インタビュー

小児横紋筋肉腫治療の鍵は初期の迅速・適切な診断・治療導入 ー治療や診断、生存率などー

小児横紋筋肉腫治療の鍵は初期の迅速・適切な診断・治療導入 ー治療や診断、生存率などー
細井 創 先生

京都府立医科大学 附属病院小児科 診療部長 / 大学院医学研究科 小児科学 教授 / 医学部医...

細井 創 先生

軟部組織肉腫のひとつである横紋筋肉腫は、小児がんの一種です。小児がんは小児人口1万人あたりひとりくらいの稀な疾患ですが、横紋筋肉腫は、小児がんのなかでも白血病や脳腫瘍に比べるとさらに頻度の低いがんです。ただし、体の柔らかい組織(軟部組織)から発生する肉腫の中では、小児ではもっとも発生頻度の高い悪性腫瘍となっています。わが国でも一時代前までは予後の悪い(生存率の低い)病気とされていた小児横紋筋肉腫ですが、今現在はどのようになっているのでしょうか。小児横紋筋肉腫の原因や治療法、診断法などについて、京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学の教授で、附属病院小児科診療部長の細井創先生にお聴きしました。

この記事で書かれていること

  • 小児がんの中でも数%とまれな腫瘍
  • 遺伝子診断が重要-今ではほとんどの例で遺伝子診断を行う
  • 小児横紋筋肉腫の確かな原因はいまだ不明
  • 治療には、外科治療・放射線治療・化学療法からなる集学的治療が必須となる

小児横紋筋肉腫とは

腫瘍

小児横紋筋肉腫とは、体の筋肉や脂肪などの細胞のもとになる間葉系(かんようけい)細胞から発生する腫瘍と考えられています。発生する体の場所(原発部位)は全身に渡りますが、目の奥(眼窩)や頭頸部といった頭部や首とその周辺、膀胱や前立腺、精巣や子宮や膣などの泌尿・生殖器周辺に比較的多くみられます。

小児横紋筋肉腫の発生率は小児がんの中でも数%とまれな腫瘍ですが、小児での軟部組織肉腫(筋肉などのやわらかい組織から発生する腫瘍)のなかではもっとも発生頻度の高いものです。

発症年齢は約60%が10歳未満であり5歳未満が最多ですが、年長児から若年成人も含めた幅広い年齢層に発生します。米国のデータでは、横紋筋肉腫の約40%はが20歳以上の成人に発生しています。

小児横紋筋肉腫は胎児型・胞巣型という病理組織型の違いで悪性度が異なる

小児横紋筋肉腫の腫瘍組織は、大きく胎児型と胞巣(ほうそう)型にわかれます。胞巣型のほうが悪性度が高く予後が不良ですが、最近では、胞巣型に特徴的な遺伝子異常(PAX3-FOXOA1キメラ遺伝子など)があるものの予後が明らかに悪いので、この遺伝子異常の有無で治療強度を変えようという動きもあります。

小児横紋筋肉腫の原因—確かな原因はいまだ不明

小児横紋筋肉腫のはっきりとした原因はいまだに解明されていません。家系に横紋筋肉腫の既往歴がある方がいないにもかかわらず、発症したという方がほとんどです。まれに、リ・フラウメニ症候群というがん家系がんに、他のがん種が加わって小児横紋筋肉腫が発生することがあります。

小児横紋筋肉腫の検査と診断

検査する検査技師

小児横紋筋肉腫の診断は遺伝子診断がカギ

小児横紋筋肉腫の診断にはCTやMRIなどによる画像検査、骨髄穿刺(こつずいせんし)検査、生検による病理診断、遺伝子診断の4つを行います。先ほどもお話ししたように、小児横紋筋肉腫の腫瘍組織には胎児型・胞巣型の2種類が存在します。しかし、実際は典型的な例は多くはなく両方の型が混在するケースもあって、見分けがつきにくいことが少なくありません。そのため、一般的な顕微鏡下での診断だけでなく、免疫組織染色や遺伝子診断が重要になってくるのです。

遺伝子診断の重要性—胞巣型の特徴であるキメラ遺伝子の存在がわかる

胞巣型には、胎児型には存在しない「キメラ遺伝子」という異常遺伝子が発現しているものが多いです。PCR法を用いた遺伝子診断ではそのキメラ遺伝子の有無を判別できるため、小児横紋筋肉腫の腫瘍組織が胎児型か胞巣型か確実に診断するのに役立ちます。

腫瘍組織のとり方も重要です。針を刺して腫瘍組織を取り出す針生検だと、組織量が少なく、診断に必要な組織を充分に採取することが困難である場合が多いです。腫瘍組織を鉗子(かんし)などでつまみ出すと外部からの無理な圧力がかかってしまうことで組織や細胞がつぶれ、顕微鏡での観察時に正確な判断が難しくなってしまいます。他にも、遺伝子診断を行う場合は採取した腫瘍組織をホルマリンで保存するのではなく、凍結保存が必要です。これはホルマリンに浸してしまうと、遺伝子診断時に必要なDNAやRNAを取り出しにくくなってしまうからです。

