インタビュー

医療の国際化をどう推進するか ‐渡航医療などで加速する「医療グローバル化」の課題を解決する取り組み

医療の国際化をどう推進するか ‐渡航医療などで加速する「医療グローバル化」の課題を解決する取り組み
ピーター・ シェーン 先生

北海道大学病院 国際医療部准教授 /臨床研究開発センター国際共同開発推進室長

ピーター・ シェーン 先生

この記事の最終更新は2017年06月04日です。

日本は「学問としての医療」では複数のノーベル賞受賞者を輩出するほど国際的なプレゼンスを高めていますが。しかし「産業としての医療」としてみてみると、医療の領域は長らく外国との情報共有や技術輸入・輸出活動が乏しかったことから、国際化が進んでいない分野として捉えられてきました。

しかし近年では医療の国際化が加速したことからグローバル化に向けた様々な取り組みが推進されはじめています。いったいどのような取り組みが進められているのか、北海道大学病院 国際医療部 副部長(専任・准教授)ピーター・シェーン先生に解説いただきました。

日本人・外国人医師

日本のあらゆる分野が国際化していく中で、医療は最も出遅れた分野だったといわれています。それは日本と海外の医療の間には、医療制度、免許制度、保険制度、言語、医療倫理の問題など様々なギャップがあったからだと考えられています。

しかし、近年ではインターネットや国際交通網の発達によって拡大に伴い、医療の国際化が加速しています。

では実際に、医療の国際化に向けどのような取り組みが行われているのでしょうか。

ここでは地域と国の発展を支えるという使命を持つ国立大学の附属病院で展開される医療国際化実現に向けた取り組みに着目して紹介したいと思います。

国立大学付属病院の今後の指針を決定していく国立大学付属病院長会議における将来像実現化ワーキンググループでは、これからの日本の医療をリードするための理想像を検討し、実現に向けて取り組みを進めています。

その中で当グループは下記の7つをテーマとし、それぞれの目標設定、これまでのフィードバック、今後の課題検討を毎年行っています。

・教育

・診療

・研究

・地域貢献・社会貢献

・国際化

・運営

・歯科

この7つのうちの一つに国際化が挙げられており、国立大学病院の今後の方針において重要なテーマとして扱われています。

出典:http://nuh-forum.umin.jp/report/document/granddesign2016.pdf

現在、日本には国立大学附属病院及び医学部附属病院が42あり、その中で国際医療を担う専門部門を配置している病院は9つあります。さらにその中で、国際医療の専任教員を常駐させているのは北海道大学、九州大学、大阪大学、東京大学の4つのみです。これらの大学病院が、日本の医療の国際化をリードしようと積極的に取り組みを進めています。

この4つの大学病院では様々な医療の国際化に向けた活動を推進しています。そのなかでも注目すべき活動についてピックアップしてご紹介したいと思います。日本が中心となって発信してるイメージ

九州大学病院 国際医療部では遠隔医療を展開しています。当院にはアジア遠隔医療開発センターが設立されており、世界各国の医療機関と研究教育用の超高速ネットワークを活用した遠隔医療基盤を構築し、高品質な映像音声の双方向通信による遠隔医療教育を行っています。九州大学はこのセンターを擁することで、アジアにおける遠隔医療教育プロジェクトの中心的役割を果たしています。

このプロジェクトに関わる連携施設は2017年4月27日現在で世界59か国517施設を数えています。近年では内視鏡、外科、小児科、歯科、眼科など様々な医療領域分野で、国内外の複数の医療施設を結んだ英語による遠隔カンファレンスが年に百回近く開催されています。内視鏡手術やがんの早期診断方法など、日本が先進している医療技術、知識を用いてアジア諸国の医療技術の発展に寄与するだけでなく、デング熱やジカ熱などの新興感染症の対策や日本では珍しい疾患について学習するなど、アジア全体で日常的に情報交換をしています。

今後はさらに通信技術を向上させ、欧米やアフリカ、南アメリカなど世界中の施設とコミニケーションできる体制づくりの中心的役割を担っていく予定です。さらには、海外からの医療相談、患者輸送などの遠隔診療にも役立てていく方針です。

