インタビュー

国際保健活動と小児救急医。井上信明先生が目指すもの

国際保健活動と小児救急医。井上信明先生が目指すもの
井上 信明 先生

国立国際医療研究センター 国際医療協力局 人材開発部研修課

井上 信明 先生

この記事の最終更新は2015年12月28日です。

子どもの救急医療の専門性を高めることは、都会であっても地方都市であっても、さらに途上国であっても必要なことです。都立小児総合医療センター救命救急科医長の井上信明先生は、この取り組みに現在積極的に関わっておられます。国を越え、地域レベルで考える小児救急医療の未来について、井上先生の考えをお話頂きました。

私の医師としての目標は、途上国医療に貢献することです。いずれは国際保健活動にしっかりと取り組みたいと考えています。

米国とオーストラリアでの研修を終えた頃、日本の小児救急医療において、小児救急医療の新しい概念を根付かせること、また人を育てることなど、取り組むべきことがあることに気づきました。

2015年現在、都立小児総合医療センターが開院してから5年以上が経ちました。この間に若くて優秀な小児救急医がしっかりと育ってきています。日本の小児救急医療もアメリカに遜色ないところまでできるようになってきているのです。

都立小児総合医療センターは東京にある病院であり、まだまだ改善の余地がありますが、病院の周辺に住んでいる子どもたちに対しては24時間体制で小児救急医療を提供することができるようになってきています。今後は、地方に住んでいる子どもたちも同じような恩恵が受けられるようにしないといけません。日本の地方における小児救急医療体制の在り方を考えることは、実は途上国における保健医療システムの改善を考えることに通じるものがあります。

今後日本国内で小児救急医療を発展させていくためには、人材育成という課題もあります。私の理想は、トレーニングシステムをスムーズに回るような形にすることですが、現在の状況を見る限り、徐々に理想的な教育システムが作られてきています。このような教育を受けた若手医師たちが自分たちの次の世代の医師を教育すること、そして全国に羽ばたいていくことが、次のステップとして必要なことだと感じています。

小児救急にはホームケアという概念があります。これは、病気になったらすぐに病院に行くのではなく、子どもの状態をしっかりと見極め、自宅でできる限りのケアができるようにすることです。このホームケアのやり方を、子どもが病気で受診したとき、保護者に伝えるようにしておくことも大切だと思っています。

たとえば嘔吐という症状ならば、安易に薬を投与して診療をすませ、再受診のポイントを伝えるだけでは予防という観点からは不十分です。むしろ薬剤や点滴に頼らないですむように、どのような水分をどのように摂るとよいのか、具体的にしっかりと伝えてあげることが重要になります。このようにすることで、次に子どもが同じような状態になったとき、保護者の方が薬や点滴を求めて慌てて病院を受診するのを予防することにつながります。

診療で意識していることは、ひとりの患者さんを丁寧に診察することです。

確かに軽症の患者さんが多くおられますが、軽症であることを確認するという発想ではなく、重症患者ではないということを確認するために、しっかりとお話を聞き診察を行う。そういった発想で診療に取り組むことが、見逃しを減らすためには必要だと考えています。

私の場合、診療時の保護者の方との会話に非常に重点を置いています。大切なことは、受診された方の不安をまず受け止めることです。それと同時に、「これから不安なことがあった場合、いつでもきていいよ」ということもメッセージとして伝えるようにします。

子どもを大切に思う気持ちは、保護者もわたしたちも同じです。多くの保護者が子どもを思う気持ちのあまり受診されていることに気づいたとき、夜中の2時、3時に来てくれる患者さんに対して、むしろ感謝の気持ちで接することができるようになりました。

お母さん、こんな時間にお子さんの熱に気づいてくれてありがとう。明日も仕事なのに、お父さん、付き添ってくれてありがとう。タクシーの運転手さんも、ここまでこの子を運んでくれてありがとう。受付の方も、迅速に対応してくれてありがとう。最近は本当にこのような気持ちになれるようになりました。

子どもたちは日本の未来です。そして子どもの救急は、未来に命をつなぐ仕事ということといえます。この嬉しさや楽しさを、小児医療を目指す若い医師や看護師たちに伝えていきたいと考えています。

「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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