術後の矯正視力(メガネをかけての視力)を高めるだけでなく、乱視まで治すことによって裸眼視力(メガネをかけないで見える視力)まで高めることができる眼内レンズ。実は、眼内レンズにはさまざまな種類があり、遠くが見えるか、近くが見えるか、術後にどんな見え方を希望するかによって患者各人にふさわしいレンズが存在します。
眼内レンズは、硬いレンズよりもやわらかいレンズ、透明なレンズよりも黄斑変性症も予防できるような色のついたレンズ、球面のレンズよりも非球面のレンズというように、素材、色、つくりによって、それぞれに安価なものから高価なものまで存在します。なかでも乱視矯正用のトーリックレンズは高価で、海外ではプレミアムレンズとして扱われています。
海外では自費診療の対象になっており、高額な費用を払わなければ使用することができないトーリックレンズですが、日本では保険適用の対象になっています。ですから、保険でトーリックレンズを使用することができるのです。トーリックレンズを使用すれば、患者さんは乱視を治すことができ、メガネがなくてもよりはっきりした裸眼視力を得ることができるのです。
しかし、現在の保険制度では手術をすることによって病院に入る収入(診療報酬)が眼内レンズ代込みとなっているため、高価なトーリックレンズを使って手術を行う施設は極めて限られています。平成28年3月1日現在の白内障片眼手術の診療報酬は約12,000点(12万円)ですが、トーリック眼内レンズの定価は14万円なので病院がどんなに安く仕入れても採算をあとまわしにする覚悟が必要です。私は患者さんにとって最良の手術を提供することを診療の理念としていますので、術前に乱視があり、トーリックレンズが適応となる患者さんにはすべてトーリックレンズを使って手術を行っています。三井記念病院、秋葉原アイクリニック、日本橋白内障クリニック、松浦眼科の4施設ではすべてその方針を貫いています。
眼内レンズは、水晶体を包んでいるカプセルの中に移植され術後はその中でしっかりと固定されるものですから、簡単に取り替えることができません。一度移植された眼内レンズは一生使うことになります。レンズの寿命も半永久的です。移植したレンズの種類あるいは度数によって見え方が変わりますので、どんな眼内レンズにするかは非常に重要な問題です。また、最近では近くも遠くも見える多焦点眼内レンズも登場しました。新しいもの、高価なものほど良いと考えがちですが、万能に見える眼内レンズでも、必ず良い面も悪い面も持ち合わせています。レンズの性能、価格だけでなく「手術前に自分はどんな風に見えていたか」「これからのQOV(クオリティ・オブ・ビジョン)をどうしたいか」を考慮し、執刀医とよく相談してもっとも自分に合った眼内レンズを選択することが重要です。
眼内レンズは、大きく分けると2種類に分類できます。
近くか遠くのどちらか一方に焦点を合わせるレンズ。手術後メガネを必要とする。
・もともと近視、日常的にメガネをかけていた方
手もとが見えるように度数を合わせます。40センチほど離れた距離がもっともよく見えるようになります。遠くを見る際には0.1~0.2程度の視力しかない状態になるため日常生活上、常時近視用のメガネが必要となります。
・もともと遠視、正視の方、近視でもコンタクトを使用していた方、手もとを見るのに老眼鏡を使用していた方
遠くが見えるように度数を合わせます。テレビを見る、洗濯、買い物、掃除など日常生活をメガネなしで過ごすことができるようになります。ただし、新聞など手もとの細かいものを見る際には老眼鏡が必要となります。
遠くが見えるように焦点を合わせる単焦点レンズの見え方
単焦点レンズ(通常)、単焦点レンズ(トーリックレンズ)
手術費用(薬代込みの概算)
・片眼 18,000円(1割負担) 53,000円(3割負担)
・両眼 36,000円(1割負担) 106,000円(3割負担)
※コンタクトレンズ使用時でも近くを老眼鏡を使わずに見ていた方は、コンタクトの度数を弱めに処方されていた可能性があります。その場合、眼内レンズを遠方合わせでも少しだけ近視を残すことにより、術前と同じように遠くも近くもある程度の視力を得ることができます。
ただしこの場合、遠方の視力が落ちますのでしっかり見るためにメガネが必要です。また近方も細かい文字を読む時にはメガネが必要となります。
近くも遠くも見えるように焦点を合わせるレンズ。手術後メガネなしで生活できる。
多焦点レンズといっても、一般的には2重焦点レンズです。外からの光を遠くと手もとの2つの焦点にわけて網膜に写し出すので、遠方と読書の距離はよく見えますが、極端に近づけたり離したりするとピントが合いません。光を遠近2つに分けるため理論的には網膜面にボケた像が重なって写るので、影像の鮮明度は単焦点レンズにメガネを併用した場合より少なくなるはずですが、実際にはそれほど問題となることはないようです。
また、夜街灯の下を歩くと明かりの周りに輪が見えたり、車のヘッドライトの周りに光の輪が見えます。これは光を2つにわけているために必然的に起こる現象です。また、多焦点レンズは両眼に写った影像を脳が認識してはじめて見えるものなので、近方の見え方には少し慣れが必要です。50~60歳代の方は手術直後から近方も見えますが、高齢になるほど慣れに時間を要する傾向があります。また、目に緑内障や糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症などの白内障以外の疾患がある方は適応外となります。仕事上非常に細かい作業をする人や、また性格的に細かいことが気になる方にも向いていません。
積極的にスポーツを楽しみたい、手もとの台本を読みながら広い空間で稽古をする俳優さん、着物をよく着る方でよりお洒落のバランスを重要視される場合など、メガネをなるべく使いたくないという方に相応しい眼内レンズです。
