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インタビュー

子どもの事故とは? 「たまたま運悪く起こる」ものではない

子どもの事故とは? 「たまたま運悪く起こる」ものではない
山中 龍宏 先生

緑園こどもクリニック 院長

山中 龍宏 先生

子どもの死因として多くの割合を占める「不慮の事故」。子どもの事故の問題は、現在国民病ともいえるがん(悪性新生物)よりもずっと前(1960年)から、1~19歳における死亡原因の第1位ですが、その対策はほとんどなされていないのが現状です。子どもの事故の原因はこれまで親や家族にあるとされ、根本的な改善策が考えられてきませんでした。そのような中、緑園こどもクリニック院長の山中龍宏先生は、子どもの事故は予期できないものではなく、予測できて予防可能なものだとおっしゃいます。今回は子どもの事故について、山中龍宏先生にお話しいただきました。

2010年ごろまで、子どもの死因の1位は0歳児を除けば不慮の事故によるものでした。最近になって、1~4歳の死亡原因の1位が先天異常になったり、がんが増えてきたり、自殺が多くなったりしていますが、不慮の事故が死因として多いことに変わりはありません。

日本人の死亡原因の第1位ががん(悪性新生物)になったのは1980年代のことですが、子どもの死因の1位が事故になったのは1960年であり、がんが問題視されるよりもずっと前からのことになります。

1985年、私はプールの排水口に中学生の女児が吸い込まれるという事例を経験しました。水中から救出するまでに30分以上かかってしまい、引き上げてみると吸い込まれた太ももの部分は紫色に腫れあがっていました。その女児は7時間後に命を落としてしまいました。

後になって新聞などで調べてみると、私が経験した事例と同じことが以前から起きていたことがわかりました。さらに21世紀に入っても、同様な事故が相次いでいます。

このような事故は、排水口の蓋さえきちんと閉めておけば起きないはずの事故です。それだけのことが日本ではできていません。そのような事故がたびたび起きていることがわかっていたにもかかわらず、私たちは何もしてきませんでした。この事故を機に、私は子どもの事故予防について深く考えるようになりました。

しかし、なぜこのように何もしなかったのでしょうか。それは、実際に起きた様々な事故の情報が共有されていなかったことが原因だと考えています。

すでに1987年頃から、欧米では事故サーベイランス(情報収集)が始まっていました。それに対して日本では、2016年現在でも、きちんとした子どもの事故に関する統計調査はなく、人口動態統計の死亡データしか存在しません。

例えば、この20年間の0~19歳の不慮の事故死の経緯をみると、3,233人(1994年)、1,490人(2004年)、691人(2014年)となっており、10年間で半減し、20年間では約1/5となっています。このようになった理由は何でしょうか。厚労省の「すこやか親子21」という国民運動で、事故予防をしましょうという啓発活動をしたからうまくいったのでしょうか。私は、そうではないと考えています。出生数の減少・医療技術の進歩・製品や環境の改善などに伴い、どこの国でも10年もすれば事故死の数が半減するのです。

人口動態統計は死亡数だけで、事故に遭って入院した子どもの数、溺れかかって意識が無いなど重症になった子どもの数など詳細なことはわかりません。例えば窒息して入院した子どもが、数年経ってから肺炎で死亡すると、死因は事故ではなく肺炎となってしまいます。

これらを含めれば、事故死の件数は人口動態統計の数値よりも多くなります。統計上は死亡数しかわかりませんが、入院した事故、外来受診した事故、家庭で処置をした事故など、現実には膨大な数の事故が毎日起きているのです。しかし、それらのデータは得られません。

子どもの事故に関する年報としていくつか報告されていますが、どの報告においても「今年も去年とほぼ同じ結果であった」と記載されています。どのような調査機関が調査を行っても、いつも同じデータしか得られないのです。日本中毒情報センターの受信件数は毎年35,000件前後、日本スポーツ振興センターの災害共済給付件数は110,000件、救急隊の出動件数も毎年ほぼ同じ数値で、交通事故による死亡数もほぼ横ばいです。

同じような事故の実態が報告されるだけで放置されており、具体的な予防策が行われていない点が最も問題だと考えています。

つまり、人口動態統計のデータを見て、「事故による死亡数が減った」といっても微々たる数であり、現実には膨大な数の事故が発生し、多くは同じことが繰り返し起こっているという事実を認識する必要があるのです。

医学生は、国家試験対策として「不慮の事故が子どもの死因の第1位」であることを知ってはいるものの、どのような事故があるのか、またその治療法を教わったことはありません。頭部外傷やけど、誤飲・誤嚥など、診療する機会が多い事故の対処法すら知らないのです。

私が若手医師だったころ、自分の病院に来た患者さんをみてみると、事故の内容はおおよそ定まっていました。具体的には、転倒・転落、タバコの誤飲、溺水などを多く診ました。そういった事故に対する処置は、前述のとおり経験も知識もありませんでしたから、文字通り見よう見まねでやっていたものです。しかし、いつも同じような事故に遭った子どもが病院に来るので、次第に自分のやっていることに違和感を抱き始めました。

当時は、子どもの事故が起こると「親の不注意」と指摘され、それが原因だと思われていたため、誤飲などで来院した子どもの保護者に対して厳しく注意する医者もいました。確かに、親が不注意だった面が無いわけではないかもしれませんが、また同じような事故で子どもが運ばれてくるのです。それらをずっと経験して、これは何か別の要因があるのではないかと思い始めました。

繰り返しますが、事故が起きていること自体は、医療関係者も行政側も把握しているのです。しかし、「事故はこんなにたくさん起こっています。事故を起こさないよう注意しましょう」という指摘で終わってしまっています。そう指摘しただけでは事故を予防することはできません。漠然と注意するのではなく、具体的に、何について、どうやって予防するのかを示す必要があります。子どもの事故は、何か月になったら、あるいは何歳になったらどんな事故が起こるかわかっています。発達に伴って、起こるべくして起こるのが事故なのです。

 

★「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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