インタビュー

白内障の手術-眼内レンズの種類とメリット・デメリット

白内障の手術-眼内レンズの種類とメリット・デメリット
清水 公也 先生

山王病院アイセンター センター長、国際医療福祉大学 教授

清水 公也 先生

この記事の最終更新は2016年11月14日です。

老化を止める薬がないのと同じように、「白内障を治す薬」は存在しません。点眼薬で進行を抑えることは可能ですが、白内障を治して視力を取り戻すためには手術を受ける必要があります。白内障の手術では、濁った水晶体のかわりに「眼内レンズ」を挿入しますが、この眼内レンズにはどのようなものがあるのでしょうか。それぞれのメリット・デメリットについて、世界で初めて乱視矯正レンズを開発された山王病院アイセンター・センター長の清水公也先生にお話いただきました。

白内障とは、目の表面を覆う角膜やレンズ機能を果たす水晶体が混濁することで、視力の低下をきたす目の疾患です。白内障とはー原因・症状・治療法を専門医が解説の約9割は「加齢」で、このほかに先天性の白内障やアトピー性の白内障などがあります。

日本における白内障の発生頻度は、50代で約50%、70代で約70%、80代では約80%となっており、年齢を重ねることで誰もが罹患する可能性があるといえます。

白内障の主な症状には、次のようなものがあります。該当するものがないか、セルフチェックしてみましょう。

  • 目がかすむ
  • 視界がぼやける
  • 眩しいと感じる
  • 中年期以降に近視が進む
  • 天候により見え方が異なる
  • 街灯など、灯りの周囲に虹がかかる
  • 月が二重・三重に見える

前項で挙げた白内障の症状が現れている場合は、眼科を受診しましょう。白内障の患者さんの大半は積極的に治療を受けなくとも、「視力が低下し、生活が不便になる」という不都合を抱えるだけで済みます。しかし、残りの約1割の方は、緑内障やブドウ膜炎など、別の眼疾患を併発しています。中でも最も危険な併発疾患は、急激な頭痛や吐き気を伴う急性緑内障発作です。これらの疾患を防ぐ意味でも、白内障は患者さんが不都合を感じた時点で治療したほうがよい病気であるといえます。

白内障は、医学の教科書上では4分類されますが、それぞれが同時に起こることも多々あります。そこで、ここではより理解しやすいよう、「核白内障」とそれ以外の「皮質及び前嚢下・後嚢下白内障」に二大別して解説していきます。

核白内障とは、水晶体の中央部から濁りが生じる白内障で、加齢のほか、硝子体手術後に起こりやすいことで知られています。

核白内障は、それ以外の白内障に比べると比較的視力が保たれやすいという特徴がありますが、近視がどんどん進行してしまうという問題点もあります。ただし、核白内障による近視は、初期はメガネを使用することで補える程度のものです。

一方、前嚢下白内障や後嚢下白内障、皮質白内障は、軽度であっても視力障害が強く出てしまいやすいという特徴があります。加齢のほか、アトピーやステロイド剤の服用が原因となることもあり、現在では核白内障よりも皮質及び前嚢下・後嚢下白内障の起こる頻度のほうが高くなっています。

白内障を「治す」ための治療法は、現在のところ手術しかありません。白内障の手術とは、混濁した水晶体を取り除き、その替わりに「眼内レンズ」という人工の水晶体を挿入するものです。

眼科では目薬を処方することもありますが、これはあくまでも「進行を抑えるための治療」です。より噛み砕いていうと、白内障とは老化現象の一種であり、年をとらない薬がないのと同じように、目の老化を止める目薬は存在しないというわけです。

「老化」という言葉からもわかる通り、その進行速度は人それぞれであり、実年齢は50代でも白内障は70代程度まで進行している方もいれば、その逆の方もおられます。糖尿病などの持病があると、実年齢以上の症状を呈する傾向が強くなります。

白内障の手術は広く一般的に行われていますが、それでも「手術」という治療法自体に不安や抵抗を感じてしまい、強い視力障害をきたしていても決断できないという患者さんもおられます。このようなとき、私はしばしば患者さんご本人に「一番大変な思いをするのはご家族かもしれませんよ。」といったご説明をしています。白内障の場合、手術を受ければ良好な視力を得られるため、自分自身の足で意図する方向へと動くことができるようになり、ご家族の補助が不要になります。実際に、周囲の人のことを考えて手術を受けようと決意される患者さんは多々いらっしゃいます。

また、過去には「お子さんやお孫さんと同居しているから生活には問題がない」という理由で手術を受けない選択をされる患者さんもみられましたが、核家族化が進んだことで、現在は積極的に手術を受ける患者さんも増えたように感じています。