昔はこうした腫瘍組織のとり方への配慮があまりなされず正しい診断ができない時代もありましたが、我々の啓発によって今ではそれが浸透し、正しい診断ができるようになってきています。

また、10年前は遺伝子診断を行っていたのは10例に1例くらいの割合でしたが、今ではほとんどの例で遺伝子診断を行い、正しい診断と適切な治療ができるようになりました。

小児横紋筋肉腫の治療-外科治療、放射線治療と化学療法からなる集学的治療が必須

小児横紋筋肉腫の治療では、外科手術、化学療法(抗がん剤治療など)、放射線治療の3つを行います。

小児横紋筋肉腫の放射線治療

小児横紋筋肉腫は手術のみでは、どんなにきれいに取り切ったとしても再発することが分かっています。外科手術の痕には、組織型が胎児型で顕微鏡的にも全摘(完全摘除)できた場合を除いて、局所再発予防の放射線治療を行います。

放射線は、原則、最初に腫瘍のあった範囲に少し「糊代」を加えて照射されます。照射を行う時期や範囲、量、また放射線の種類は、事前の手術での腫瘍がどれくらい取り切れたかや、その身体の部位や周囲の正常組織や臓器の種類によっても異なってくるため、放射線治療医、とくに小児の放射線治療に精通した放射線治療専門医との連携が重要です。

陽子線は放射線の一種ですが、体の中でも周囲の正常組織た臓器にはほとんど不必要な照射がなく、当てたい腫瘍組織にのみ集中して照射が可能なため、副作用や晩期合併症を軽減するのに最適です。そういうことで2016年の4月から大人に先立ち、小児がんに保険適応されました。

小児横紋筋肉腫の化学療法(抗がん剤治療)

小児横紋筋肉腫の治療では、手術できれいに取り除けた場合も、すべての場合において抗がん剤治療を行います。最低、半年間は抗がん剤を使用することになります。

小児横紋筋肉腫の化学療法では、VAC療法という3剤(ビンクリスチン、アクチノマイシン、シクロホスファミド)を使用する抗がん剤治療が標準的治療です。シクロホスファミドは治療上重要な薬剤ですが、副作用として一定量投与すると不妊症になることがわかっています。

現在では、不妊症の副作用が少なく、シクロホスファミドと同等の治療効果を発揮することが期待される抗がん剤も出てきており、試験治療が行われています。このように、男女かかわらず、将来子どもを持つことができるように生殖機能を可能な限り残そうという試みが始まっています。抗がん剤治療前に精子や卵子をあらかじめ取り置きして保存し、治療が終わってから、あるいは小児患者が治療を終え、成人になったときに人工受精させて妊娠、挙児を可能にする医療(生殖医療)との連携も今後普及してくることでしょう。私は、今、日本癌治療学会の妊孕性温存のガイドライン委員会で、小児がんについてのガイドライン作成に取り組んでいます。

小児横紋筋肉腫には集学的治療が不可欠

小児横紋筋肉腫の発生部位は全身に及ぶため、発生部位によって小児科医、小児外科医だけでなく整形外科医や耳鼻咽喉科医、泌尿器科医、眼科医、形成外科医などあらゆる専門外科の医師や、理学療法士、精神科医、心理士などのあらゆる職種の医療者による集学的治療が必要です。

また、小児横紋筋肉腫に限らず小児がんなどの長期的な入院を要する治療においては、患者であるお子さんに学習の遅れなどが生じないように学校と連携して学習指導やその他の教育指導、治療に支障が出ない範囲での遊びの機会を持ってもらうことが大切です。

小児横紋筋肉腫の生存率と治癒率

横紋筋肉腫治療の歴史
出典:「講義 横紋筋肉腫の診断と治療」京都府立医科大学 細井創先生

小児横紋筋肉腫を含めた小児がんの長期生存率は約70%にまで伸びています。

アメリカの調査によると、1970年には25%だった小児横紋筋肉腫の治癒率は、1995年には75%まで大きく改善しています。つまり、小児横紋筋肉腫は治る病気になってきているということです。

今後は晩期合併症へのケアが必要

治療成績の向上により、病気を治癒されて成人し社会に出られる小児がん経験者は増えるにつれ、今までは問題とならなかった成長障害や内分泌障害、妊孕性(にんようせい・妊娠のしやすさ)の低下、二次がん(放射線治療や抗がん剤治療などが原因で別のがんを発症してしまうこと)といった晩期合併症の問題がクローズアップされてきました。そのため、命を取り留めるだけでなく、少しでもこれらのリスクを減らす試みやケアが重要になってきています。

先ほども述べたように、不妊症の副作用のない抗がん剤の治療を始めるなど、治療後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を保つための研究が、日々進められています。我々も、治療した小児がんの患者さんが成人後にお子さんを連れて外来にきてくれたときは、とても嬉しくこちらも癒された気持ちになります。日々我々も研究して努力していますので、小児横紋筋肉腫の患者さんやそのご家族も希望を失わずに治療に臨んでいただければと思います。