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インタビュー

胎児の診察は指で行う時代へ―指接着型オキシメーターの登場

胎児の診察は指で行う時代へ―指接着型オキシメーターの登場
金山 尚裕 先生

浜松医科大学医学部 産婦人科学 教授

金山 尚裕 先生

従来胎児の状態を観察するための機器として、医療の現場では「パルスオキシメーター」が普及していますが、この機器の問題点を改善した「指接着型オキシメーター」が登場し注目を集めています。今回はこの「指接着型オキシメーター」開発の経緯や利点、今後使用が見込まれる分野などについて、浜松医科大学教授の金山尚裕先生に伺いました。

胎児の状態を調べるときには、胎児心拍数のモニタリングによって判断するというのが定石とされています。しかしこの方法では、本来陰性であるにもかかわらず陽性反応が出る「偽陽性」という判定が出てしまうことも多いという問題があります。

ほかにもヒトのバイタルサインを知る方法として、小動脈のパルス(脈拍)を測定して血中酸素飽和度を測定する「パルスオキシメーター」による判定が臨床の現場で普及しています。胎児にもパルスオキシメーターを用いて胎児の酸素動態を測定するという試みが1990年代後半にアメリカで行われました。胎児オキシメーターは近赤外線という生体に影響のない光を用いますので胎児にとっては安全です。しかしこの方法にも、光のデータ取得率が悪い・機器を子宮部に挿入するため感染の恐れがある・操作性が悪いなど、いくつかの改善しなければならない問題点がありました。

「指接着型オキシメーター」とは、センサーが触れた部位の血中酸素飽和度とヘモグロビン量を測定する機器です(図1)。

図1

酸素飽和度とは、赤血球の中にある酸素と結合しているヘモグロビン割合のことです。患部の酸素飽和度の状態から、患部付近の血液滞留(うっ血)や、血液滞留による組織の低酸素状態、末梢循環不全による虚血状態などのリアルタイムに状態を知ることができます。

たとえばセンサーを胎児の頭の頭に当てた場合、胎児頭部の血中酸素飽和度とヘモグロビン量が測定されるので、そこから胎児の脳組織を含めた胎児頭部の酸素飽和度を測定できるといった仕組みです(図2)。

図2

今回開発した指接着型オキシメーターは、診察する医師の指先に近赤外線のセンサーを装着するようにした点が特長です。従来のオキシメーターではセンサーを胎児に装着させる方法を取っていたため、検査時に子宮の感染の恐れがありました。この指接着型オキシメーターは、指サック内に収められた超小型のセンサーを装着し、その上から透明な手袋をはめて測定を行います。従来の方法と異なり、機器が直接患者さんに触れないことにより感染の可能性がなくなり、内診の一環として容易に測定することが可能となりました。

また、こうした胎児の健康状態の把握以外にも、分娩直後や保育器内で新生児の処置時に新生児科医が使用することで、新生児の健康管理に役立てることができるのではないかと考えられます。本機器は医療機器として平成27年に認可され新生児~成人まで認可医療機器として使用できます。医療に使用される機器は、ヒトに対して使用されることが薬事法で定められています。胎児は出生するまで戸籍がないため法律上はヒトではないという位置づけがされているので、胎児に対して機器を使用するかどうかの判断は医師の裁量に任されています。

血圧・酸素飽和度・血ガスなど、これまで胎児から得ることができなかったバイタルサインを知りたいという思いが、この指接着型オキシメーターを開発した背景にありました。胎児の健康状態を把握するために開発したこの指接着型オキシメーターは、上記した胎児や新生児以外にも今後さまざまな臨床の現場で活躍するツールとなるのではないかと思われます。具体的には、以下のような例が想定されます。

腸切除や肝臓切除の際に酸素飽和度を測定することで、臓器の適切な切除範囲を決定できます。また、腫瘍の切除手術時に腫瘍の性状を把握するための判断材料となると考えられます。悪性腫瘍の酸素動態が注目されていますが、手術時の悪性腫瘍か否かの判断、血管新生の程度の判定などに応用可能と考えています。

主に毛細血管内の酸素飽和度を測定するため、従来のパルスオキシメーターでは測定できなかった末梢循環不全患者や、心肺停止の患者にも測定できます。また心肺停止時の蘇生の指標とすることができます。また、本機器は電池で稼働しますので災害現場での治療の優先順位を決めるトリアージの指標のひとつにすることも考えられます。

介護施設では入浴などの介護時、入所者にパルスオキシメーターで酸素飽和度を測定することが一般的になっています。指が震えるパーキンソン病認知症の方ではパルスオキシメーターでの酸素飽和度測定が困難です。介護者の指に装着しますのでこのような患者さんへも有用であると考えられます。また末梢の酸素動態、循環動態が容易に把握できますので褥瘡の早期診断、予知に有用であると思われます。

本機器では子犬や小鳥の脳の酸素状態がわかります。動物の脳の状態を検出することは今まで困難でしたが、指接着型オキシメーターでは容易です。動物の心の変化をしることもできるかもしれません。ペット好きの方にも関心をもって頂けると思います。

本オキシメーターは機能検査オキシメーターとして本年1月医療機器として認可され発売されています(名称:トッカーレ、株式会社アステム)。

〈文献〉

1) Kanayama N et al. J Biomed Opt. 2014; 19:067008, 1-5.

2) Uchida T et al.  J Perinat Med 2015 in press.

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  • 浜松医科大学医学部 産婦人科学 教授

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