病名に「肝硬変」とあるため、全ての患者さんが肝硬変様の病態であると思われがちですが、実際はゆるやかな進行で無症状のことが多いというのが原発性胆汁性肝硬変です。患者数は全国に約5~6万人で、難病の一つとして指定されています。英語表記でPrimary Biliary Cirrhosisといい、その頭文字をとってPBCと呼ばれてきましたが、実際に肝硬変に至っている人は少ないため、現在、病名の変更に向けた議論が進められているところです。
厚労省の研究班でPBCの診療ガイドライン作成にも携わられた福岡山王病院および国際医療福祉大学名誉教授の石橋大海先生にPBCの現状についてお話を伺いました。
原発性胆汁性肝硬変というのは、肝臓の中にある胆管という小さな管が免疫学的なメカニズムによって破壊されることによって起こる肝臓の病気のことです。
肝臓は体内の化学工場とも例えられるほど、からだにとってとても重要な役割を担っています。例えば、消化・吸収された食べ物を自分にとって必要な栄養素に代謝したり、それらの栄養素を貯蔵したりといったことのほか、アルコールや薬物などの分解や毒素の解毒などを行います。
肝臓では脂肪分の消化・吸収に欠かせない胆汁という液体成分が作られていて、1日におよそ600ml程度分泌されています。この胆汁が通る管のことを胆管といい、胆汁は、肝臓の中にある肝内胆管や総胆管といった細い管を通って一旦胆嚢に蓄えられます。そして、食べ物(脂肪分)が運ばれてくると胆嚢が収縮し、胆汁が十二指腸へと分泌されるのです。
ところが、肝臓内にある小さな胆管(小葉管胆管)が自己免疫の機序によって生じた炎症によって破壊されるため胆汁が肝臓内に止まり、慢性の肝内胆汁うっ滞状態となるわけです。(胆管の炎症を専門用語で「慢性非化膿性破壊性胆管炎」といいます。)
通常であれば排出されるはずの胆汁中の成分であるビリルビンが、体内にとどまることによって黄疸が現れます。また、うっ滞した胆汁によって肝臓の肝細胞が破壊されていき、徐々に肝硬変へと移行していくというのがこの病気なのです。しかし、多くの場合、薬剤の効果もあって進行はゆっくりとしており、肝硬変まで進むことはあまりみられません。
原発性胆汁性肝硬変は、「無症候性」といって症状の出ないタイプと、症状を呈する「症候性」の二つに分類され、「無症候性」から「症候性」へ進みます。
PBCと診断された患者さんの7~8割は自覚症状がない無症候性のタイプで、診断された後も生涯無症状のまま経過する方が多くを占めます。
症候性タイプは患者さんの2~3割にみられますが、「無症候性」が進んで「症候性」になったもので、特徴的な症状としては皮膚の掻痒感(かゆみ)があります。皮膚には発疹などが出ることはなく、ただかゆみだけが現れます。かゆみのための搔き傷や脂質異常症に伴う眼瞼黄色腫なども特徴的な症状です。肝硬変に伴って出現する食道・胃静脈瘤が早い段階からみられることもあります。
さらに進行すると、黄疸や腹水、肝性脳症など肝硬変に伴う症状がみられるようになります。
また、稀に肝細胞がんが発症するとの報告もあります。あまり注目されていない症状としては、倦怠感といって疲れが出てくる場合もありますが、疲れに関しては心理的な要因であることが示唆されています。
厚生労働省の「難治性の疾患」調査研究班によって行われた全国調査によると、PBCの発症年齢は、20代以下にはいなく、30代くらいから発症して、好発年齢は男性60歳、女性は50歳です。男性よりも女性に多くみられ、男女比は男性1に対して女性7の割合です。
研究班の全国調査によると、1974年には登録患者数はわずか10名程度だったのですが、1989年以降は250~300名前後で推移しています。年次別の有病者数は年々増加傾向にあり、2012年には約5,500人となりました。これらの調査から、PBCの総患者数は全国に約5~6万人と推定されています。
国際医療福祉大学 名誉教授
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