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情報化社会のなかで「本当に正しいがん医療情報」を届けるために-国立研究センターがん対策情報センター設立10年を迎えて

情報化社会のなかで「本当に正しいがん医療情報」を届けるために-国立研究センターがん対策情報センター設立10年を迎えて
若尾 文彦 先生

国立がん研究センターがん対策情報センター センター長

若尾 文彦 先生

この記事の最終更新は2016年12月13日です。

日本人の死因のなかで最も多い「がん」の予防・早期発見、がん医療の均てん化、研究などを推進する「がん対策基本法」が定められてから、今年2016年で10年の時が経ちます。

この法令に基づき作られたがん対策推進基本計画では、当時不足していたがんに関する情報提供・相談支援の拡充がミッションとして掲げられ、2006年に設立されたがん対策情報センターも、その一翼を担うことが求められました。

しかし、がん対策情報センターが設立10周年を迎えた今、インターネットの普及などが進んだことで、「正しい医療情報の選択が困難である」「必ずしも正確ではないがん情報が横溢している」という新たな問題も生じています。

今、がん情報を提供する機関に求められるものとは何なのでしょうか。

「がん対策情報センター10周年記念式典」(2016年11月30日)における提言を、順にご紹介します。

中釜斉先生

2006年10月に誕生したがん対策情報センターは、国立研究開発法人国立がん研究センターの内部機関なかで、最も若く、そして特別大きな役割を担う施設です。

2006年、がん対策基本法が策定されて以来10年、がん対策情報センターは、がん医療の均てん化、がん統計情報の集約と発信の推進、そして、患者さんやご家族のもとへ正しい情報を届けるという役割を担い、歩んできました。

がんに関する情報提供不足や地域格差が課題とされていた10年前を思うと、この10年間はまさに激動の時期であったといえます。

しかし、私たちはこれまでの取り組みを振り返り、評価するだけでなく、次の10年、20年に向け、目標を定め動き続けねばなりません。そのために、本日この場を医療・行政・そして患者代表の方々から忌憚ないご要望をいただく場とし、今後の取り組みに組み込んでいきたいと考えます。

福島 靖正氏

がん対策情報センター設立以前には、国民が正しいがん情報にたどり着くことができず、がん治療に対する不安や懸念といったものが、日本を取り巻いていました。そのため、2005年に「がん対策推進アクションプラン2005」を策定し、がん医療情報を効率的かつ効果的に発信するため、現・国立がん研究センターにがん対策情報センターを作ろうという計画が盛り込まれたのです。がん対策情報センターができたことによる行政の立場のメリットとしては、がん対策基本法の企画・立案に必要な情報の蓄積と共有が可能になったことが挙げられます。

さらに、2007年にはがん治療連携拠点病院や相談支援センターの研修も始まり、国立がん研究センターのみならず、全国のがん相談支援センターで医療相談ができるようになりました。

がん対策基本計画は五年単位で改訂されていくものであり、現在は第二期の計画に則り、取り組みが進められています。がん対策情報センターは、がんに関する情報提供の要としての役割を担っており、結果、がん医療情報は量、質、共に非常に充実しました。

しかしながら、時代の変化に伴い、がん対策情報センターには新たな役割も生じています。

インターネットが普及したことで、現在では誰でも手軽にがんに関する情報を扱うことが可能になりました。情報を得ることだけでなく、発信することもできるようになったのです。情報が溢れ、患者さんやご家族が「自分にとって必要な情報は何か」を見極めることは難しくなりはじめています。

「正しい情報を提供する」というがん対策情報センターの役割は、情報化が進む今後、益々重要になっていくでしょう。

若尾 文彦 先生

がん対策推進アクションプラン2005では、「がん情報提供ネットワーク」における、がん対策情報センターと相談支援センターの関係性が以下のように明確化されました。

●全国のがん診療拠点連携病院における相談支援センターで、患者さん、ご家族に正確な情報に基づく支援を行う。(個別性に応じた対応)

●がん対策情報センターは、一般的かつ普遍的なエビデンス(科学的根拠)を発信していく。

また、当センターでの取り組みに患者さんの視点を反映させるため、外部有識者による評議会も設置されました。

当初はインターネットを中心とした情報提供を企図していましたが、上述の評議会から「WEBだけでは高齢の方に情報が届かない」「冊子も作って欲しい」という要望があり、現在は紙媒体での情報提供も進めています。

