インタビュー

スマホ老眼とは? 目のみならず脳も疲労する

スマホ老眼とは? 目のみならず脳も疲労する
原 直人 先生

国際医療福祉大学 保健医療学部 視機能療法学科 教授

原 直人 先生

この記事の最終更新は2016年07月26日です。

「スマホ老眼」とは、スマートフォンの小さな画面を長時間凝視することにより、ピントが近くに合ったままの状態となり、どこをみてもぼやけるような状態を指します。スマートフォンや電子書籍を見ることと紙の書籍を読むことは、視機能や脳にとってどのような違いをもたらすのでしょうか。文庫本と電子書籍を用い、脳の疲労度や目のピント調節機能の差異を調べる実験を行われた国際医療福祉大学病院眼科教授の原直人先生にお話しいただきました。

近くのものがみえにくくなる老眼とは、「目の老化現象」のひとつであり、通常であれば40歳前後から始まります。しかし、スマートフォンの長時間使用などがきっかけで起こる「スマホ老眼」は、小児や成人でも20代30代など若い世代の方にもみられる現象です。

近くのものを見るとき、カメラのレンズのような役割を担う水晶体は分厚く膨らみピントを合わせています。この厚みを調整するのは毛様体筋という筋肉であり、近くを見るときは緊張した状態になります。スマホ老眼とは、至近距離のものを見続けることで筋肉の緊張状態が長時間続いてしまい、結果として調節機能の低下により近方も遠方もぼやけて見える状態を指します。

スマホ老眼と聞くと、多くの方は前項で述べたような「眼球の問題」だけに目を向ける傾向があります。しかし、物体を見るという行為は、脳・神経系の情報処理により成立する行為です。たとえば、毛様体筋を緊張させて水晶体を膨らませるよう指令を出しているのは、ほかならぬ大脳です。ですから、私たち神経眼科医は、眼球以上に脳に焦点をあてて診察や研究を行っています。

具体例として、現在流行している小型ゲーム機器を用い、繰り返しゲームを行うATMT(Advanced Trail Making Test:疲労を客観的に評価するためのテスト)の目の疲労についてご説明します。このテストでは、ゲームという娯楽行為を行っているにも関わらず、脳の中の血流量はパソコン作業を行っているときと同じように「自覚的疲労度」も徐々に高まりました。ゲームを繰り返すことで脳の中で疲労を感知する「眼窩前頭前野」の血流変化が顕著にみられることが知られています。これは、水晶体や眼球ではなく脳の疲労であることがわかります。同じように長時間VDT作業を続けると徐々に効率が落ちてしまうのも、眼球ではなく脳が疲れるからこそ起こる現象であると考えます。

続いて、水晶体のピント調節機能に話を戻し、文庫本と電子書籍を同一人物が読んだときに生じる違いについてお話しします。これは、媒体と目の距離を「読書距離」といわれる30cmに保った状態で、一定時間文庫本と電子書籍での読書を続けてもらうという実験に基づくものです。まず、姿勢に関しては、文庫本はリラックスした状態で読むことができ、電子書籍は一定の姿勢(緊張した姿勢)でしか読まないということを、実験中被験者は述べていました。

読書スピードは文庫本45ページ、電子書籍60ページと、後者のほうが速いという結果が出ています。これは電子書籍のほうが鮮明な画像で読み易かったためと推測されます。しかし、同時に疲労感も電子書籍のほうが強かったとの感想が得られています。

私たちはこの実験の前後に、水晶体の厚みを多角的に撮影できる装置を用いて、ピント調節機能がどのように働いているかについても調べました。電子書籍を読んだ後に遠方と近方を繰り返し見る実験では、やや水晶体が膨らみ続けてしまい、遠方を見ようとしても痙攣したまま戻らない「ピントフリーズ」という現象がみられました。

“水晶体が厚いまま”とは、すなわち近視化しているということです。電子書籍のほうが速く読むことができたがために疲労が蓄積してしまったのか、はたまたLED画面からのブルーライトによる影響なのか、原因は現在研究段階です。ただし、近点を見続けることにより疲労や一時的な近視化、視界がぼやけるなどの症状が引き起こされるという事実は明らかになりました。

これまでのデジタルデバイス(ノートPCや3D映画など)と異なり、普及が進んだスマートフォンは、常に持ち歩き、毎日長時間見つめ続ける機器である、という特徴があります。このことから、今後若い方や子どもの近視化は増加するものと考えられます。

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