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油症(カネミ油症)の症状を抑える治療法-有効性のある漢方薬とは
油症では、体内に蓄積され排出が困難な高濃度のダイオキシン類中毒によって現れる症状を抑える治療法が模索されてきました。九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター長の古江増隆先生に、油症(カネミ油...
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油症(カネミ油症)の症状を抑える治療法-有効性のある漢方薬とは

公開日 2016 年 05 月 20 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

油症(カネミ油症)の症状を抑える治療法-有効性のある漢方薬とは
古江 増隆 先生

九州大学油症ダイオキシン研究診療センター長/九州大学皮膚科学 教授

古江 増隆 先生

油症では、体内に蓄積され排出が困難な高濃度のダイオキシン類中毒によって現れる症状を抑える治療法が模索されてきました。九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター長の古江増隆先生に、油症(カネミ油症)による症状を緩和するための取り組みについてお話をうかがいました。

高濃度のダイオキシンはいまも体内に残留

油症は1968年西日本を中心に、ダイオキシン類に汚染されたライスオイルを摂取したことで発生したダイオキシン中毒です。ライスオイルにはPCBやPCDFなどのダイオキシン類が混入しており、これらの物質は油症発生後50年近くが過ぎた現在においても患者さんの体内に残留しているのです。油症の特徴である皮膚症状や眼症状については、現在では軽減してはいるものの、全身倦怠感をはじめ頭痛や四肢のしびれ感などの症状は多くの患者さんにいまも現れているのです。

油症の治療といっても、体内のダイオキシンを完全に排出させることはできず、確立した治療法もないのが現状です。ただ、様々な研究を行う中で、ダイオキシンには毒性を発現させるための受容体(AhRレセプター)があることがわかりました。

また、ダイオキシンの受容体は毒性の物質と結合するだけでなく、ポリフェノールなど体によい物質とも結合することがわかってきたのです。

しかし、油症に対する西洋薬はなく、新たに薬を開発するとなると莫大なお金や時間がかかり、とても研究開発というベースにのせることは無理だと判断しました。そこで、油症に対する治療法がない状況の中、治療に関しては発想の転換をすることにしたのです。

油症の特徴的な症状は減少したとはいっても、患者さんたちには未だに全身倦怠感をはじめとする様々な症状が持続しています。酸化ストレスによって起こる症状や、女性であれば生理不順や生理痛などを訴えられる方もおられます。そこで、これら持続する症状を、高血圧や糖尿病などと同様に慢性疾患ととらえてみることにしたのです。高血圧であれば降圧剤で血圧を安定させることができますし、糖尿病であればインスリンで血糖を下げるといったように、ダイオキシンによる毒性も慢性疾患として考え、その作用を抑える効果のあるものを服用することで、症状を軽減できるのではないかと考えたのです。そこでたどり着いたのが漢方薬でした。

唯一、有効性が判明している漢方薬は麦門冬湯

現在、その有効性がはっきりとわかっているものは、麦門冬湯(ばくもんとうとう)です。麦門冬湯には、もともと咳や痰といった呼吸器症状を改善する効果があります。ダイオキシン類が体内に入ってくると気道の喀痰形成が促進され、慢性の咳や痰の症状がでます。麦門冬湯は油症患者さんの咳や痰も有意に抑えることがわかりました。

現在は、AhRの作用を抑制できるような漢方方剤のスクリーニングを行っています。麦門冬湯以外にも桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)という薬の臨床試験が現在進行中です。油症患者さんはメタボリック症候群様の症状が現れることも多く、特にトリグリセリドという中性脂肪が上昇しやすい傾向があります。しかし、3か月ほど桂枝茯苓丸を服用してもらうことで、多くの患者さんでトリグリセリドが下がることもわかってきたのです。

油症との出会いがあったからできたこと

ダイオキシン類の受容体であるAhRはさまざまな化学物質を認識する受容体で、皮膚や肺、腸管や目など体の表面に多数分布していることがわかっています。逆の見方をすれば、それらの箇所に症状が現れるということです。皮膚に多く症状が発現しているということは、皮膚にとっては非常に大切な受容体であるともいえるのです。最近では、AhRは免疫、発生、発達、神経生理、肝臓などさまざまな研究分野でとても注目されるようになりました。油症の治療研究を深めることは、皮膚や肺、腸管や目のみならず、免疫や神経などさまざまな病気の病態を解明することにつながることがわかりました。私は皮膚科医ですので、油症と出会う前はアトピー性皮膚炎や皮膚腫瘍を専門にしておりました。社会的責務の大きさから重圧を感じることも多かったカネミ油症ですが、皮膚科の研究だけでは得られなかった大切なものを得ることができました。それもカネミ油症との出会いがあったからだと思っています。

皮膚科領域では、厚生労働省アトピー性皮膚炎研究班長や日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドライン委員長などを歴任。油症では、2001年より全国油症治療研究班長を務める。油症の病態の解明と治療法の確立を目指す。