インタビュー

油症(カネミ油症)の症状と原因物質特定に至るまでの経緯

油症(カネミ油症)の症状と原因物質特定に至るまでの経緯
古江 増隆 先生

九州大学 油症ダイオキシン研究診療センター長、九州大学 皮膚科学 教授

古江 増隆 先生

この記事の最終更新は2016年05月18日です。

ダイオキシン類中毒である油症が発症して50年近くが過ぎましたが、未だに患者さんの病悩は続いています。九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター長の古江増隆先生に、油症(カネミ油症)の症状と原因物質特定に至るまでの経緯についてお話をうかがいました。

高濃度のダイオキシン類中毒であるカネミ油症で正式に認定された患者さんの数は2000人ほどです。全国油症治療研究班では、存命されている油症患者さんの検診や診察を発生以来現在に至るまで継続して行っています。

油症の特徴的な症状としては、黒色面皰、顔面や指趾爪の色素沈着などの皮膚症状、マイボーム腺からのチーズ様分泌物、眼瞼結膜および眼球結膜の色素沈着などの眼症状、足や手のしびれなどの神経症状や筋肉痛のほか、月経周期の異常といった婦人科症状などです。また、関節が腫れるなどの関節症状が強く出たり、下痢や脱毛などが起きたりします。

現在は皮膚症状や眼症状など油症で特徴的にみられる症状は減少していますが、頭痛や頭重感、咳や痰、腹痛や四肢のしびれ感、全身倦怠感といった体調不良を訴える方はいまもおられます。原因物質となったダイオキシン類の血中濃度は一般の方と比べると高く、PCDFsなどの残留濃度においても、ときが経過した現在でも未だに高いことが示されています。

・黒いニキビや赤みのあるニキビが多発する

・肌が乾燥して毛穴が目立つ

・チーズ様の目やにがでる

・爪、歯肉、唇や口の中、目の周辺などの皮膚が黒くなる

・顔面やわきの下、股などに小さな皮膚のふくろができる

・手足がしびれる

・関節がむくむ

・全身倦怠感や食欲不振

重症度 決定的所見

第1度 マイボーム腺からのチーズ様眼脂の排泄・色素沈着(爪)

第2度 面皰

第3度 挫瘡様皮疹・外陰部脂腺に一致した嚢腫・頚部、項部、前胸部の毛孔の著明化

第4度 全身の毛孔の著明化・広汎に分布する挫瘡様皮疹

油症の診断基準は、これまで数回の改定が行われました。現在の診断基準としては、まず発病条件としてPCBの混入した米ぬか油を摂取していることに加えて、以下に示す所見があげられます。

①ざ瘡様皮疹

②色素沈着

③マイボーム腺分泌過多

④血液PCBの性状および濃度の異常

⑤血液PCQの性状および濃度の異常

⑥血液2,3,4,7,8-PeCDFの濃度の異常

油症が発生してから原因の特定に至るまでには1年未満と、比較的早い段階で確定することができました。原因の追究を行うため九州大学内には疫学について調査する「疫学班」、分析を行う「分析班」、そして臨床を行う「臨床班」からなる三つのグループが立ち上がりました。油症の発症当時に九州大学病院を受診した患者さんが多数いたことで、疫学調査を加速できたと思われます。

発症当時に油症患者さんの診察を担当した医師は、顔面の色素沈着などをみて普通の病気ではないという感触を早い時期からもっていました。

「どうも塩素ざ瘡(えんそざそう)のようだ、であれば調べれば何か出てくるのではないか」ということで調査、追究が行われたのです。当時はまだPCBという概念がなかった時代でしたが、カネミ油の中に何か入っていたのではないか、それがPCBではないか、ということが塩素ざ瘡などの症状から原因物質の特定へと繋がっていったのです。

  • 九州大学 油症ダイオキシン研究診療センター長、九州大学 皮膚科学 教授

    日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医日本アレルギー学会 アレルギー指導医

    古江 増隆 先生

    皮膚科領域では、厚生労働省アトピー性皮膚炎研究班長や日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドライン委員長などを歴任。油症では、2001年より全国油症治療研究班長を務める。油症の病態の解明と治療法の確立を目指す。

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