がん情報サービス冊子については、2007年~2011年の間、国の補助金を受けて約680万部無償配布していましたが、2012年からはローコストでの発注システムを取り入れて、約400万部作成し、2015年までに合計で1000万部以上の作成と配布を行っています。

以下は、がん対策情報センターが運営するWEBサイト「がん情報サービス」のURLです。

http://ganjoho.jp 【以下の画像をクリックすると「がん情報サービス」WEBサイトに移動します。】

「がん情報サービス」トップページ

がん情報サービスのコンテンツの内訳は、一般方向けのものが1,308、データベースは11,603、医療関係者向けのものが2,253であり、なかでも臨床試験のデータベースが最も多くなっています。

しかし、アクセス数は各種がんの解説が最も多いため、今後はよりユーザーニーズに即したコンテンツ作成に力を入れていかねばなりません。

2014年に行われた世論調査で「がん治療法や病院についての情報源」についての問いに対し、がん情報サービスが19.3%であったのに対し、それ以外のWEBサイト等インターネットを介した情報が35.6%にのぼりました。まだまだ、がん情報サービスの認知度は低く、周知を進めていかねばならないというのが現状です。

医療に対する社会ニーズは、時代とともに多様化、複雑化しています。国立がん研究センターでは、がん対策情報センターをより患者さんに役立つ機関とすべく、外部に「専門家パネル」のほか、「患者・市民パネル」を設けて、患者目線、市民目線の提案を受けています。これまでに、390人の患者さんやご家族が、患者・市民パネルとして登録されました。患者さんにとって有益な情報を発信できるよう、患者・市民パネルによるレビューや提案を反映させていくことも重要です。

門田 守人先生

がん対策情報センターが、わずか10年のうちに収集し、発信した医療情報は、国民にとって非常に意義のある重要なものであると考えます。「医療情報を集め、届ける」ことを全国的に唯一のミッションとして行うこの機関の取り組みとスタッフの努力は、評価されるべきものであるといえるでしょう。

その一方で、今後ぜひ取り組んでいただきたいと考える課題もあります。これは、私たちがん対策推進協議会の意見というよりも、患者さんの立場からの要請として、考えていただきたい問題です。

情報化社会といわれる今、様々なメディアで、エビデンス(科学的根拠)が明確ではない、いわゆる「怪しい情報」が横溢しています。

正しい情報を提供することはもちろん重要ですが、不正確な情報をどう扱っていくべきか、考えねばならない時代に入っています。行政的な立場としては、これは非常に難しい問題でしょう。しかし、患者さんの声を代弁すると、「何が正しく、また何が不正確なのかがわからない」というのが現状です。

医療という健康そのものに関わる分野において、正確性を欠いた情報、患者さんにとって害となりかねない情報については、それがエビデンスに基づかないものであると見える化することを考慮してもよいのではないでしょうか。

田島 和雄先生

私は現在、三重大学に籍を置き、三重県の医療従事者に役立つ情報の整備に努めているところです。その際にベースとなるものは、がん対策情報センターのデータであり、おそらく他の地域の医療者も、同様にこのデータを感謝しながら活用しているものと推察します。

各地域からの期待の大きさ、そして加速的に増えるデータ数を考えると、今後は「膨大なデータの整備」という作業が求められるようになるのではないかと考えます。

肥大化するデータの中から、「信頼できるエビデンス」として耐えうるもののみを残すといった作業が、今後の各地域の効率的ながん対策推進のためにも必要です。

天野 慎介氏

がん対策情報センターが設立された当時、インターネットでがん情報を検索しても、有益な情報はほとんど出てこなかったと記憶しています。しかし、今日ではWEB検索上位にがん情報サービスのページが表示され、冊子などの媒体もできました。これは患者目線に立ち続けたがん対策情報センターの努力の賜物であると考えます。

私は患者・市民パネルの第1期メンバーのひとりですので、次の10年に向け、患者の立場から、以下3点のお願いをします。

(1) あくまで患者視点での情報発信:今なお、「医師からの説明が十分に理解できない」と訴える患者さんは多数おられます。説明不足を補い、患者さんの助けになるような情報を第一に見据え続けていってほしいと願います。

