インタビュー

レーシックの次に登場した眼内コンタクトレンズ(ICL) ――手術の費用や術後の安全性

レーシックの次に登場した眼内コンタクトレンズ(ICL) ――手術の費用や術後の安全性
清水 公也 先生

山王病院アイセンター センター長、国際医療福祉大学 教授

清水 公也 先生

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この記事の最終更新は2017年03月24日です。

眼内コンタクトレンズ(ICL)手術とは、レーシック手術のように角膜をレーザーで削ることなく、乱視近視遠視を矯正できる治療です。

眼内コンタクトレンズ手術とレーシック手術の違いや、治療にかかる費用と時間について、山王病院アイセンター センター長の清水公也先生ににお話しいただきました。

レーシック手術と比較したときの眼内コンタクトレンズ手術の主な利点は、次の6点です。

  • 理想的な角膜の形状が維持される
  • 可逆性がある(手術前の状態に戻せる)
  • 適応が広い
  • 見え方の質が高く、くっきりとした視界が得られる
  • 視力の変動が少ない
  • 将来的に近視が戻ったり、ドライアイになる心配が少ない(2017年2月時点)

なぜこれほどのメリットが得られるのか、眼内コンタクトレンズ手術の特性と照らし合わせながら、詳しく解説していきます。

レーシック手術と眼内コンタクトレンズ手術の違いとして特に重要なことは、眼内コンタクトレンズ手術では角膜に手を加えないということです。

レーシック手術とは、角膜をレーザーにより薄く削ることで近視を矯正する治療です。しかし、この手術で削ることができるのは、角膜中央部の限られたエリアだけです。したがって、角膜には削らない、すなわち矯正されていないエリアも混在することとなり、見え方の質が低下します。

一方、眼内コンタクトレンズ手術では、角膜の形状を変化させる処置は行いません。

眼内コンタクトレンズ手術には「可逆性」、つまり元に戻すことができるという特徴があります。可逆性があることは、医学的に非常に重要なメリットです。

角膜は一度削ってしまうと生涯元に戻らないため、眼内コンタクトレンズ手術は医学的見地からもレーシック手術より安全性の高い治療であるといえます。

眼内コンタクトレンズ手術とは、目の中に特殊なレンズを挿入する治療であり、レンズの度数を調整することで、近視遠視乱視など幅広い症状に対応することができます。

レーシック手術では適応外とされていた強度近視や強度乱視なども矯正できる適応の広さもまた、眼内コンタクトレンズ手術の大きな強みです。

眼内コンタクトレンズ手術は、もともとレーシック手術で治療できない患者さんを対象として開発された視力回復(矯正)手術です。そのため、角膜が薄い方やドライアイの方の近視遠視乱視も矯正することができます。

特に、円錐角膜という角膜の病気を持っており、レーシック手術を受けられないだけでなく、一般的なコンタクトレンズも装用できない方にも受けていただけるという点は、患者さんの大きな希望になると感じています。

見え方の質がよいことも眼内コンタクトレンズ手術の利点です。人によっては視界のコントラストが手術前よりも上がることがあります。

イメージとしては、鮮やかでくっきりとした視界を得られると捉えていただくとよいでしょう。

前のページ『レーシックのメリットとデメリット――あらゆる欠点を補う眼内コンタクトレンズ(ICL)とは』では、レーシック手術後に夜間の視力が低下し、薄い灰色などが見えづらくなることがあると述べました。

一方、眼内コンタクトレンズ手術後は、夜間も比較的良好な視力が得られます。また、長期的にも近視戻りが少なく、視力も安定します。

眼内コンタクトレンズ手術は、その名のとおり特殊なレンズ(ICL)を目の中に挿入する治療です。そのため、手術後に度数が変化することはありません*

*ただし、近視眼特有の眼球の形状変化により近視が進むことがあります。

また角膜に手を加えないため、ドライアイになる心配もありません。

PIXTA
写真:PIXTA

眼内コンタクトレンズ手術は、基本的に点眼による麻酔をしてから行います。

具体的には、点眼薬で瞳孔を広げて麻酔薬を点眼した後、角膜に3.0mm程度の小さな切開を作り、虹彩と水晶体の間にレンズ(ICL)を挿入して固定します。

3.0mm程度の切開創は自己閉鎖するため、縫合する必要はなく、創口を確認して手術終了となります。

このようにシンプルな手順の手術ですので、治療にかかる時間は約10分です*

*手術時間は、病院や医師により差があります。

角膜に作る切開はごく小さなものですので、麻酔の効果が切れた後も痛みはありません。人によっては目の中がゴロゴロすることもありますが、このような違和感は手術当日のうちになくなります。手術直後からすぐによく見えるようになるため、両眼を同日に行う日帰り手術もできます。

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写真:PIXTA

ホールICLが登場してから現時点までに、白内障緑内障、視力低下など合併症の報告は1例もありません。また、市販の使い捨てコンタクトレンズを不適切に長く使用している方に多く見られる角膜内皮細胞の減少も、眼内コンタクトレンズ手術後には見られません。

冒頭で、眼内コンタクトレンズ手術はレーシック手術と違い可逆性があると述べました。つまり、万が一のときには取り外せるということです。今のところ、危惧される万が一の事態は起こっていませんが、今後症例数が増えていけば、合併症などの報告も出てくる可能性はあります。そのときにリカバリーできるということは、眼内コンタクトレンズ手術の医学的な強みです。

私たち医師は、常に最悪の事態も考慮に入れ、リカバリー可能な治療を選択することが大切です。

また、手術後10年や20年といった長い年数が経過していても元に戻せるということは、治療に臨まれる患者さんの安心材料にもなっています。

眼内コンタクトレンズ手術の一番のデメリットは、費用だと考えます。自費診療のため治療価格は各病院で異なりますが、当院の場合は両眼で約70万円(税別)となっています。

ただし、この費用は使い捨てのコンタクトレンズを約10年間購入し続けた場合の合計金額と同程度ですので、10年以上コンタクトレンズを使用される方であれば、眼内コンタクトレンズ手術を受けたほうが金銭的負担は軽くなるといえます。

現在、日本で眼内コンタクトレンズ手術を行える病院や医師の数は、142施設170名と多くはありません。なぜなら、眼内コンタクトレンズ手術を行うには、座学講習のほか、実技講習などを経て認定医の資格を取る必要があるからです。

認定制度を設けた理由には、レーシック手術が流行した際、眼科の専門医だけでなくさまざまなレベルの医師により治療が行われ、目の健康を脅かす問題が発生したことに対する反省があります。眼内コンタクトレンズ手術もレーシック手術と同じく、健康な目に対して手術を行うため、失敗は許されません。

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写真:PIXTA

乱視や視力低下などを矯正したいと希望される方は多く、安全性の高い眼内コンタクトレンズ手術を普及させていくことには大きな意義があると考えます。

そのため、現在私は認定医の資格を取るための実技講習において、受講者の手術技術をチェックするシニアエキスパートインストラクターの仕事を行っています。

また、日本眼科学会・日本臨床眼科学会のインストラクションコースと呼ばれる講座で、実際の手術の流れやケースごとの対応を講義しています。

インストラクションコースをはじめてから約7年が経ちましたが、聴講生は年々増加しています。

こうした取り組みを通して、確かな技術を持つ認定医を育てることが、一般の方への眼内コンタクトレンズ手術の認知度向上にもつながって欲しいと願っています。

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