インタビュー

オートファジーの応用とは?腎臓におけるオートファジーのはたらきと治療への応用

オートファジーの応用とは?腎臓におけるオートファジーのはたらきと治療への応用
猪阪 善隆 先生

大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授

猪阪 善隆 先生

この記事の最終更新は2017年07月20日です。

オートファジーは細胞内にある老廃物を除去して、細胞内を正常な状態に保つはたらきをしています。また、オートファジーは全身の細胞で行われていますが、その重要性は臓器によって異なります。大阪大学では、腎臓におけるオートファジーの重要性に着目し、現在オートファジーのはたらきを腎臓の治療に適用させる方法を研究しています。では、なぜ腎臓におけるオートファジーのはたらきが重要となるのでしょうか。そして、腎臓病の治療にオートファジーを適用させるためにはどのようにすればよいのでしょうか。記事1『オートファジー(自食作用)とは?オートファジーが体内でもたらすこと』に引き続き、大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学教授の猪阪善隆先生にお話を伺いました。

腎臓

オートファジーには全身の細胞の恒常性を保つために、細胞内で不要となったタンパク質や傷ついたミトコンドリアなどを除去するはたらきがあります。記事1『オートファジー(自食作用)とは?オートファジーが体内でもたらすこと』で述べたようにオートファジーは全身のあらゆるところで行われていますが、臓器によってオートファジーが与える影響に違いがあり、特に腎臓が影響を受けやすいことがわかっています。

腎臓でのオートファジーのはたらきが重要である理由として、腎臓内のミトコンドリアが活性酸素により傷つきやすい状態におかれているからであると考えます。

腎臓には糸球体と尿細管で構成される「ネフロン」と呼ばれる組織があります。ネフロンは血液をろ過し、老廃物を尿として排出する役割と、必要なものを再吸収し体内に戻す役割を担っています。

糸球体で濾過された溶質(ブドウ糖やアミノ酸、ミネラルなど)の再吸収には多くのエネルギーが必要であり、このときに酸素からエネルギーを生み出しているのがミトコンドリアです。 

腎臓では、ミトコンドリアが酸素からエネルギーを作り出すはたらきを活発に繰り返していますが、そのときにどうしても「活性酸素」という物質を生み出してしまいます。

この活性酸素は、細胞内の物質を酸化させてしまうだけでなく、ミトコンドリア自身も傷つけてしまいます。

上述のように、障害を受けたミトコンドリアが細胞内部に蓄積すると、腎臓に炎症が起こります。炎症が悪化すると腎不全(腎臓がうまく機能しなくなる)につながる可能性があります。

腎臓の炎症と腎不全を防ぐために、活性酸素で傷ついた部分に対しオートファジーがはたらきます。オートファジーは、細胞内で障害を受けた物質やミトコンドリアの傷ついた部分を選択的に感知して、分解します。

腎臓ではミトコンドリアの動きが他の臓器に比べて活発な分、活性酸素が発生しやすい状況にあるため、オートファジーのはたらきがより一層重要となるのです。

腎臓で起きるさまざまな障害を防ぐためにはオートファジーのはたらきが重要です。では、「単にオートファジーを活性化させればいいのか」というとそうではありません。その理由をご説明します。

記事1『オートファジー(自食作用)とは?オートファジーが体内でもたらすこと』でご紹介したように、オートファジーは細胞内に老廃物や不要なタンパクをみつけると、オートファゴソームという二重構造の膜でそれらを包み込み、リソソームと融合し分解します。

オートファゴソームがリソソームと融合する段階までは比較的速いスピードで進むのですが、融合した後の分解には比較的長い時間がかかります。

リソソームの数は限られているので、オートファジーは細胞内で一定のレベルでしか活動ができません。つまり、老廃物が多く次から次へとオートファジーを行わなくてはいけない状況では、分解の段階で速度が停滞するので、オートファジーが追いつかない状態になります。結果、細胞内にはオートファジーにより分解されない老廃物が蓄積してしまうのです。

ですから、老化糖尿病脂質異常症などの生活習慣病によって、細胞内に老廃物が増えやすい状態では、オートファジーが低下しているのではなく、反対にオートファジーが常に活性化しすぎているために、分解が追いついていないと考えられます。このような状態では、腎毒性物質などのストレスがかかっても、オートファジーが十分はたらかないために、腎障害が起こると考えられます。

ある細胞においてオートファジーを活性化しすぎると、他の細胞に悪影響が及ぶことがマウスを使用した実験でわかっています。たとえば、腎臓の細胞でオートファジーを活性化させたマウスでは、腎臓の細胞での脂肪分解が活性化されるために、逆に脂肪細胞において脂肪が蓄積して肥満となってしまうということが観察されます。

このように、オートファジーは単に活性化させるのではなく、はたらきを調整させることが大切なのです。

猪阪善隆先生

オートファジーを効率よく細胞内で機能させるためには、オートファゴソームとリソソームが融合したあとの分解の速度を上げ、リサイクイングの効率を上げることが重要であると考えています。

大阪大学では、オートファジーのリサイクイングの効率をあげる分子について研究を行っています。この研究が進めば、腎臓病の治療に貢献できるのではないかと考えています。

末期の腎不全となると、患者さんは生涯に渡り人工透析(人工的に血液の浄化を行う治療)を行う必要があり、2017年現在で約33万人の透析患者さんがいるといわれております。また、人工透析にかかる医療費の大半は国からの医療費助成で賄われており、年間約1兆6,500万円の運用がされています。

ひとりでも多くの腎臓病の患者さんを救うことが、腎臓内科医の使命であると考えています。そのためにオートファジーの持つ力を最大限に引き出し、将来的には透析を行わなくてもよい時代にすることを最終目標として日々研究に励んでいます。