生まれつき気管が細くなっている先天性気管狭窄症では、重症であれば気管形成術によって太い気管をつくる必要があります。全国でもっとも多くの症例を手がけている東京都立小児総合医療センターで外科の診療科責任者を務める医長の小森広嗣先生に、先天性気管狭窄症に対する気管形成術についてお話をうかがいました。
気管形成術とは、狭窄している気管の外周を拡げる方法です。難易度の高い治療法であり、手術中は人工心肺を使って換気の補助をする必要があります。また心疾患の合併も多くみられ、術後に集中管理が必要な手術となります。
狭窄部が長いタイプではスライド式気管形成術という手術を行います。狭窄部の比率を指標として手術適応を判断しています。
(東京都立小児総合医療センターのホームページより引用)
気管狭窄の範囲が長い場合は、狭くなっている部分を切除して正常な気管の端同士を吻合(ふんごう・つなぎ合わせること)するのではなく、スライド式気管形成術という術式を用います。これは狭窄範囲の中央で気管を切り離し、上部気管の後壁と下部気管の前壁を縦切開したうえでそれぞれをスライドさせ、重ねあわせて吻合するものです。この方法によって気管の外周をおよそ倍の太さにすることができます。
狭窄部を切り離し、残った気管の端同士を吻合した場合と比べると、スライド式気管形成術では吻合のために移動する距離が半分となります。このことにより吻合部が引っ張られる力が軽減し、縫合不全や肉芽(にくげ)形成の合併症が減少しました。
狭窄範囲が短ければずらして重ねる範囲は少ないのですが、ほとんど気管全長にわたって狭窄しているような場合には、この方法をもってしても吻合部にかかる緊張はどうしても高くなります。
もともと複雑心奇形(心臓に複数の異常があること)があって酸素の循環が悪い場合などは、吻合部がうまくつながらずに外れてしまうと命にかかわることになります。非常にきわどい場所の手術であることに加え、特に乳児の場合はもともと気管そのものが小さいため、少しむくんで内腔が塞がってしまうと、傷が治る前に空気が送られなくなってしまいます。
そういった意味ではたしかにまだ手術のリスクはありますし、高リスクかつ重症な状況で来られた患者さんは救命できなかったケースもあります。しかし東京都立小児総合医療センターとして都立の3病院が統合され、集学的な治療が強化されてからは、ある程度低リスクでもともと元気な子どもであればほぼ100%救命することができるようになりました。
1例目から現在までのトータルでみるとまだ10%前後の死亡率というデータもあり、かなり難治な病気であることは事実です。しかし、かつてこの病気はほぼ100%助からなかったという時代がありました。その後1989年にスライド式気管形成術の原型となる新しい発想の術式が報告され、我々もそのオリジナルから学んで、1998年からこの術式を取り入れています。導入してからもう十数年ほど経過しており、その間に練り込まれた技術の積み重ねもあります。
窒息状態で運ばれてきて生命の危機に瀕していた子どもであっても、手術を受けていただくと中長期の成績は非常に良好で、元気になって帰っていきます。その後はまったく普通の生活が送れますので、生活の質は劇的に良くなるでしょう。
小森こどもクリニック 院長、東京都立小児総合医療センター外科 元医長(診療科責任者)
小森 広嗣 先生の所属医療機関
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