アレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)に接触・摂取した後、短時間で全身に複数のアレルギー症状が出現して血圧低下や意識障害に陥る状態を「アナフィラキシーショック」と呼びます。アナフィラキシーショックが起きた際、医師の治療を受けるまでの間にアナフィラキシーの症状を緩和するアドレナリン注射液という医薬品があります。ここでは、昭和大学医学部小児科学講座今井孝成先生に、アナフィラキシーショックが生じた場合の対応とアドレナリン注射液について解説していただきます。
アナフィラキシーが疑われたら、まずはお子さんの重症度を評価します。心肺停止やアナフィラキシーショック状態にあるのであれば、救急蘇生やアドレナリン注射液の投与を速やかに行います。
中等症以下の症状の場合は安静な体位をとらせます。その上で、事前に収集したお子さんのアレルギーの情報を把握するようにします。また、口腔内に食物が残っている場合は口をゆすいだり、体に付いていたら拭いたりしてアレルゲンとなる物質を取り除きます。加えて、主治医から誤食時に服用する薬が処方されている場合は内服させるようにします。
経過観察中に短時間で悪化してショックに至ることは珍しくありません。症状が進行した場合は、アドレナリン注射液の投与を考慮します。注射後はすみやかに医療機関を受診するようにします。
アナフィラキシーは、最低1時間は注意深く状態を見守るようにします。症状がいったんおさまったように見えても、再度症状が出ることもあるからです。
日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会では、以下の3つの分類のうち1つにあてはまり、意識低下や血圧低下を伴う場合をアナフィラキシーショックと定義しています。食物アレルギーでアナフィラキシー症状が発症した場合に、アドレナリン注射液の投与を検討する判断材料になるといえます。
日本小児アレルギー学会『食物アレルギー診療ガイドライン2012』より引用 http://www.jspaci.jp/jpgfa2012/chap06.html
1.皮膚症状(全身の発疹、瘙痒または紅斑)、または粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫瘍など)のいずれか、または両方を伴い、急速に(数分~数時間)発症する症状で、かつ、下記の少なくとも1つを伴う
a.呼吸器症状(呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症)
b.循環器症状(血圧低下、意識障害)
2.その患者にとってアレルゲンと考えられるものへの曝露の後、急速に(数分~数時間)発症する以下の症状のうち、2つ以上を伴う
a.皮膚・粘膜症状(全身の発疹、瘙痒、紅斑、浮腫)
b.呼吸器症状(呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症)
c.循環器症状(血圧低下、意識障害)
d.持続する消化器症状(腹部疝痛、嘔吐)
3.アレルゲン曝露後(数分~数時間)の血圧低下、収縮期血圧低下の定義
1か月~11ヶ月 <70㎜Hg
1~10歳 70㎜Hg + (2×年齢)
11~17歳 <90㎜Hg
アドレナリン注射液とは、医師の治療を受けるまでに症状を緩和させるために使用するアナフィラキシー補助治療剤です。アドレナリン注射液の使用は、医師の診察を受けるまでの時間を確保することが期待できます。患者さん個人でも注射しやすいように工夫がされているものの、幼稚園児や小学校低学年のお子さんは、親御さんや保育士、教員の方が投与をサポートすることが求められます。
ただし、アドレナリン注射液はあくまでも「アナフィラキシー症状の緩和を期待する」医薬品です。アナフィラキシーを根本的に治療するものではありませんから、アドレナリン注射後はただちに医療機関を受診させる必要があります。
アドレナリン注射液0.3㎎体重30キログラム以上の患者に使用される。注射剤だが、使用前も使用後も注射針が露出しない構造になっており、患者自身が使用する場合でも安全に使用できる。
アドレナリン注射液0.15㎎体重15キログラム以上30キログラム未満の患者に使用される。同じく注射針は露出しない。
アドレナリン注射液は、アドレナリンという交感神経を活発にさせる作用を持つホルモンで、副腎髄質から分泌される物質です。この物質がアナフィラキシーショック症状を緩和するメカニズムについては、少し説明を重ねる必要があります。
私たちの身体は、病原体に感染したり怪我をしたりすると組織に炎症が起こります。炎症は、身体を病原体などから保護している白血球などの免疫細胞の作用です。炎症は、病原体から身体を防衛するために必要な反応なのですが、アレルギー反応においては免疫細胞が急激で過剰な炎症を起こし、血管が拡張したり血管内から血液成分が外に漏れ出たりしてしまいます。すると、血圧が低下して正常に血液を循環できなくなり、意識障害や多臓器障害を発生させてしまうのです。
この状態から回復を図るために、アドレナリンが持つ作用を利用します。アドレナリンは、交感神経を活性化させることによって血管を収縮させ、心臓から血液を送り出す機能を高める作用があります。この作用によって血圧と血流を安定させます。
アドレナリン注射液は、アナフィラキシー症状を緩和するために患者さんが自分で注射することができる医薬品です。しかしながら、アナフィラキシーショックが想定される強いアレルギー反応は、自宅にいる時にだけ起きるとは限りません。乳幼児は保育園や幼稚園、学校で発症する可能性があります。そのため、文部科学省と厚生労働省は、アナフィラキシーショックに対する教職員の対応についてマニュアルを用意しています。また、東京都においては、教職員一人につき一冊のマニュアルが配布されており、児童がアナフィラキシーショックを起こした場合に最善の対処ができるように周知されています。
昭和大学病院 小児科 教授
関連の医療相談が11件あります
スズメバチに2回刺されると死ぬというのは本当ですか?
この間ハチに刺されました。スズメバチだったかどうかは分かりませんが、だいぶ大きいように見えたし、かなり腫れました。 もうそれは良くなったのでいいんですが、ふとスズメバチに2回刺されたら死ぬという話を思い出して、もし刺されたのがスズメバチだったなら、どうしようかなと思って相談しました。 病院にいけば、何に刺されたかとかってわかりますか?そもそも、2回刺されたら死ぬっていうのは本当なんでしょうか?都市伝説ですか?
春の喉の違和感について
春の花粉症と、普段からアレルギーが(主に食物アレルギー)あるのですが、最近、朝起きてしばらくすると喉に何かが引っかかったようになり咳払いをしたくなります。声が出にくくなることもあります。何かが引っかかったようで飲みこみずらさも感じます。ここの所毎朝なるのでどうすればいいのかと思っています。 食事はしていないことがほとんどなので食物アレルギーではないと思うのですが、その時の反応と似ているのでアナフィラキシーなのかと怖くなります。 ここの所の症状が出る前として、鼻水がのどに流れることが多く、関係があるのか分かりません。 また抗ヒスタミン剤を症状が出た際に飲むよう処方されていますが、本来は朝晩飲むようです。毎日飲むと効かなくなってくるのではと思うのですが、花粉症の時期は毎日飲んだ方が良いのでしょうか?(また、上記の喉の症状は抗ヒスタミン剤を飲んでいる時は起きません)
2日前から全身の痒みと蕁麻疹
2日前から頭から足の裏、口内まで痒いです。 普段は蕁麻疹の薬を服用しているのですが、普段通院している病院が2週間臨時休診してしまい、1週間ほど薬が切れている状態です。 また、卵を食べた後に若干気持ち悪くなります。卵は幼少期にアレルギーで2年前に検査した際はアレルギーではありませんでした。 これはアナフィラキシーでしょうか?
蕁麻疹(体全体)
3歳の息子が、今日のお昼頃に保育園で蕁麻疹がでて、今も治っていない。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「アナフィラキシー」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。