蜂窩織炎(ほうかしきえん)は皮膚の感染症の一種であり、「蜂巣炎(ほうそうえん)」とも呼ばれます。耳慣れない言葉ですが、実は身近な病気です。この記事では蜂窩織炎についてご紹介します。
人の皮膚の下には皮下脂肪があり、皮下脂肪の下には筋肉が存在します。この皮膚の層構造の深いところから皮下脂肪にかけて細菌が感染した状態を蜂窩織炎と呼びます。
ちなみに、皮膚の浅層に細菌(この場合は主に溶連菌)が感染した状態は「丹毒」と呼ばれ、蜂窩織炎と区別されます。
人間の皮膚は細菌に対して非常に強いバリアを持っています。通常、細菌が皮膚に付着したからといって、簡単には感染しません。
しかしこの強力な皮膚バリアが「何らかの理由」で破られてしまうと、そこから細菌が侵入して感染します。
「何らかの理由」としては下記のような場合が挙げられます。
①虫刺されや擦り傷などの外的な損傷を負っている場合
②アトピーや湿疹のために皮膚が弱っている場合
③伝染性膿痂疹(とびひ)や白癬(みずむし)などの感染がもともと存在する場合
原因となる菌としては、溶連菌と黄色ブドウ球菌の2種類が一般的です。これらはどちらも私たちの生活環境に生息する菌で、いたるところに存在しています。
蜂窩織炎にかかると、皮膚が赤く腫れて熱をおび、触ると痛みを伴います。
その他、発熱、悪寒(さむけ)、戦慄(せんりつ:ふるえのこと)、関節痛、倦怠感(だるさ)などの全身症状が出ることもあります。
蜂窩織炎の検査では採血やレントゲンなどを行うことがあります。蜂窩織炎の場合、一般的に、採血では白血球やCRP(炎症を表す数値)が上昇しています。
ただ、蜂窩織炎に特別な検査はありません。医師の病歴聴取と身体診察と検査結果を組み合わせて、診断に至ります。
蜂窩織炎の一般的な治療は抗菌薬による薬物療法です。
では、抗菌薬とはいったいどのような薬であり、何に対して効くのでしょうか。
一般的に病原体は、細菌とウイルスの2種類に分けられます。
細菌とは、肺炎球菌、ブドウ球菌、溶連菌など、その多くは語尾に「菌」とつきます。一方ウイルスは、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、RSウイルスなど、「ウイルス」という名称がついています。(一部には例外の病原菌もあります)
抗菌薬は細菌に対して有効ですが、ウイルスに対しては効果がありません。例えば、世の中で一般的にいわれる「かぜ」はウイルス感染症であり、抗菌薬を投与しても効果はなく、熱もすぐに下がりません。
一方、蜂窩織炎は前述したように細菌感染症の一種です。そのため、抗菌薬を用いた治療が有効となります。
軽症の蜂窩織炎の場合、経口薬(のみぐすり)で対応が可能です。医師から特別な注意がなければ、日常生活を送りながら、悪化しないかどうか経過を観察してください。
ただし、入院治療のほうが望ましいケースがあります。下記のような場合は入院治療を検討します。
①発熱を伴う場合
②ぐったりしているなどの全身症状が強い場合
③症状の進行スピードが速い場合
④もともと他の疾患をもっており、感染が重症化するおそれがある場合
⑤経口薬で治療を開始したもののなかなか状態がよくならない場合
⑥入院しての安静が必要な場合
このように、入院を検討するケースは様々であるため、受診された医療機関でご相談ください。
入院の場合は、静脈注射で抗菌薬を投与します。経口薬は消化管から吸収されて最終的に血管内に到達し、全身に行き渡ることで薬の効果が発揮されますが、内服してから効果が出るまでに時間がかかってしまいます。さらに必要な量が吸収されず、治療が不十分になる可能性があります。これに対して注射薬は直接血管内に入るため、即効性があり、より強力な治療が可能となります。
多くの場合、5日~14日程度の抗菌薬治療が行われます。ただ、患者さんによって治療期間は様々であり、一概に述べることはできません。治療を終了するタイミングは、最初の症状の程度、原因となった菌の種類、治療を開始してから回復する速さ、患者さんの免疫力などを踏まえて決定されます。
入院治療の場合、症状が改善して、経口薬での治療に変更可能となれば退院することができます。
また、見た目の症状がよくなっても、処方された薬の服用を自己判断で中止することは非常に危険です。症状が再発する可能性があるので、ご自身で治療を終了せず、医師から指示された治療期間を守り、薬の服用を継続してください。
蜂窩織炎を完全に予防することは難しいですが、感染する可能性を下げるために①皮膚バリアを保つこと、②細菌を寄せ付けないことの2点が大切になります。
皮膚バリアを保つために、皮膚の病気(アトピーや湿疹や水虫など)があればしっかり治療しましょう。そして、細菌を寄せ付けないための対策として、手洗いの徹底が重要です。さらに、虫刺されやけががある場合は、水道水で入念に患部を洗い、清潔に保つことが大切です。
蜂窩織炎はあまり再発しませんが、1年以内の再発率は8~20%といわれ、一部の方は再発してしまいます。ですから、最初にしっかり治療をすることが重要になります。
蜂窩織炎は人から人にうつることはありません。
そのため、蜂窩織炎の患者さんに接近しても感染せず、健康な皮膚と皮膚が触れてもうつりません。
皮膚は強いバリアの役割を果たしており、皮膚表面に細菌が付着しただけでは感染しません。ただ、自分では気がつかない小さな傷から、菌が体内に侵入して感染する場合があります。
菌が傷に付着する可能性を低くするため、手洗いやアルコール消毒などの予防策を徹底して行い、蜂窩織炎から身を守りましょう。
国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長(チャイルドライフサービス室長)
金森 啓太 先生の所属医療機関
国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長(チャイルドライフサービス室長)
日本小児科学会 小児科専門医・理事日本先天代謝異常学会 理事日本マススクリーニング学会 理事日本小児栄養消化器肝臓学会 代議員日本小児救急学会 代議員日本SIDS・乳児突然死予防学会 評議員日本小児栄養研究会 運営委員日本小児消化管感染症研究会 世話人
北海道大学医学部、手稲渓仁会病院、埼玉県立小児医療センターを経て、現在は国立成育医療研究センター総合診療部で統括部長を務める小児科医。先天代謝異常症、小児消化器病を専門にしていたが、現在は日本の小児総合診療の確立を目指し、特に成人移行支援や小児在宅医療をテーマに活動している。若手小児科医の育成にも力を注いでいる。日本小児科学会理事。
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