ICD(implantable cardioverter defibrillator:植え込み型除細動器)は胸部に植込まれる小さな装置で、心臓が正常に拍動し続ける手助けをします。過度の頻脈になった場合、心臓に強い電気ショックを与えて正常な拍動に戻してくれるのです。
心疾患を持つ多くの人は、この装置によって命を救われることがあります。しかしもし死期が近い場合、この電気ショックのせいでかえって状態が悪化する可能性もあります。以下にその理由を挙げます。
心不全もしくはその他の病気で死期が近づいている場合、ICDはあまり有用ではありません。
・電気ショックで心疾患の悪化を止めることはできません
・電気ショックは、胸を蹴りこまれたような痛みを引き起こします
・不安、恐怖、抑うつを生じさせてしまう可能性があります
・終末期の致死的な不整脈については対処ができません
死に至る過程をより長く、不快なものにしてしまうかもしれませんし、心臓が悪くなるにしたがって電気ショックの回数が多くなるかもしれません。そして、救急外来を受診する回数や入院回数が増え、より侵襲的な治療を受けることが増えるのです。
ICDのスイッチを切ると電気ショックは生じません。もし死期が近い時にICDのスイッチを切ってほしいのであれば、医師や家族に前もって話しておきましょう。
●自身がまず何を望むのか
もし死期が近いのであれば、少し長生きするよりも安らぎが重要であると思うこともあるでしょう。心不全やがんで少しずつ弱っていくよりも、不整脈によって速やかに、痛みなく死ぬことを望む人もいるでしょう。
●どういった時に、ICDのスイッチを入れておくべきか
QOLが良好で、数日・数週間以上生きられると思われる場合、ICDのスイッチを入れておくことは理にかなっています。ただ死ぬ間際にあっても、ICDを作動させておきたい人もいるでしょう。孫の誕生といった特別なことがひかえている場合もありかもしれません。
●ICDのスイッチを切ることで実際に起こることを想定する
ICDのスイッチを入れておくことは、心臓の拍動を正常に戻すことを必ずしも保証するものでないということも心に留めてください。
最期の時に行う、ICDにまつわる選択
自分の価値観と希望を見つめる
以下の事を医師に聞いてみましょう。
・病気がどれほど長引くのか
・悪化した時にどのような症状が現れるのか
・他の治療にはどのようなメリットとデメリットがあるのか
・ICDが自分の希望を叶える助けになるのか
早い段階から家族と一緒にこういった話をしてください。いつか、自分が話せない状況で家族が代わりに自分が望んでいることを話してくれることになるかもしれません。
・病状が深刻で意思疎通ができなくなった場合に、事前指示書で自分がどういった医療を望んでいるのかを伝えることができます。
・また、信頼できる家族や友人の名前を書き、自分で意思決定ができなくなったときにどういった治療を受けるか決断してもらうようにもしておけます。こういった人のことを医療代理人といいます。
ホスピスでは、最期の数か月を心地よく過ごすサポートを受けることができます。もし治療(延命治療を含む)を受けることを望まないのであれば、ホスピスへ行くことを選択できます。ホスピスでは痛みを軽減し辛さを取り除くようなケアを受けることができ、また家族への援助も受けられます。自宅でホスピスケアを受けることも可能で、メディケアや多くの民間保険がホスピスの費用を賄ってくれます。
ホスピスやその他の緩和ケアの情報についてはインターネットなどで知ることができます。
※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。
翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 大阪大学医学部付属病院 佐竹祐人
監修:小林裕貴、徳田安春先生
群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長
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