病名に「肝硬変」とあるため、肝硬変様の病態を呈すると思われているのがこの原発性胆汁性肝硬変ですが、実際には、肝硬変まで進行するケースは少ないのが現状です。難病の一つで国内には約5~6万人の患者さんがいると推定されています。患者数も増加傾向にありますが、その背景には診断技術の向上など医学の進歩があるといいます。福岡山王病院で難病治療に取り組む石橋大海先生に原発性胆汁性肝硬変の診断についてお話を伺いました。
原発性胆汁性肝硬変は、Primary Biliary Cirrhosisという英語表記の頭文字をとってPBCと呼ばれています。患者数は、年々増加傾向にあり、1974年には全国調査で登録患者数がわずか10名程度だったのが、2012年には5,500人となりました。特定疾患治療研究事業で医療費の助成を受けている症候性PBCの患者数は、2008年度は約16,000人であったことから、無症候性を含めた現在の罹患者数は約5~6万人と推定されています。PBCが増加傾向にある背景の一つには、診断技術の進歩があると考えられます。
PBCは、症状の出ていない無症候性PBCと、無症候性PBCが進んで黄疸やかゆみといった症状が出現した症候性PBCの二つのタイプに分類されます。どちらのタイプであっても、アルカリホスファターゼ(ALP)やγGTPといった胆道系の酵素がより高い値を示します。診断はこれらALPとγGTPの値で判断されますが、これらは一般の血液検査の中の肝機能検査に含まれているので、比較的みつけやすいのです。
また、PBCで非常に特徴的にみられるものとして、自己抗体である抗ミトコンドリア抗体(AMA)があります。AMAとは、細胞のミトコンドリアの成分に対して生じた抗体のことで、通常は陰性なのですが、免疫の異常によって自分のミトコンドリアの成分に対して免疫が反応することで、自己抗体が生まれるのです。なぜ、このような機序が起こるのかわかってはいませんが、PBCの患者さんの約90%はこのAMAが血液で陽性となります。前述した胆道系酵素であるALPやγGTPに加えてAMAが陽性であれば、ほぼPBCと診断することができます。
1970年代、患者さんがまだ数名という頃は、AMA抗体をすぐに調べることができませんでした。しかし、現在では一般のクリニックでも検査が可能となったため、ALPやγGTPの値が上昇していれば、AMAを測定することでPBCと診断することが可能となったのです。そういう意味においては、PBCという病気の認知度が高まったことも背景にはあるのだと考えています。
PBCの診断は、厚生労働省の診断基準によって行われます。診断基準は以下の3つが推奨されています。
①組織学的に慢性非化膿性破壊性胆嚢炎(CNSDC)の所見を認め、検査所見がPBCに矛盾しないもの。
②AMAが陽性で、組織学的にCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない組織像を示すもの。
③組織学的な生検の機会はないが、AMAが陽性で、しかも臨床像および経過からPBCと考えられるもの。
確実に診断を行うために、肝臓に針を刺して肝臓の組織を確認する方法(肝生検といいます)もありますが、出血などの危険を伴いますので、現在は針を刺して肝臓の組織を確認することは少なくなり、AMAが陽性であることと、臨床像や経過などから診断を行うという方法で診断されることが多くなりました。
診断を行うにあたっては、閉塞性黄疸、自己免疫性肝炎、原発性硬化性胆管炎、慢性薬物性肝内胆汁うっ滞、成人肝内胆管減少症など、他の疾患との鑑別も必要となります。腹部エコー検査やCT検査で、特に閉塞性黄疸の画像所見がないことを確認することはとても重要となります。
国際医療福祉大学 名誉教授
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