インタビュー

セロトニンを増やすために。脳におけるセロトニン神経を活性化させるには

セロトニンを増やすために。脳におけるセロトニン神経を活性化させるには
有田 秀穂 先生

東邦大学 名誉教授

有田 秀穂 先生

この記事の最終更新は2015年10月01日です。

セロトニン神経は非常に繊細であり、ストレスによって弱ってしまうことも多いと『ストレスでセロトニンが不足する。セロトニン神経が弱るのはなぜか』で解説していただきました。それでは、セロトニン神経を活性化し、鬱状態を回復させるにはどうすればいいのでしょうか? 引き続き、東邦大学名誉教授・セロトニンDojo代表の有田秀穂先生のご経験に基づいたご意見についてお話頂きました。

セロトニン欠乏脳の治療を考えたとき、注目すべき点は、「どうすれば活動のレベルを上げられるか?」すなわちどうすればセロトニン神経を活性化できるか? を考えることにあります。私は、以下の3点を有力な方法として考えています。

リズムの運動とは、ダンスなどの特殊なリズム運動ではなく、歩行・呼吸・咀嚼など、日常生活レベルのリズム機能を行うことです。

具体的に述べると、歩行のリズム運動とはウォーキング・ジョギング・自転車こぎ・スクワットなどが当てはまります。ウォーキングというエクササイズがセロトニン神経の分泌を促した結果、うつ症状を改善し、いい身体の状態を作ることが期待できます。

なお、ウォーキングするときは「集中」してやることが大切です。例えば、街中や繁華街では目や耳から様々な刺激的情報が入ってくるため、十分にリズム運動に集中できません。

私のおすすめは、朝早く起きてまだ人通りの少ないときに、公園や水辺などの静かな場所を、最低5分、長くて30分、集中してウォーキングすることです。これでほとんどの方がセロトニン神経の活性化を起こすことができます。

セロトニン神経が活性化すると、まず頭が覚醒します。さらに、心のバランスも取れて、自然と物事に対する意欲が出てきます。自律神経の調節も良くなり、顔つきも明るく血色がよくなってきます。不定愁訴(原因のわからない体調不良全般)もなくなります。

現代人は外に出る機会も減り、部屋で夜中まで電灯をつけ、パソコンや携帯電話をいじりながら生活することが増えました。しかし、セロトニン神経の活性化という観点から見れば、この環境は非常によくないことといえます。

太陽の光を浴びない生活環境は、鬱病の発症頻度を増やすことが分かっています。また、太陽の光が網膜を刺激して直接セロトニン神経を活性化させることも判明しています。

「部屋には常に明かりがついているから、太陽の光をわざわざ浴びなくてもいいのではないか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、電灯の光は太陽の光の明るさには到底及ばないため、部屋にこもって電灯がついていてもセロトニン神経の活性化にはならないのです。

太陽の光を浴びるときの浴び方としては、長時間浴び過ぎないことを意識すると良いでしょう。セロトニン神経は30分も日光浴すれば活性化が起こります。目の網膜から強い光が入ればセロトニン神経の活性化が促せるため、皮膚のUVカットも、長そでの着用・帽子の着用も問題ありません。日焼けが気になると思っていた方でも、問題なく太陽の光を浴びることが可能です。

グルーミングとは、元来ペットをなでたりサルの毛づくろいをしたりなどの行為を指しますが、皮膚を気持ちよく触りあっている行動ともいえます。

グルーミングはストレス解消のための行動といわれています。これは、スキンシップをすることにより、男女差なくオキシトシンという物質が分泌される行動だと最近の研究で明らかにされています。

オキシトシンはお母さんが分泌するホルモンとして知られてきた物質です。たとえば授乳のとき、お母さんの脳からオキシトシンが血液に分泌され、それがホルモンとして乳腺に働きかけ、母乳を出すというメカニズムになっています。

これが最近、オキシトシンは男も未婚女性も老人も、グルーミングによって男女年齢性別に関係なく分泌されることが判明したのです。

オキシトシンはストレス中枢を抑える働きを持ちます。つまり、何らかの理由で体がストレス反応を起こしているときに、オキシトシンがストレス中枢を和らげ、脳からストレスを消してくれるのです。

オキシトシンの分泌が増えると、脳内のセロトニンも増えます。その理由は、セロトニン神経がオキシトシンの受容体を持っているためで、オキシトシンはセロトニン活性も誘発するのです。

疲れたときのマッサージやエステは、オキシトシンを分泌するストレス解消のひとつの方法です。

また、最近最もオキシトシン関係で注目されているのが、心の触れ合いです。具体的には、気の置けない人とゆっくりおしゃべりをすることといわれます。これは話の内容によって分泌の量が左右されるというよりも、「誰かと会っておしゃべりをして、心と心を通わせた」という事実と行動が重要だと考えられています。

また、家族の場合は一家での団らんも非常に効果的です。

その他には、呼吸法があります。

呼吸の場合は、単純に「生きる呼吸」、すなわち無意識に私たちが普段から行っている呼吸は、正直に申し上げて意味がありません。

普通の「生きる呼吸」は、横隔膜が使われて、呼吸中枢の自動制御によって吸う運動が行われます。対して、呼吸法ははっきりと「呼吸している」ことを意識し、吐くことを中心に意識して呼吸をします。この呼吸法では、横隔膜ではなく腹筋を収縮させて呼吸を行います。その回数は1分間に3、4回と非常にゆっくりで、通常の呼吸とは全く異なります。

この呼吸法により、脳波に変化が現れることを私達は証明しています。さらに、呼吸法を実践した後で心理テストをすると、ネガティブな気分が改善されていることも明らかになっています。

このようにセロトニン活性化のための運動をすることで、『脳におけるセロトニン神経の特徴』で紹介したセロトニン神経の5つの機能がいい方向に働いてくれます。

SSRIのような薬を長期にわたって服用せずとも、セロトニン神経を積極的に活性化させることで脳内のセロトニンを増やし、鬱症状や不定愁訴、体の痛みを改善できます。

ウォーキングの場合、30分程度しかセロトニン活性の効果が持続しません。つまり、ウォーキングをやめれば、活性化された脳はせいぜい30分~1時間しかその状態を保っていられないのです。

しかし、上記の運動を継続(たとえば1日30分を3か月)すると、セロトニン神経の構造そのものが変わってきます。

たとえばボディビルダーが筋トレするとき、年単位でトレーニングを継続することと思います。そうした積み重ねによって、あのような立派な体になっていきます。これは彼らの筋肉の構造そのものが変わるためだといえます。

つまり、大切なのは構造が変わることなのです。いっときの反応だけではなく、脳の構造を変えてしまうことが大切になってきます。

繰り返しますが、セロトニン神経活性化を意識した生活を一日30分、3か月続けると、セロトニン神経はその構造自体が変わります。つまり、3か月後にはセロトニン神経の分泌の多い脳に変わってくれるのです。

セロトニン活性のエクササイズを継続することで、脳のセロトニン神経の構造に変化が生じ、結果としてセロトニン分泌の多い脳に変わります。その結果、前述した症状が改善されてくるのです。