インタビュー

「事故」という言葉を変える―accidentからinjuryへ

「事故」という言葉を変える―accidentからinjuryへ
山中 龍宏 先生

緑園こどもクリニック 院長

山中 龍宏 先生

この記事の最終更新は2016年04月12日です。

子どもの事故だけに限らず、事故を予防するためには、事故についての考え方を変える必要があります。世界中、どこの国でも事故は多発しており、人々の重要な健康問題となっています。

1990年頃から、欧米では事故の考え方を変える動きが始まりました。それまで「accident(アクシデント)」という言葉が使用されていたのですが、accidentという言葉には「防ぎようのない運命的なもの」という意味が含まれているのだそうです。しかし、事故は分析し解決策を考えれば「予防できるもの」と考えることが必要とされ、accidentではなく「injury(インジャリー)」という言葉を使うようになりました。

記事1『子どもの事故とは? 「たまたま運悪く起こる」ものではない』で事故予防策はほとんど行われていないということを示しましたが、事故の考え方を変えることが具体的な行動を起こす第一歩となります。緑園こどもクリニック院長の山中龍宏先生に、子どもの事故の考え方についてお話しいただきました。

 

あらかじめ事故を防ぐためには、家族や個人にばかり責任を負わせるのではなく、社会の意識そのものも変えていく必要があると考えています。

「交通事故に気をつけよう」とあちこちでいわれていますが、このように漠然と指摘しただけで交通事故を予防することはできません。具体的に、何について、どのような点に気をつけるのかを示す必要があります。

 

なぜ子どもは事故に遭いやすいのかというと、それは発達(成長)するからです。

昨日まで寝返りできなかった子どもが、今日寝返りできるようになって、寝かせていたソファから転落するのです。すなわち、生活機能が変化することがそのまま事故につながります。

保護者に対して「24時間、決して目を離さないでください」と言う人がいますが、そのようなことは無理な話です。実際には、目を離さず見ている目の前で事故が起きており、個人のみで事故を予防することは不可能です。保護者に対し、先に述べたような無理な指示や要求をすることは育児支援とはいえません。具体的に実行可能なことを示し、保護者が納得して実行するように支援するのが本来あるべき保健活動です。

 

欧米でも、子どもの事故は大きな問題でした。事故を意味する用語として、欧米ではaccident(アクシデント)という単語が用いられてきましたが、1990年ごろから考え方を変える動きが始まりました。その象徴となるのが、accidentからinjury(インジャリー)への用語の変更です。

accidentという言葉には元来、「不可避である、運命的なもの」という意味が含まれているのだそうです。欧米では、事故は予測できるものであって、科学的な分析と対策によって防ぐことができるものと認識されるようになり、injuryという単語が使用されるようになりました。現在では、事故を表現する際、accidentという言葉の使用を禁止している医学雑誌もあります。

日本ではaccidentは「不慮の事故」と表記され使用されています。「不慮」とは、予想できないことであり、予想できないことについては予防も考えられないことになります。injuryの訳語として、外傷、損傷、危害などの言葉もありますが、私は「傷害」と訳すことにしました。

 

傷害という言葉は、被害に遭った人と被害そのものを指す言葉です。一方、事故という言葉は、傷害よりも幅広い言葉であり、必ずしも人体が被害を受けた場合だけではありません。例えば「ロケットが爆発事故を起こした」など人的被害がない場合にも使われます。

欧米でinjuryという言葉を使って、事故に対する考え方を変える努力がなされている状況を、日本でも広める必要があります。そこで、私はinjuryを「傷害」と訳し、「事故」という単語をなるべく使わないようにすることにしました。社会や人々の意識を「事故は、予測し予防できるもの」に変えてもらいたいからです。

 

★「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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