白内障手術の一番の目的は視力回復ですが、現在は、患者さんが元来持っている強い近視遠視乱視を治す「屈折矯正手術」の意味合いも含むようになっています。

眼内レンズには単焦点レンズと多焦点レンズがあり、その中には様々な種類がありますが、私どもが世界で初めて開発した「トーリック眼内レンズ(単焦点レンズ)」は、屈折矯正を主眼に置いた乱視矯正レンズです。現在日本では、トーリック眼内レンズのみ保険適応となっています。

近方か遠方など、どこか1か所のみに焦点を合わせたレンズ。

近くも遠くもみえるよう、2か所に焦点を結ぶように設計されたレンズ

多焦点レンズは、厚生労働省から先進医療として承認を得ています。この情報だけをみると「多焦点レンズのほうが単焦点レンズでよりよさそうだ」と思われてしまいがちですが、私たち眼科医の中で、もしも自分が白内障手術を受けることになったとき多焦点レンズを選ぶ人はほとんどいないでしょう。なぜなら、多焦点レンズは10人に1人程度の頻度で、焦点が合わないという問題が起こるからです。遠近両用メガネとは異なり、多焦点レンズとは目の中に常に遠方と近方の映像が常に入っている状態を生み出します。結果、脳内では混乱が起こりやすくなります。(Waxy Visionといいます。)

また、一度挿入した眼内レンズを取り出すには、再び手術を行う必要があり、患者さんにとって非常に大きな負担となります。このような背景があるため、現在日本で行われている白内障手術のほとんどは単焦点レンズを挿入するものとなっています。多焦点レンズを用いた手術は、全140万件の白内障手術のうち1万件も満たしていないのではないでしょうか。

単焦点レンズの最大のメリットは、クリアな画像(視野・視界)が得られることです。カメラを例に挙げて考えてみましょう。仮にごく一般的なカメラに多焦点レンズを装着すれば、ピントを合わせることなく遠方も近方も撮影することができます。しかし、このようなことをするカメラはありません。なぜなら、単焦点レンズで撮影したほうが圧倒的に画質がよいからです。

これには光学上の原理が関係しています。多焦点レンズとは、1枚のレンズに2つ以上の焦点を組み合わせたものです。つまり、設計上、光が分散されることを回避することはできず、画質が低下してしまうのです。

白内障手術は非常にポピュラーで安全な手術ですが、それでも約10%の頻度で、術後に度数のズレが生じてしまうことがあります。

しかし、単焦点レンズは度数のズレに対する許容範囲が大きく、生活に支障をきたすほどの事態に陥ることはほとんどありません。

一方、多焦点レンズは、このような度数のズレに対する許容範囲は全くありません。そのため、度数がずれてしまった場合には、後から微調整手術を行う必要が出てきてしまいます。

50代や60代など、比較的若い年代で白内障手術を受けられる方には、特に単焦点レンズをおすすめしています。というのも、60代で緑内障になる方が約5%、加齢黄斑変性を患う方が約2%いるからです。年齢を重ねるに従い、目には様々な疾患が起こるリスクがあります。糖尿病性眼底出血などもそのひとつです。

こういった病気を併発した場合、視界がクリアではない眼内レンズを使っていると、「見えづらさ」は倍増してしまいます。

(1)クリアな視界

(2)度数のズレへの許容範囲

(3)加齢に伴う眼疾患の併発と視力

低下のリスク、これら3点を鑑み、私は多焦点レンズよりも単焦点レンズのほうが患者さんにとって有益であると考えています。

前の項目でも触れましたが、眼内レンズで視力を合わせようと医療者がどれだけ努力しても、約10%の頻度で度数のズレが出てしまいます。具体的には、近視がより強く出てしまうことや、遠視になってしまうことがあります。

今アメリカでは、このような事態が起きた場合、後からレーザーをあてることで、既に目の中に入れたレンズの度数を変化させようという技術が開発され始めています。このような眼内レンズを「ライトアジャスタブルレンズ」といいます。

現在の白内障手術では、術前に完璧な検査をしていても、術後の視力が理想値から僅か(9~10%)にずれてしまいます。ライトアジャスタブルレンズが臨床応用できるようになれば、術後により理想的な視力に近づけることも可能になると考えます。

また、現在欧米では、人間が本来持っている水晶体により近い機能を持つ、「調整性眼内レンズ」を開発しようという動きもみられます。私たちの水晶体は、膨らんだり薄くなったりすることでピントを調節しています。

調整性眼内レンズができれば、本来の健康な水晶体で物を見るのと同様に、遠方も近方もきれいに見ることが可能になります。調整性眼内レンズの開発は理論上大変に難しく、まだまだ時間を要しますが、これら新しい眼内レンズの開発により白内障治療が向上することを期待しています。

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