(2) 科学的根拠に基づいた情報発信:たとえば、近年ではがんの免疫療法が進歩しましたが、「がん 免疫療法」と検索しても、残念ながら正しい情報にすぐにアクセスすることは難しいのが現状です。今後、エビデンスに基づく情報発信は益々重要視されるでしょう。がん登録情報を元にした、質の高い医療情報の発信をお願いします。

(3) 政策提言:がん対策推進協議会は厚生労働省の方と共に対策を審議しています。しかし、行政の担当者は一定の年数で異動せねばならないため、継続的に関わることが難しいという現状があります。ぜひ、がん対策情報センターが中心となり、医療者や研究者の立場から、根拠に基づいた政策提言を進めてほしいと考えます。

2006年に成立したがん対策基本法は患者さんたちの「情報は、私たちの命であり、希望である」という切なる訴えによって整備されました。この10年の成果を、志半ばでこの世から旅立たれた患者さんたちにみてほしかったと、今心から思っています。

また、今後もがん対策情報センターが、がん医療情報の必要性を訴えながら世を去られた患者さんたちの意志を汲んだ機関であり続けることを切に願います。

垣添 忠生先生

がん対策基本法が成立したとき、私は国立がんセンターの総長として働いていたため、当時の出来事を非常によく覚えています。

2002年、日本のがん医療に異議を唱える声が、全国各地で上がり始めました。私の印象に強く残っているのは、島根県で再発大腸がん治療を受けておられたカメラマンの佐藤均さん(故人)の声です。佐藤さんは、島根県で非常に苦しい抗がん剤治療と闘い、その後東京都で全く同じ治療を受けた際、苦痛がなかったことを疑問に思い、がん医療の地域格差という大きな問題を見つけ出しました。調査の結果、当時の島根県には抗がん剤治療の専門家が1人もいなかったことが判明し、佐藤さんは厚生労働大臣とも会って、がん医療の均てん化と情報の必要性を訴えます。

2005年には、患者による審議会が大阪で開かれ、医師であり肝臓がん患者でもあった三浦捷一氏(故人)が、「情報は命である」と訴えたことで、がん医療に関する情報提供を求める声が日本中に広がりました。

こういった切なる願いが集約されたがん対策基本法が、国会審議で廃案になりかけたとき、国会議員の山本たかし(山本孝史)氏(故人)が壇上で自らのがんを公表し、法案の早期成立を強く訴えました。この告白が契機となり、我が国のがん対策基本法は全会一致で成立したのです。

このような経緯から、がん対策基本法はまさに患者の声で成立した法案であること、正確な情報ががん医療のカギとなっていることが、おわかりいただけるでしょう。その意味で、がん対策情報センターはこの10年間、がん医療に対して非常に大きな貢献を果たしたといえます。

現在は、がんに関する情報が沢山ありすぎる時代です。

今後がん対策情報センターには、世の中に跋扈している「必ずしも正確ではない情報」を整理するという、大きな役割が求められるものと考えます。

 

日時:2016年11月30日(水)

1.開会 ・国立研究開発法人 国立がん研究センター 理事長 中釜 斉 先生

2.来賓挨拶 ・厚生労働省 健康局長 福島 靖正氏

3.がん対策情報センター10年の歩みと今後の展望 ・国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センター長 若尾 文彦 先生

4.がん対策に係る関係者の方からのコメント

がん対策推進協議会会長 堺市立総合医療センター理事長 門田 守人先生

三重大学大学院医学系研究科公衆衛生・産業医学分野客員教授、附属病院院長顧問 田島 和雄先生

一般社団法人がん患者連合会理事長 天野 慎介氏

日本対がん協会会長、国立がん研究センター名誉総長 垣添 忠生先生

5.閉会 ・国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センター長 若尾 文彦 先生

正しいがん情報の提供とがん医療の均てん化推進のための支援活動を行うことを目的とし、2006年10月に開設。

がんの情報提供サイト「がん情報サービス」の運営、がん登録の整備、がん統計情報の収集・発信推進、全国のがん診療連携拠点病院等の医療従者向け研修の実施、がん相談支援センター相談員、がん登録実務者の育成、病理診断・画像診断コンサルテーションの実施、都道府県がん診療連携拠点病院とのネットワーク構築、たばこ対策に関する調査・発信、がん対策の指標策定、がん医療の質の評価、がんサバイバーシップ支援情報の作成・発信など、多岐的ながん対策支援活動を実施している。

 

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