1968年、西日本を中心に発生したカネミ油症。発症から50年近くが過ぎた現在においても、ダイオキシン中毒に対する診察や検診が継続して行われています。九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター長の古江増隆先生に、油症(カネミ油症)についてお話をうかがいました。
油症とは、米ぬかオイル(ライスオイル)の製造過程で、脱臭加熱のために用いられていたPCB(ポリ塩化ビフェタール)が、オイルの中に混入し、それを知らずに購入し摂取した人たちに発症したダイオキシン類中毒のことです。いわゆる「カネミ油症事件」としてご存知の方も多いでしょう。
カネミ油症事件が起きたのは1968年のことで、当時私は12歳の小学生でした。私は鹿児島出身ですが、同じ九州ということもあってテレビや新聞などで大きく報道されていたので、油症についてはかすかに覚えている程度でした。
油症との出会いは、私が九州大学病院に赴任した1997年のことです。九州大学病院に着任したことで、油症患者さんの検診を担当することになりました。私は皮膚科の医師ですが、赴任した当時は、油症についての知識はほとんどありませんでした。しかし着任後、油症についていろいろと調べたり、学んだりする中で、ダイオキシン類およびPCBによる複合中毒症ということで皮膚症状が強く現れる病気であることなどがわかってきました。そのような背景から、診断や検診においては皮膚科の占める役割が非常に重要だったのです。
油症では、非常に多くの方がダイオキシンに汚染された米ぬか油を摂取し中毒を起こしました。正式に認定された患者数は、これまでにおよそ2000人ほどです。油症事件が起きた当時は、ダイオキシン類を測定することができなかったため推定になりますが、正常な人の体内に含まれる濃度の3千倍から1万倍のダイオキシンに汚染されたと考えられています。油症が発生してから50年近くになりますが、存命されている1400人ほどの患者さんに対しては、いまでも検診や診察を行っています。
ダイオキシンには非常にたくさんの種類があります。その中で最も毒性が強いのがTCDDというものです。エージェントオレンジと呼ばれ、ベトナム戦争のときに散布された枯れ葉剤にはTCDDが含まれていました。
ダイオキシン類は大きく分けると、TCDDと化学構造や毒性などが類似しているPCDD(ポリ塩化ジベゾパラジオキシン類)、PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン類)、DL-PCB(ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル類)の三種類があります。
現在では419種のダイオキシン類が世界的に定められており、内訳はPCDDが75種類、PCDFは135種類、PCBが209種類となっています。ダイオキシン類の毒性については、狭義のダイオキシンであるTCDDの毒性を1とした相対比(TEF: toxic equivalent factor)で定義されます。
カネミ油の中にも非常に多くの種類のダイオキシン類が混入していたことが、後の調査で判明しました。同じダイオキシンでも、毒性の低いものではTEF 0.00000001程度の、ほぼ毒性のないものなどさまざまなタイプがあります。しかし残念なことに汚染されたカネミ油では、毒性の強いTEF0.3のPCDFが大量に含まれていたのです。