メンケス病という病気をご存知でしょうか? メンケス病とは、日本では現在12~14万人に1人の割合で発症する、遺伝性の疾患です。多くの患者さんは2~3歳で亡くなってしまうために、この病気のことを知っている方も少なく、日本にメンケス病の専門家は多くありません。今回はメンケス病をご専門とされている数少ない医師、大阪市立大学大学院医学研究科 発達小児医学分野 教授の新宅治夫先生に、メンケス病について伺いました。
メンケス病とは、銅の代謝に障害がある疾患のひとつです。この病気は遺伝性疾患でもあり、X染色体上の遺伝子異常によって発症するX染色体劣性遺伝という形式をとります。
X染色体劣性遺伝の場合、基本的には男児にしか発症しません。現在までに大規模な発症率の統計は出ていませんが、発表論文などから、発症頻度は男児12万人~14万人に1人という結果になっており、稀に女児の報告もみられます。患者さんは2~3歳で亡くなってしまうことが多く、治療の難しい病気になります。
同じく銅の代謝障害の疾患としては、ウィルソン病という病気があります。ウィルソン病では、肝細胞の銅輸送タンパクであるATP7Bが欠損するため、体内に過剰に銅が蓄積してしまいます。それに対して、メンケス病ではATP7Aという、銅を輸送するトランスポーター(輸送体)が異常を起こすために、腸から銅を吸収することができず、体内の銅が不足していくために体内の銅が欠乏してしまいます。
(※ウィルソン病については『ウィルソン病とは?体に銅が溜まる代謝性の疾患』を参照してください)
メンケス病の原因は、銅の輸送を行っているATPaseと呼ばれる酵素の異常です。このATPaseはATP7Aと呼ばれる酵素タンパクであり、それをコードしている遺伝子は、X染色体上に存在しています。遺伝形式としてはX染色体劣性遺伝になります。
通常、摂取された栄養素は腸の粘膜から吸収されて体内に運ばれます。しかし、メンケス病では腸で銅の吸収ができないために、腸の粘膜に銅が次々と蓄積してしまい、体内に輸送されません。
メンケス病の検査内容は主に血液検査と尿検査になります。
メンケス病の患者さんは体内の銅が欠乏しているために、血清中の銅(Cu)や、血清中で銅と結合しているセルロプラスミン(Cp)の値が低くなります。尿からの銅の排泄も減るために、尿中の銅(Cu)の値も低下します。また血清中の乳酸やピルビン酸の値にも上昇がみられます。
メンケス病を強く疑う場合は、硫酸銅を溶かした青色の液体を飲み、血中の銅濃度が上昇するかどうかを調べるテストを行うこともあります。
さらに血液検査・尿検査で異常がみられた際には、MRA(頭部の血管を立体画像化する画像診断方法)やMRIによって脳の出血や異常血管、脳の萎縮が起きていないかを確認します。メンケス病の場合には、MRA検査によって血管の蛇行(血管が通常とは違う走行をしている)がみられることがあります。
また、レントゲンで骨粗しょう症や骨折の有無を調べたり、尿路に症状がある場合は膀胱憩室(膀胱の一部が膀胱の外に突出してしまう病気)を調べるため、レントゲンを撮ったりすることもあります。最終的には遺伝子診断によって遺伝子変異を確定するか、培養した皮膚の線維芽細胞内の銅濃度によって診断を確定します。
ただ、通常の血液検査では銅やセルロプラスミン値を測っていないために、上記のような検査結果はそもそもメンケス病を疑わない限り判明しませんし、メンケス病が思い浮かばなければその検査さえされない可能性も否定できません。さらにメンケス病の患者さんの数が少ないために、初期症状が気づかれにくく、検査や診断が遅くなってしまうという問題があります。
大阪市立大学 大学院医学研究科 障がい医学・再生医学寄附講座 特任教授
日本小児科学会 会員日本周産期・新生児医学会 会員日本人類遺伝学会 会員日本小児神経学会 会員日本アレルギー学会 会員
専門は先天代謝異常症・アレルギー疾患。未熟児・新生児の発育・発達を中心とする発達外来と、乳幼児のアトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー外来、先天代謝異常症の診断・治療とフォローアップなど代謝外来を行っている。日本では現在メンケス病の診断・治療ができる専門医は少なく、全国のメンケス病患者が訪れている。また日本医療研究開発機構(AMED)の再生医療実用化研究事業で「低酸素性虚血性脳症に対する自己臍帯血幹細胞治療」に関する第2相臨床試験を実施し、脳性麻痺の予防と治療に関する再生医療の研究を実施している。
新宅 治夫 先生の所属医療機関
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