インタビュー

油症(カネミ油症)への取り組みについて-治療法を模索して

油症(カネミ油症)への取り組みについて-治療法を模索して
古江 増隆 先生

九州大学油症ダイオキシン研究診療センター長/九州大学皮膚科学 教授

古江 増隆 先生

油症(カネミ油症)発生から50年近くが経過した現在においても、油症患者さんの体内には高濃度のダイオキシンが残留しています。しかも経年でダイオキシン類の数値はほとんど減少しないこともわかりました。患者さんは高濃度をダイオキシン類に暴露されつづけながら生活を続けているのです。九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター長の古江増隆先生に、油症治療への取り組みについてお話をうかがいました。

ダイオキシン類濃度の低減には限界も

体内のダイオキシン濃度の測定が可能となり、新しい認定基準が加えられたのは2004年のことでした。認定基準が加えられたことで、80人ほどの患者さんが新たに油症と認定されました。

PCBに関する議論は、1970年になると世界中で活発に交わされるようになりました。その結果、PCBの毒性についてはグローバルな基準が設けられ、日本国内では生産することも輸出することも禁止されました。そのため、日本においては環境中のPCB値は1970年代までが一番高値であり、私たち中高年の親世代が体内のPCB濃度が一番高いということになるのです。しかし、その年代の方々は今でも非常に元気な方々がたくさんおられることから考えますと、通常量の曝露ならばあまり問題にはなりません。

ただ油症患者の場合のPCDFは毒性も高く血中濃度も依然として高いので問題です。重要なこととして、体内に蓄積されたPCDFは、想定していたほどには減少しないこともわかりました。

高濃度のダイオキシン中毒を起こした油症患者さんの場合、当初例えばダイオキシン類の濃度が10万くらいだったとすれば、1年後には1万程度にまで減少します。さらに10年後になると、おそらく3000とか2000程度には減っていると推定されます。

2004年から油症患者の血中ダイオキシン濃度を測定していますが、10年間のデータから、ダイオキシンはある程度の値までいくと、それ以下には数値が減少しないことがわかってきました。例えば、通常の人の血中ダイオキシン濃度を10とすると、油症患者さんの場合はその5倍、10倍、100倍も高い血中濃度を維持したままであるということです。つまり、それだけ高濃度のダイオキシンを体内に蓄積したまま生活していることになるのです。このような現状を考えると、日常生活上でも体調不良を訴えられるのは当然のことだといえるのです。

では治療をどうするか、ということに重きが置かれることとなりますが、過去の例をみても、例えば水銀による中毒が起きたときに治療が行われたか、というと誰も治療できないままにいるのです。ましてダイオキシン類というのは軍需産業に利用されるような物質ですから、未だかつてダイオキシン中毒に有効な治療法など報告された例もないのです。

ダイオキシン受容体の作用

ダイオキシン類が毒性を発揮するためには、受容体といって、毒性を起こすための受け皿が必要であることがわかっています。これはダイオキシン受容体といわれるもので、英語ではアリルハイドロカーボンレセプター、AhRと呼ばれています。このAhRという受容体が無い動物では、ダイオキシンによる毒性症状がほとんど現れないという論文は古くから報告されていました。

研究を進める中で、この受容体はダイオキシン類だけではなくいろいろな植物由来の化合物と結合することがわかってきたのです。たとえば、ワインなどに含まれるポリフェノールなどもAhRを活性化しますが、ダイオキシン類と違って健康に良い作用をすることが知られています。いい方を換えれば、AhRは地獄の門番の閻魔大王様みたいなもので、体に悪いものと良いものを振り分ける役割を持っているのです。

研究を重ねる中で、体に悪いものがAhRに結合すると酸化ストレスを起こしますが、体に良いものがAhRに結合すると抗酸化作用を示します。ポリフェノールと結合するからといって、ワインをたくさん飲むことを勧めるわけにもいかないので、それに似た物質をスクリーニングすることになりました。患者さんからも意見を聞き、最終的に到達したのが漢方薬だったのです。