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インタビュー

白内障手術の歴史と発展 白内障手術では総合的な「満足度」が重要になる

白内障手術の歴史と発展 白内障手術では総合的な「満足度」が重要になる
清水 公也 先生

山王病院アイセンター センター長、国際医療福祉大学 教授

清水 公也 先生

白内障の手術は日本において完成の域に達しつつあります。山王病院アイセンター センター長の清水公也先生は、日本に先駆けて白内障に対する水晶体乳化吸引術や新しい麻酔法を導入し、眼内レンズの開発にも精力的に取り組んでいらっしゃいます。今回は清水先生に、白内障手術の歴史から術式の進歩、今後の展望に至るまでをお話しいただきました。

白内障は紀元前の時点から認識されていました。しかし、当時は解剖学的な解明が進んでおらず、白内障は頭の中にある悪性の白い水が目に落ちてくることが原因で目が濁る病気(cascade:滝や水などの意)と考えられていました。18世紀に入ってから徐々に解剖学が進み白内障の病態が解明されていき、水晶体の白濁によって起こる病気であることが判明していきます。

白内障手術自体もその時点から存在していたといわれていますが、当時は解剖学的な面とともに消毒法や麻酔も確立されていなかったため、現在のように水晶体を摘出し眼内レンズを挿入する手術ではなく、針で白目を突き刺すという手術が適応されていました。「悪い水が目に溜まっているのであれば針を刺して水を流せばよい」という考えだったのです。

その後、解剖学が研究・解明されていくにつれて術式は改善され、さらに煮沸消毒という消毒法が見つかり、クロロホルムやコカインなどの麻酔の発見によって、本格的な白内障手術の原型が作られていくことになります。

19世紀より水晶体の摘出術が開始され、1949年からは人工レンズの挿入が適応されることになります。しかしかつての白内障手術では、水晶体を取り出すにあたり大量の麻酔を用いて目を大幅に切開する必要があり、1週間程度の入院期間を要していました。これを改善するために、アメリカの医師によって開発されたのが、水晶体を超音波によってあらかじめ小さく砕いてから取り出すという方法(超音波水晶体乳化吸引術)です。

超音波水晶体乳化吸引術は私が日本に持ち帰り、日本では1980年代より導入された手術法です。

超音波水晶体乳化吸引術では、まず水晶体嚢(水晶体周囲の皮)を残しつつ水晶体前嚢に小さな穴(5~6mmほど)を開け、超音波水晶体乳化器で白濁している白内障部位のみを破砕・吸引します。これにより白内障が除去されます。しかし、このままではレンズが無くなっている状態です。目のピントを合わせるために代わりのレンズが必要になりますので、摘出した水晶体の代わりとして眼内レンズ(人工水晶体)を水晶体嚢の中に挿入します。

超音波水晶体乳化吸引術の流れ

白内障手術は、現代においても日々進歩を遂げています。中でも私が携わったこととしては、上述した超音波水晶体乳化吸引術という術式の確立に加えて、眼内レンズや麻酔法の改良が挙げられます。

●白内障手術における眼内レンズの改良―メーカーとの提携開発

眼内レンズは、作家の吉行淳之介氏が眼内レンズ挿入を伴う白内障手術を受け、彼が書籍や雑誌などの様々な媒体でご自身の経験談を掲載して世間に広まったことがきっかけとなり、1985年に日本で認可されます。

眼内レンズはその後、我々眼科医とメーカーの提携開発によって、柔らかいプラスチック型のレンズ(小さな傷から折り曲げるようにして眼内に挿入できる)に改良されました。このレンズは現在のグローバルスタンダードになっています。

●白内障手術における麻酔の発展―目薬型の麻酔の確立

また、麻酔に関しても侵襲性の低い方法が開発されていきます。

1986年には日本で初めて目薬(点眼液)型の麻酔が用いられ、この麻酔のみで安全に白内障手術を行うことが可能となりました。この麻酔方法も日本から発し世界に広がりました。

これらのような新しい技術が確立された結果、白内障手術は同一日に両眼に行える安全な手術へとステップアップしています。術後の経過も良好であり、現在の白内障手術では術後1時間も経てば患者さんが通常通りの視力にまで回復することも不可能ではありません。

眼内レンズの挿入図―眼内レンズの開発や手術の進歩により、1980年代では年間1000例程度だった執刀数は現在年間130万件までに拡張した (画像提供:清水公也先生)

このように白内障の手術時間が短縮され、安全に行えるようになったことは大きな進歩ですが、同時に一部の方には「白内障手術は簡単な手術である」と誤解されるようになってきているのが現状です。また、稀にですが医師の中には、白内障手術時間の早さのみを売り物として、誤った形で宣伝する方もいました。

手術時間が短いことが良い手術ではありませんし、短いからといって簡単な手術というわけではありません。白内障手術への誤解や偏った宣伝により、白内障手術は誤った評価をされるようになってきていると感じています。

白内障手術を正しくとらえていただくためには、患者さんの「満足度」が重要になると考えます。

現代の白内障手術では、術後永遠に視力を提供することが可能です。そのため、単純に白濁した水晶体を摘出するだけではなく、人工水晶体によって近視遠視乱視などの屈折異常を同時に治療する屈折矯正手術の意味合いが強まってきています(詳細は後述)。

(屈折矯正手術の詳細については「視力回復のために―屈折矯正手術とはなにか」を参照)