従来の多焦点眼内レンズは2重焦点レンズであったため、読書の近距離と遠方はよく見えても、デスクトップパソコンのモニターやピアノの楽譜など中間距離が見づらいという欠点がありました。最近ではこの問題を解決するために、3重焦点の眼内レンズが開発され、こうした不自由を解決してくれました。
多焦点眼内レンズは老眼も治してしまうので、メガネなしでの生活を可能にしてくれる夢のレンズです。以前は乱視を治すトーリックバージョンの多焦点眼内レンズがありませんでしたので、術前から角膜乱視が強い方は、適応にはなりませんでした。なぜなら手術をして多焦点眼内レンズを移植しても角膜乱視のために、近くも遠くもピントが合わず、乱視を矯正するメガネが必要になったからです。乱視のためにメガネを掛けるのであれば、そのメガネに遠近両用の度数を入れれば済むことですので、多焦点眼内レンズを使う意味がありません。
どうしてもという患者さんには、多焦点眼内レンズで手術をしてから若い人が近視を治すのに行うLASIKで、乱視を矯正するタッチアップという処置が必要でした。最近では多焦点眼内レンズで乱視矯正効果もある、多焦点トーリック眼内レンズが実用化され、術前から乱視のある人も多焦点眼内レンズの恩恵に浴することができるようになりました。
多焦点眼内レンズは度数を決めるための精度の高い術前検査、乱視を作らない極小切開での手術が必要です。またトーリック多焦点眼内レンズでは、厳密な軸合わせと、検査、手術手技上も設備が整った施設で、腕の良い眼科医に手術を依頼することも重要なポイントになります。
多焦点レンズ(通常)
保険適用外※ただし、先進医療保険は適用 約800,000円(両眼・税別)
多焦点レンズ(トーリック)
保険適用外※ただし、先進医療保険は適用 約1,200,000円(両眼・税別)
眼内レンズは、ほかにもさまざまな機能があります。
通常、眼内レンズは透明ですが、少し着色されたものもあります。術後に起こる、ものが青っぽく見える「青視症」を考慮し、特に色を扱う仕事の方などに使用することがあります。
また、本来水晶体には有害光線を吸収したり除去したりする役割があるため、その代わりに移植する眼内レンズにも同じ機能を持たせ、紫外線に近い光の色をうまく吸収し、色の誤差を抑えることができます。それによって、紫外線誘因と考えられている加齢黄斑変性症などほかの病気の予防にもなります。
球面と非球面を比較すると、非球面の方が網膜面にシャープな影像を結ぶので、見え方がクリアになります。特に夕方から夜にかけては瞳孔が大きくなるため、従来の球面レンズよりクリアになるという利点があります。
三井記念病院 元眼科部長、日本橋白内障クリニック・秋葉原アイクリニック 委託執刀医
三井記念病院 元眼科部長、日本橋白内障クリニック・秋葉原アイクリニック 委託執刀医
日本眼科学会 眼科専門医
「手術で目を治す医師になりたい」という少年期からの夢を一心に追い眼科医に。外来、手術に明け暮れ、1992年、誰でも簡単に安定して白内障手術を行えるフェイコ・プレチョップ法を生み出し、4年後の1995年にはオリジナル手術器具プレチョッパ―を開発。特許申請をせず、世界中どこのどんな医師でも患者に負担の少ない質の高い手術を行えるよう、術式と器具の普及に努める。世界66ヵ国で手術法や技術を教える傍ら、2015年度は年間10,398件もの白内障手術を執刀した。「よりよく見えるように治す」患者第一主義の眼科医として臨床の道をひた走る。
赤星 隆幸 先生の所属医療機関
関連の医療相談が25件あります
白内障手術後
11月に強度近視からくる白内障手術を受け虹彩偏位になったがかかりつけ医に戻された。かかりつけ医はすぐに再手術しないととれにくくなると言われ白内障手術をした病院で再手術を12月に行った。虹彩整復・瞳孔形成術をしてから日数は経っていないが、夜ふとした時やサイドミラーから後ろの車のベッドライトや対向車のライトや街灯などから光の線が視えるようになった。車のフロントガラスが割れているような感じです。右目で、右から左へ効果線のようなものが1つの光に対して20〜30本前後全てがキラキラと光り、虹色が混じっている。白内障手術後に眼鏡を作ったが度があっていないからであろうと言われた。眼鏡を作りかえても裸眼でも視える。診察まで2週間あるが、だんだんと視えるのが酷くなってきた。眼内レンズもズレていないから大丈夫と言われていたが本当に大丈夫か心配。
白内障の手術について
見えにくさから検査を受けましたら白内障と診断されました。いずれは手術になるかと思いますが先進医療での手術と今までの手術はどう違うのかよくわかりません。 先進医療対応の眼科を選べば良いですか?
レンズの入れ替えは、しないほうがいいでしょうか?
右目を5月15日、左目は、5月22日に手術をしました。手術した直後は、右目1.2が、今、0.4です。両目で、0.9です。手元は、老眼鏡を使用しています。中には、手術時、どうしても微妙にレンズがずれることが、あるとのことで、メガネで調整するしかないそうです。レンズを入れ替えすることは、出来ないでしょうか?執刀して頂いた先生は、リスクがあることや、大学病院でないと出来ないと、言われました。
眼内レンズについて
白内障の手術にあたり、眼内レンズを多焦点にするか単焦点にするか悩んでおります。 費用的な問題ではなく、どちらにするか悩んでいます。 現状は、左右とも強い近視で、矯正しないと全く見えません。 仕事は、事務系でほぼパソコンを使います。 通勤に片道40分車の運転があります。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
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