妊娠を希望する女性にとって、年齢は非常に大きな意味を持ちます。女性の妊娠と適齢期、そして性の健康とリプロダクティブ・ヘルス/ライツについて、引き続き帝京科学大学教授の齋藤益子先生にお話をうかがいました。
妊娠は男性の精子と女性の卵子が受精することから始まるということについては、多くの方がご存知かと思います。受精に必要な精子は精巣内で常に作られていますが、卵子は数に限りがあります。これは、卵子のもととなる卵母細胞は女性が胎児のときに体内で作られて、出生後増えることはないためです。
また、卵母細胞があるからといって、必ず妊娠できるとは限りません。加齢などの要因により、卵子が奇形になるということも十分あります。すると、たとえ受精できたとしてもうまく着床できない、その後も流産をしてしまう確率が高くなるのです。
こうしたことを考慮したうえで、中学生や高校生を対象に行う講義では、25~35歳が妊娠出産に適した時期だと伝えるようにしています。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは、1994年にカイロ国際人口開発会議で採択された『性と生殖に関する健康・権利』のことです。リプロダクティブ・ヘルスは、精神的・肉体的そして社会的にも満たされた性生活を営むこと、そして子どもを持つもしくは持たないことに対する自由を意味しています。リプロダクティブ・ライツは性に関する健康を享受する権利のことです。リプロダクティブ・ヘルスにおける生殖の自由を、リプロダクティブ・ライツによって差別や強制暴力などを受けることなく自分たちの意志によって責任をもって決定できる、ということです。
翌1995年に開催された北京会議では、このリプロダクティブ・ヘルス/ライツは、すべてのカップル及び個人が有している人権であると認められ、採択文章にも明記されました。それまで女性だけの問題とされてきた妊娠と出産に関する問題は、男女共に平等であり、双方の同意と共同の責任という認識が生まれたのです。
「25~35歳が妊娠と出産に最も適した期間だ」という内容を学校で使用する教科書に妊娠や年齢に記載をしてほしいと要望したときに「産むことを押し付けているのではないか?」という意見が出たこともあります。しかしこれは、すべての女性に子どもを産むことを強要しているというわけではありません。
40歳でも産めると思っていたら卵子が少なく子どもを産めなかった、不妊治療は大変だと聞いていたが想像以上に金銭的にも精神的にも負担が大きかった、こうした話をあちこちで耳にします。
教科書を通じてメッセージを発することで、これから大人になる中学生・高校生に、妊娠出産など性に関する正しい知識を身につけてほしいのです。
将来子どもを産むのか、産まないのか。もし産むのであれば、いつ産むのか。「それでも私は仕事を続けたい」「パートナーとの子どもを今のうちに産んでおこう」「仕事も大切だけど、30歳になったら子どもを産もう」など、妊娠・出産に対してさまざまな考えがあります。女性は「産む性」として、妊娠や出産の時期をコントロールする権利があります。男性も「産ませる性」として、子どもが欲しいと思えば同様に主張する権利があります。
男性と女性、それぞれがお互いの考えを尊重して話し合い、カップルにとって最良の選択をする。そのためにも、今後妊娠や出産を考えているカップルは、妊娠や出産についてもう一度話し合ってみてください。