あまり馴染みのない疾患名と感じられる方も多いと思いますが、「絨毛性疾患」は妊娠した女性ならば誰にでも起こりうるアクシデンタルな病気です。九州大学病院産婦人科の兼城英輔先生に、絨毛性疾患についてお話をうかがいました。
妊娠に関連して起きる腫瘍あるいは腫瘍に類似した病変のことを絨毛性疾患といいます。妊娠時に胎盤の大部分を占める「絨毛」と呼ばれる組織は栄養膜細胞(トロホブラスト)で構成されていますが、絨毛性疾患は絨毛もしくは栄養膜細胞から発生し、絨毛性疾患の大部分を占めているのが「胞状奇胎」です。
基本的にはアクシデント的な妊娠という位置づけになるので、絨毛性疾患は妊娠に対し一定の頻度で発症します。傾向的には、欧米よりもアジア系、日本や東南アジアに多く発症します。
絨毛性疾患の多くを占めている胞状奇胎の日本における発症の割合は、妊娠1000例に対して2例程度、あるいは最近では少し減って1例程だといわれています。日本では年間におよそ100万人の赤ちゃんが生まれているので、初期の流産や中絶などの症例まで含めると全体のおよそ1~2%、つまり国内では年間に2000~3000例ほどの胞状奇胎が発生しているのではないかと推測されます。
胞状奇胎に関しては、遺伝学的な異常であることが判明しており、2本あるDNAのうち、母親由来のDNAが欠損し父親由来のDNAが2本あるものを「全胞状奇胎」、正常なDNAを持つ卵子に精子が2個受精した場合に起きるものを「部分胞状奇胎」といい、このふたつに分類されます。
発症リスクとしては、母親の年齢と深く関与しており、特に40才以上になると発症リスクも高まります。しかし、20~30才代では年齢に比例して発症率が高まるということではなく、排卵した卵子の質がたまたまよくなかった、つまり「卵子の異常」によるものと考えるとわかりやすいでしょう。
妊娠数自体は20代や30代、あるいは10代が多いので、どの年代でも起きる可能性があります。ただし、胞状奇胎になった患者さんが、次の妊娠の胞状奇胎の発症リスクが高くなることはありません。
絨毛性疾患には、胞状奇胎のほかにも絨毛がんや胎盤部トロホブラスト腫瘍、存続絨毛症などいくつかの種類に分けられます。同じ絨毛性疾患といっても種類によって特性も違い、特に、悪性度の高い絨毛がんは転移を起こしやすいがんとして知られています。治療法や治療後の経過観察の方法種類によっても異なりますが、絨毛性疾患の多くは、妊娠性のホルモンであるhCGが高値となるので、治療後hCGの測定が必要となったり、一定期間避妊しなければならなかったりします。
日本産科婦人科学会による絨毛性疾患の分類では一般の方には分かりにくいので、まず胞状奇胎は全胞状奇胎と部分胞状奇胎にわけられ、さらに胞状奇胎の続発症である侵入奇胎/臨床的侵入奇胎、悪性度の高い絨毛がん/臨床的絨毛がんに分類されると、簡略化して理解していいと思います。
稀ではありますが、正常妊娠から突然絨毛がんを起こす場合もありますが、基本的には胞状奇胎が発症して、その後一部に続発症が起き、その続発症の多くが侵入奇胎で、ごく一部が絨毛がんへと進んでいくと考えると分かりやすいでしょう。
北九州市立医療センター 主任部長
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