「アレルギー性鼻炎の薬物療法について」でご説明した薬物療法以外にも、アレルギー性鼻炎の症状を抑える治療がいくつかあります。ここでは、アレルギー性鼻炎の手術について、そして新しい治療方法が導入された「アレルゲン免疫療法」について、地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 耳鼻咽喉科 主任部長の川島佳代子先生にうかがいました。
薬物療法での治療が難しい場合には、手術という選択肢があります。ただし、手術に関しても薬物療法と同様に根本的な治療ではなく、症状が起こる部位を縮小することが目的となります。そのため、手術を行えばアレルギー性鼻炎が完全に改善するというわけではないことに留意するべきでしょう。
手術の主な種類は以下のとおりです。
電気凝固法、凍結手術、レーザー手術法、トリクロール酢酸塗布
粘膜下下鼻甲介(骨)切除術、下鼻甲介粘膜切除術、鼻中隔矯正術、高橋式鼻内整形術、下鼻甲介粘膜広範切除術
後鼻神経切断術、vidian神経切除術
手術の種類によっては入院の必要がなく外来でできる処置もあり、特にレーザー手術は外来での手術が可能です。しかし効果が永続的ではないため、毎シーズン毎に複数回の手術を行わなければいけないという負担もあります。また、下鼻甲介骨切除術については非常に効果が高いものの、老年期になる頃に萎縮性鼻炎を起こす可能性が指摘されています。
そうしたこともあり、どの手術が最も良いかということは一概には言えません。
鼻閉に対しての手術と鼻汁やくしゃみに対しての手術を、組み合わせて行うのが現在では一般的です。鼻汁に対しての手術は、以前vidian神経切除術という方法がよく行われていましたが、鼻汁成分の神経だけでなく涙腺に分布する神経も切断するために涙液分泌障害が起きることが問題となり、現在は後鼻神経切断術が取られるようになってきています。
手術後はやはり症状が改善しますが、長期的に症状の改善が望めるかという部分では現在も改良を続けている段階と言えます。
アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因である「アレルゲン(抗原)」を少量から体内に投与し、体にアレルゲンを慣らすことでアレルギーの症状を和らげる治療方法です。以前は「減感作療法」と呼ばれていました。
欧米では100年以上続いている治療法で、日本には1960年代にまず「皮下免疫療法」が導入されました。
アレルゲン免疫療法には現在、以下の2種類があります。
皮下免疫療法は、抗原のエキス(医療用の抽出液)を注射で体内に投与する方法です。ハウスダスト(ダニ、細菌、カビ、毛など)の抗原からスタートしました。現在はハウスダストのほかに、スギ・ダニの抗原で皮下免疫療法が可能です。
ダニの皮下免疫療法は、アレルギー性鼻炎に対してだけでなく気管支喘息にも適用があり、5歳以上であれば行うことができます。
しかし、ハウスダストに関しては、ダニやカビといった成分の詰め合わせであるため、それぞれの抗原数が一定ではなく、その有効性が不安視されているという経緯から現在はほとんど行われていません。
また、注射による治療のため痛みを伴うことや通院の負担もあります。加えて、稀にアナフィラキシーショックなど副反応が起こる場合もあるため、皮下免疫療法に代わる方法が検討されていました。その結果、安全性や有効性も高い舌下免疫療法が取り入れられたのです。
舌下免疫療法は、2014年10月より始まりました。抗原のエキスを舌下(舌の下側)に滴下する方法です。スギの抗原がまず開始され、2015年11月にはダニの抗原でも処方が可能となりました。
治療は毎日行う必要がありますが、自宅で行えるというメリットがあり、アナフィラキシーショックなど副反応が起こることもほとんどありません。稀に滴下した部分に腫れや痒みが出る場合もありますが、非常に安全性が高い方法です。
しかし、以前から行われていた皮下免疫療法と違い、新しく導入された治療法であるため、治療が行える医師が限定されていることや治療が受けられる年齢に制限(12才以上)があります。
アレルゲン免疫療法は、新規のアレルゲンに対する感作を抑制する効果があると言われているため、ダニに感作され始める年代である5才~12才に舌下免疫療法を行うことが望ましいのですが、現在はまだ適用できません。また皮下免疫療法と違い、気管支喘息への適用もまだ認められていません。
ただ、喘息と鼻炎は深く関係しており、どちらか一方の改善によってもう一方も良くなるという相互関係にあります。このようなメリットもあるので、舌下免疫療法についても適応年齢が下がることや気管支喘息への適用が期待されています。
アレルゲン免疫療法は誰にでも必ず効果が現れるというわけではなく、アレルゲン免疫療法を受けた10%程度には無効だったという例があります。またどのような条件だと効果が現れないのか、ということも今はまだ解明されていません。
最低でも2年間の継続(推奨は3~5年)が必要となるため、症状が出ていない時期でも数か月に1度の通院や毎日の薬の投与を行うことになります。2年継続して効果測定をしたのち、効果が現れていない場合は治療を終了します。
効果が現れないというリスクも確かにありますが、アレルゲン免疫療法を受けた8割以上の方には何らかの効果があり、2割の方が完治する可能性があるといわれています。また効果が現れた場合、2年・3年と治療を続ければ、その後治療を止めてしまっても効果は10年近く継続するというメリットがあります。
現在、免疫療法の分野では新たな研究も始まっており、今後様々な治療法が生み出される可能性も十分にあります。
地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 耳鼻咽喉科 主任部長
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