突発性難聴の治療は時間との勝負になる部分もあり、できるだけ早期の治療が重要となります。治療方法には、標準治療になっているものだけでなく、医師による独特の治療法もあります。近畿大学病院 耳鼻咽喉科診療部長で教授の土井 勝美先生は、より有効性の高い、新たな治療法の研究・開発を進めておられ、今後の突発性難聴治療に大きな希望となる可能性があります。突発性難聴の治療法について、土井先生にお話を伺いました。
突発性難聴の治療は、基本的に外来で行われることが多いのですが、重症例で、本人が入院できる状態であれば入院治療となることもあります。
グレード3、4( 3は聴力60dB以上~90dB未満、4は90db以上)の重症例、めまいを随伴している場合、生活習慣病のリスクファクターがある場合、糖尿病の合併で安易に副腎皮質ステロイド点滴ができない(飲めない)場合、また、脳梗塞の既往がある場合などは入院した方が良いでしょう。それほど重症例ではなく、仕事が忙しいなどの場合には外来治療となります。薬の投与方法が点滴になるか内服になるかは、聴力のレベルや病院によっても変わります。
治療方法は、副腎皮質ステロイド+ビタミンB12、循環改善剤などの投与です。治療期間は1週間~10日程度で、3日間隔で高濃度から徐々に減らしていくのが一般的です。このとき、糖尿病や胃潰瘍をチェックし、外来の場合でも血液検査などでフォローしていきます。
また、プロスタグランジン薬(PGI2、PGE)の点滴(または飲み薬)を副腎皮質ステロイドと併用して治療を行う場合もあります。プロスタグランジンもステロイド治療同様に、現在では標準的な治療の一つになっています。
めまいが随伴している場合は、突発性難聴の治療に加えて、抗ヒスタミン薬や抗めまい薬などでめまいの治療を行います。ウイルスの感染に関しては、ウイルス血症が起こる可能性がある発症初期(3日~4日以内)であれば抗ウイルス剤治療を行います。
この治療法は、大阪など関西方面を中心に施行されていますが、関東や北陸の一部でも行われています。血液をサラサラにする薬でフィブリノーゲン(血漿タンパク質の一つ)を分解し、血流の改善を促す効果があります。治療中は、フィブリノーゲン値が大きく下がると危険なので、3日おきに血液検査を行いチェックします。
宮崎ではアミドトリゾ酸(造影剤)での治療も行われています。この治療は、突発性難聴の患者さんに造影検査のためアミドトリゾ酸を投与したところ、難聴が治ったという経緯から現在も行われています。
Rhoキナーゼ阻害剤は、現在、標準治療となるよう研究を進めている治療法です。治療を行った全症例中の9割で完全回復がみられ、平均の聴力改善率も83%と良好な成績が得られたため、突発性難聴に対するより有効性の高い治療法になる可能性があります。発症から1週間以上が経過するとその効果は落ちますが、早期治療例ではグレード3・4の重症例でも優れた効果が確認されています。
Rhoキナーゼ阻害剤には、血管の拡張や血流の改善作用、また、神経・シナプス再生作用があります。そのため、突発性難聴の病態の一つである「内耳微小血管の血流障害」を改善させ、同時に、ラセン神経節細胞(有毛細胞からの電気信号を受け取る神経細胞)から有毛細胞(音による振動を電気信号に変換して、神経へ伝える細胞)間の修復を促します。非常に有効性が高い治療法なので、今後、標準治療として採用されていくことを期待しています。
入院治療では安静が保たれるので、ストレスとなる環境などから離れることができますが、外来での治療期間中も、日常生活の中ではストレスを減らすことが大切です。仕事や家事をこなすなかでは難しいかも知れませんが、できるだけ安静を心がけましょう。また、喫煙は血管が収縮するので、喫煙の習慣がある場合は、控えたほうがよいです。
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