医療翻訳

大阪大学医学部附属病院 国際医療センターでは、インバウンド、アウトバウンド、国際臨床の研究・教育を行っていますが、医療通訳者の養成制度の運用も行っています。現在、日本には在留外国人が200万人、訪日外国人が2,000万人に達しており、医療現場で日本語が通じないケースもあります。医療現場ではただ言葉を外国語へ通訳するだけではなく、病状・病歴のヒアリング、検査・治療方針の正確な説明、さらに術前説明など診療におけるインフォームドコンセントを的確に行っていく必要があります。そのため、医療現場で活躍できる知識、技能をもった医療通訳者のニーズは高いといえます。

大阪大学医学部附属病院 国際医療センターでは2015年4月から社会人を対象に「医療通訳養成コース」という教育プログラムをはじめました。これは大学内に医学と外国語学の両学部がある強みを生かしたカリキュラムです。このプログラムは、厚生労働省の「医療機関における外国人患者受入環境整備事業」で作成された「医療通訳育成カリキュラム」 を基準に、医療機関で通訳を行う際に求められる「知識・技術・倫理」を身につけることを目指します。

医療通訳という専門職は、まだ社会的認知が広くはありませんが、このプログラムを先行して知識や技術を身につけた人が活躍することにより、医療現場のコミュニケーションがスムーズになりに、安全安心の医療の提供がグローバルにひろがることが期待されます。

外国人患者を受け入れる日本の医療機関

東京大学医学部附属病院 国際診療部では、日本の高度先端医療を世界に向けて提供すべく、海外の患者さんを積極的に受け入れています。そのため学部の名称も国際診療部とし、数多くの外国人訪問者の診療にあたっています。

そのため当院は、外国人を対象とした診療における多くのケーススタディを持っています。医療現場における翻訳、外国人向けの診察券発行、受診料の請求など、多くの診察実績から多様かつ柔軟な対応方法を把握しているといえるでしょう。

また、こういった国際的な拠点病院という特徴を生かして、外国人患者さんの受け入れに際した院内の調整に力を入れています。多言語への対応、医療文書の翻訳、手続きなど、実践的で必須となる情報・サービスが整えられています。

セミナーで学ぶ外国人医師

北海道大学病院 国際医療部では、海外医師向けの教育プログラムを提供しています。諸外国では、日本とは異なり医師免許の更新が必要であり、最新の治療技術などについて研修を受け、必要な単位を修得することが国や州によって定められています。この単位を取得するための教育プログラムも含め、多種多様な海外医師の教育ニーズに応える研修を開催しております。

当院は、2年前にフィリピン内科医会から打診を受け、医師29名に教育セミナーを提供しました。これをきっかけに、順次海外医療人向けの教育機会提供を広めて参りました。

この取り組みの難しいところは、国・地域によってニーズが大きく異なる点です。これまでに、糖尿病、消化器内科、一般外科、ストーマ関連、看護、病院運営、など、英語での口演と質疑応答にご快諾いただける講師の選定が必要です。また、免許更新の単位として申請される場合、各国の制度に合わせたプログラムを組み立てることが必要になります。

こうした教育は、国際的な医療の質の向上につながっていくと考えています。現状では、東南アジアの多くの医師が欧米の医育機関などに頼っていますが、アジア圏にとっては距離が遠く、また費用が高額です。一方、日本で教育を受けられる場合、移動距離が短く、費用も比較的安価であるため、需要は高いでしょう。また、日本はツーリズム的要素としても魅力的な国であるため、来日するタイミングで観光を楽しむ方もいます。当院では日本における海外医療人を対象とした取り組みをさらに拡大させ、当面はアジア英語圏医師の研修受け入れをさらに進めていきたいと考えています。

 

日本の国立大学病院ではこのような様々な国際医療の取り組みを行っています。これらの取り組みがさらに活性化し、世界中でよりよい医療技術を共有していけることが望まれています。

 

 

【参考URL】

1)アジア遠隔医療開発センターHP

http://www.temdec.med.kyushu-u.ac.jp/

2) 大阪大学 医療通訳養成コースHP

http://conso-kansai.or.jp/interpreter/index.html

3) 東京大学医学部附属病院 国際診療部

http://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/depts/imc/index.html

4) 北海道大学病院 国際医療部

http://www.huhp.hokudai.ac.jp/hotnews/detail/00000196.html

 

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