突発性難聴の主な症状として、聴力の低下のほかに「めまい」や「耳鳴り」が挙げられます。これらの症状は、突発性難聴以外の病気でも現れることがあり、そのため、鑑別診断のための十分な検査を行うことがとても重要です。もちろん、診断名によって治療法が変わってきます。突発性難聴の症状や検査、診断について、近畿大学病院 耳鼻咽喉科診療部長であり教授の土井 勝美先生にお話をうかがいました。
突発性難聴の主な症状は、高度感音難聴です。初診時の難聴のレベルにより、突発性難聴の重症度は以下のように分類されます。
重症度 初診時純音聴力レベル (1998年厚生省班研究より 引用)
グレード140dB未満
グレード240dB以上、60dB未満
グレード360dB以上、90dB未満
グレード490dB以上
また、随伴症として以下のような症状が起こる場合があります。
随伴症状のなかでも最も問題になるのが「めまい」です。「めまい」が起こるということは、内耳の障害が重度であり、病変が蝸牛から前庭や三半規管まで広範に及んでいることを意味します。
めまいが随伴しておこる場合は治りが悪く、できるだけ早期に治療をしなければ難聴や耳鳴りが後遺症として残る可能性が高くなります。
突発性難聴の検査では、聴力検査はもちろん、めまいのある・なしに関わらず平衡機能検査を行います。めまいを随伴する症例では、眼振検査で水平性眼振がしばしば観察されます。そのほかにも以下のような検査が行われています。
診断基準(突発性難聴診断の手引き 1973年厚生省研究より)
1.主症状
1) 突然の難聴
文字どおり即時的な難聴、または朝、目が覚めて気づくような難聴。ただし、難聴が発症したとき“就寝中”とか“作業中”とか自分がその時何をしていたかが明言できるもの。
2) 高度な感音難聴
必ずしも“高度”である必要はないが、実際問題としては高度でないと突然難聴になったことに気づかないことが多い。
3) 原因が不明、または不確実。つまり原因が明白でないこと。
2. 副症状
1) 耳鳴り
難聴の発症と前後して耳鳴りを生ずることがある。
2) めまい、及び吐き気 、嘔吐
難聴の発生と前後してめまいや吐き気、嘔吐を伴うことがあるが、めまい発作 を繰り返すことはない。
3) 第Ⅷ脳神経以外に顕著な神経症状を伴うことはない
〔診断の基準〕
確実例: 1. 主症状、 2. 副症状の全事項をみたすもの
疑い例: 1. 主症状の1) 2) の事項をみたすもの
突発性難聴の診断では、似た症状が現れる病気との鑑別が重要になります。突発性難聴と似た症状を示す病気には以下があります。
メニエール病は、内耳の中に水ぶくれ(内リンパ水腫)ができることで症状が起こるのですが、突発性難聴との鑑別が難しい病気の一つです。2つの見分け方としては、以下が挙げられます。
・突発性難聴の場合:一度大きく難聴が起こり、聴力が固定してしまうと、そのまま聴力は変動しません。(早期の治療により回復する可能性はあります)
・メニエール病の場合:めまいの発作や聴力の変動が繰り返し起こります。
つまり、突発性難聴は再発しませんが、メニエール病は再発があるということです。しかし、メニエール病の初回発作と突発性難聴は、厳密には1回目の受診で鑑別するのが難しいです。そのため、メニエール病は2回目の発作が起きてはじめて「突発性難聴ではなく、メニエール病である」という診断ができます。最近では、ガドリニウム造影MRI検査によりメニエール病では高率に内リンパ水腫が見つかるようになりました。一方で、突発性難聴の一部でも同検査で内リンパ水腫が見つかっているので、診断には注意が必要です。
聴神経腫瘍は良性の脳腫瘍ですが、聴神経周辺の神経鞘から発生するため、大きく発育すると、腫瘍が聴神経を圧迫して聴力が低下するという症状が現れます。腫瘍が大きくなるにつれて徐々に耳の聞こえが悪くなるように思われがちですが、突発性難聴と同様に、ある日突然聴力が落ちて見つかるという症例が約3分の1を占めます。前庭神経の機能も低下するため、めまい症状も出現します。
この聴神経腫瘍と突発性難聴の鑑別は、MRI検査を施行することで比較的容易です。そのため、突発性難聴の症状を訴えて受診した症例にもMRI検査を行うことが推奨されています。
外リンパ瘻は、内耳と中耳の境目の膜が圧変化などにより破れ、そこから外リンパという液体が中耳側に漏れてくることで、聴力が落ちたり、めまいが出現します。外リンパ瘻では、リンパの漏出により聴力やめまい、耳鳴りも変動するため、その点が突発性難聴との違いになります。診断に重要なポイントは、問診時に鼻かみ、くしゃみ、力み、気圧変化などの外リンパ瘻の代表的な誘因がなかったどうかを確認することです。外リンパ瘻が疑われる場合には、早めの手術が必要です。
このように、似ている症状を呈す病気があるため、さまざまな可能性を考えて検査を行い、患者さんに対してもその可能性についてお話しすることで、適切に治療を進めていけるようにしています。
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