インタビュー

小児救急の現状―「子どもの救急」としての井上信明先生の活動

小児救急の現状―「子どもの救急」としての井上信明先生の活動
井上 信明 先生

国立国際医療研究センター 国際医療協力局 人材開発部研修課

井上 信明 先生

この記事の最終更新は2015年12月27日です。

都立小児総合医療センター救命救急科医長の井上信明先生は、アメリカで長年の医師としての臨床経験を積み、現在は「子どもの救急医」として日本の小児救急医療の専門性を高めるための活動を行われています。井上先生の小児救急医としての成り立ちから今後の日本の小児救急の課題に至るまで、詳しくお話をお聞きしました。

私は医師になって最初の4年間、成人を対象にした総合診療や救急医療の研修を行いました。しかしその後、子どもの救急医療を自分の専門にしたいと思うようになり、5年目の2000年以降はこどもを中心に診療しています。

子どもの医療はなにかと後回しにされがちです。たとえば災害などの緊急時、子どもの支援や治療は後回しにされる傾向があります。また子どもは基本的に元気であり、軽い病気ですむことが多いため、医者側が深刻な問題として扱わない風潮がありました。しかし子どもたちはそのような状況に自分たちで声を上げることはできません。ですからそのことに気づいたわたしたちが、子どもたちのために医療を変える必要があるのではないかと考えるようになり、小児救急を専門にしていこうと思うようになりました。

しかしその当時は、小児救急を専門に勉強できる場所を国内で見つけることができませんでした。そこで2002年に渡米し、小児科、そして小児救急のトレーニングを受けました。米国では合計6年半をトレーニングに費やしたことになります。その後1年間オーストラリアで小児救急医療を経験し、2010年の1月に帰国しました。ちょうど都立小児総合医療センターの開院直前です。

都立小児総合医療センターで実施している救急診療は、私がアメリカで小児救急に携わっていたときと同じスタイルを取っています。つまり、「どんな症状の子どもであってもまずは引き受けて診療し、小児救急医としてやれることはできる限りしっかりと行ったうえで、必要に応じて専門医に相談したり、入院治療を行うチームに引き継ぐ」というスタイルです。

日本において、一般的に小児救急は小児科の救急を意味しています。小児科医は小児内科医のことを指します。具体的には、たとえば発熱や腹痛など内科全般を診察する医師のことです。一方、子どもが頭をぶつけた、腕が折れたなどの場合は、小児科医ではなく脳外科、整形外科の範疇となり、小児科の領域には属しませんので、小児科以外の診療科の医師が診療することになります。

しかし、私たちは内科や外科などの専門診療科や臓器にこだわらず、急を要する医学的問題を抱えた子どもたち全員をまず診察しています。

診察をしたうえで、専門家による特別な治療が必要となるものか、専門家でなくても適切な治療ができるものかを判断します。本当に専門医が必要な子だけ専門医に診てもらうようにし、それ以外は自分たちで継続して診療することもあります。

つまり、小児を専門にしていながら内科的分野だけでなく外傷なども診るのがわたしたちの診療スタイルであり、救急を専門にする小児救急医の役割だと思っています。

日本国内の小児救急は、医師の間でもネガティブなイメージをもたれていることがあります。症状の軽い子たち、つまり救急を受診する必要のない子どもたちが次々と押し寄せてしまうため、小児科医が全体的に疲弊してしまっているのです。

たとえばわたしたちの救急室では、年間約38000人の患者さんが受診されていますが、保護者に連れてこられる子どもたちのうち、本当に緊急性の高い状態の患者さんは数%程度です。しかし未来ある子どもたちを思うとき、救うことができる命は絶対に救わなければいけません。それが例え数%であっても、です。

そのためには、軽症の患者さんを診療するという考え方ではなく、一人一人の子を丁寧に診て、目の前にいる子どもが重症ではないということを確認する考え方が必要だと思っています。私たちは救える命を確実に救う必要があります。

このような診療は東京にある小児病院だからできること、という可能性も否定できません。しかし、私としては日本中の地方にいる子どもたちのためにも、子どもの救急医療の在り方そのものを考えていきたいと考えています。

「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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