、セロトニン神経の性質を理解することです。具体的には、セロトニン神経にはこういった特性があり、このような条件下で弱ってしまい、どのようにすればセロトニン神経を活性化できるかといったことです。これを理解することが本質的な治療であり、セロトニンDojoではそれらを患者さん方に教えています。

 

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