極端な話、白内障手術によってこれまでの人生で最もはっきりと物が見えるようになる可能性もあります。つまり白内障手術には目の機能を向上させ、かつ近眼や乱視などから回復できるという利点があるのです。眼鏡をかけなくても生活できますし、所謂老眼が克服できる場合もあります。これが現在における白内障手術の最大の利点だと考えています。

ですから、これからの白内障手術においては「術後いかにして患者さんが満足する見え方を提供できるか」を考えることが重要です。医師は術前から患者さんの目の状態や職業、今後患者さんがやりたいと考えていらっしゃることを全て伺い、その方にとって最も良い見え方で術後の生活が送れるような治療を行うことが求められてくるでしょう。

「満足度」には様々な要素が含まれますから、手術時間という一つに着目してそれだけを評価したからといって患者さんが満足する良い手術にはなりえません。治療に関するあらゆる評価が含まれた「満足度」は、白内障手術を評価する最適な指標であると考えます。

*コラム① 山王病院アイセンターの取り組み

山王病院アイセンターでは、白内障手術後の患者さんにアンケートをとり、「手術が100点満点中何点であったか」を尋ねています。このアンケートはパラメディカル(医師以外の医療従事者。コメディカルともいう)の方々から聞いてもらっています。医師にはいいづらいこともあるからです。これにより、たとえば98点と点数をつけられた場合、なぜ2点引かれてしまったのかがわかります(手術治療そのものへの不満ではない場合もあります)。現在の課題は、スタッフ全員が満足度をいかに100点に持ち上げるかを考えることだと感じています。

*コラム② 最新の白内障手術 「フェムトセカンドレーザー治療」は有効か?

最近では、ご説明してきた水晶体摘出術のほか、フェムトセカンドレーザーを使った白内障治療も登場しています。

フェムトセカンドレーザーは、1000兆分の1秒間隔で角膜内にプラズマ爆発を起こして空洞を形成し、できた空洞を連結させることで水晶体を切断することができます。レーシックにも使用されている技術ですが、使用する機械が高価でありコストがかかる点、手術時間が長い点が難点です。

手術は怪我の一種です。そのため、白内障手術に限らず、どのような手術でも合併症は必ず起こる可能性があります。だからこそ、手術では最大限の利点を患者さんに提供し、起こりうる合併症を最小限に抑える工夫が求められてきます。また、起こってしまった合併症をどれだけ乗り越えられるかも重要です。

私がこれまでに約35000例の白内障手術を執刀した中でも、完全に手術が不可能であったケースはあまりありませんでしたが、白内障手術が難しい目の状態としては、以下のような場合が挙げられます。

・先天的に目の発育が悪い

ぶどう膜炎を合併している

膠原病など自己免疫性疾患に罹っている

外傷がある

このような患者さんの場合、どこまで明確に見え方の希望を追求するかという手術の目標値は下げざるを得ません。これは、あまり高い目標を設定してしまうと事故が起きる可能性があるためです。そのため、目標値を下げても良いかどうか予め患者さんにお尋ねしてから手術を行います。

術後3日間は清潔を保ちましょう。シャワーは4日目以降から浴びることができます。仕事に関しては、事務作業であれば手術の翌日から行っても問題ありません。過激な運動は1週間控えていただきますが、1週間を越えれば制限はなくなります。

手術前の白内障患者さんの眼球 (画像提供:清水公也先生)

 

手術後の白内障患者さんの眼球 (画像提供:清水公也先生)

今後の白内障手術では、術式の開発よりも眼内レンズの更なる発展が求められると考えています。

現状、術後の患者さんの視界(見え方)は、挿入された眼内レンズの種類によって異なります。現在導入されている眼内レンズには多焦点眼内レンズや二重焦点眼内レンズなどがありますが、これらは若いときの水晶体のように膨らんだり収縮したりしてピントを合わせることができないため、上手く遠方を見られません。遠方を見るときは老眼鏡が必要になります。

これらで明瞭に遠方近方の両方を見ることは困難であり、およそ10人に1人の患者さんは交換を希望される場合があります。

一方、単焦点レンズの場合は、遠方か近方のいずれかのみに焦点が合う眼内レンズであり、焦点が合わないほうを見る場合に眼鏡が必要になりますが、明瞭な見え方が得られます。

多焦点レンズ装着時の見え方のイメージ。やや鮮明度に欠ける (画像提供:清水公也先生)

こうした眼内レンズの現状を改善するために、目の中で自在に膨らんだり縮んだりする調節性眼内レンズの開発が必要となります。調節性眼内レンズが認可されて挿入できるようになれば、白内障手術の適応は大幅に変化します。たとえば、老眼回避の目的で40代から白内障手術が受けられるかもしれません。つまり、白内障手術における屈折矯正手術の意味合いがさらに増してくるのです。

調節性眼内レンズの開発により、「術後にどのような対象が見えるようになるか」を重視した、個々の患者さんの満足度をさらに向上できる手術へと進化する可能性が高まるでしょう。

※乱視矯正レンズについて―眼内レンズで唯一屈折矯正が可能

今回は多焦点レンズを例にご説明しましたが、唯一、乱視矯正レンズは調節内眼内レンズとして確立されており、レンズのみで屈折異常を矯正治療することができます。

乱視矯正レンズは私が世界で初めて開発したものですが、最近になって初めて製品化され、注目を集めています。

世界初の乱視矯正レンズ(人工水晶体) (画像提供:清水公也先生)

 

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