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インタビュー

皮膚動脈炎(皮膚型結節性多発動脈炎)とは−皮膚に多彩な症状があらわれる血管炎のひとつ

皮膚動脈炎(皮膚型結節性多発動脈炎)とは−皮膚に多彩な症状があらわれる血管炎のひとつ
吉崎 歩 先生

東京大学大学院医学系研究科 皮膚科学 講師、診療副科長(外来医長)

吉崎 歩 先生

皮膚動脈炎(旧名:皮膚型結節性多発動脈炎)は、皮膚に紅斑や潰瘍などの症状をもたらす血管炎の1つです。皮膚動脈炎は発症原因が2017年現在、未だ解明されておらず、そのため根本的な治療法の確立も行われていません。しかし、東京大学大学院医学系研究科・皮膚科学教室では皮膚動脈炎の治療法の確立に向けてガンマグロブリン製剤を用いた臨床研究を行っています。記事2では、東京大学大学院医学系研究科・医学部、皮膚科学教室の講師である吉崎歩(よしざきあゆみ)先生に、皮膚動脈炎の症状や診断方法、また治療の今後についてお話を伺いました。

皮膚動脈炎とは、26種類ある血管炎の1つで、皮膚に紅斑や潰瘍、壊疽(えそ)などのあらゆる症状をもたらす疾患です。

血管炎を分類する「CHCC2012」では、単一臓器のみを障害する血管炎は「単一臓器の血管炎」として分類されました。そのためCHCC2012以前の分類法では皮膚型結節性多発動脈炎とよばれていた疾患は、「CHCC2012」の疾患名に当てはめるなら皮膚動脈炎に該当すると考えられます。(血管炎の分類については記事1『血管炎(血管炎症候群)とは?原因や症状、検査方法について』をご覧ください。)

CHCC2012で名称が変わった現在も、皮膚型結節性多発動脈炎とよばれることが多いですが、本記事では皮膚動脈炎と表記して解説いたします。

皮膚動脈炎は、CHCC2012以前の分類法で皮膚型結節性多発動脈炎とよばれていたことからもわかるように、結節性多発動脈炎(中型血管の動脈壁に炎症が起こり皮膚だけでなく内臓諸臓器など全身に症状をもたらす)の部分症状なのか独立した疾患なのか、2017年現在も議論が続けられています。

実際に皮膚の病理検査(生検などで採取した組織を顕微鏡などで観察する検査)を行なってみても、これだけでは皮膚動脈炎と結節性多発動脈炎との区別がつかないのです。

血管炎
吉崎歩先生ご提供 皮膚動脈炎の病理写真

また、希少な疾患であることからも十分な検討が行われておらず、未だに皮膚動脈炎と結節性多発動脈炎の鑑別についてはっきりとした結論には至っていません。

しかしながら、皮膚動脈炎は皮膚症状を長期に渡って繰り返すものの、結節性多発動脈炎と比べ予後良好であり、発症年齢や性別ごとの発症頻度も異なっています。ですから、皮膚動脈炎と結節性多発動脈炎は別疾患として捉える妥当性があるといえます。

また皮膚動脈炎の発症原因についても解明されていませんが、欧米からの結節性多発動脈炎に関する報告をみると、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスが発症の契機になるとされています。

しかしながら、本邦においては、皮膚動脈炎と結節性多発動脈炎の両疾患においてB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの関連を示唆する報告は極めて少数です。

一方で、溶連菌感染症の関与を示唆する報告は、国内外を問わず散見されており、発症原因として何らかの免疫学的異常が存在することは、多くの研究者から強く支持されています。

皮膚動脈炎は結節性多発動脈炎の皮膚症状と同様に、皮下結節や紅斑(こうはん)、潰瘍、壊疽(えそ)、紫斑(しはん)、丘疹(きゅうしん)、浮腫などの多彩な皮膚症状が現れます。皮膚症状は下肢にみられることが最も多いですが、ときとして上肢にもみられます。

血管炎
吉崎歩先生ご提供 皮膚動脈炎の症状写真

特徴的な紅斑では、網状皮斑(赤い網目状の皮膚症状)を呈する臨床像が認められ、これは血管炎を疑う非常に重要な所見です。

真皮の深いところにある血管が炎症などで閉塞すると、そこを流れる血液は側副血行路を迂回するようになります。この結果、詰まったところを取り囲むように、輪が閉じない網状皮斑が出現します。この輪の閉じない網状皮斑をlivedo racemosaと呼びます。

輪の閉じる網状皮斑はlivedo reticularisと呼ばれていますが、低温刺激などの一時的な血液の鬱滞や、暖房器具による温熱性紅斑(火だこ)などによるもので、ほとんどの場合、それ以上の病的異議はありません。

実際の臨床では、輪の性状がはっきりしないこともありますから、これだけに鑑別を頼るのは危険ですが、一つの目安にはなりえます。

皮膚動脈炎では、炎症が起きている血管を生検(組織の一部を採取し詳しく調べること)で捉え、血管炎を証明することが重要になりますが、前述した通り、炎症は網状皮斑の紅斑部分にはありませんので、生検時には注意が必要です。

血管炎の病変部を正しく生検するためには、紅斑がみられない部分に存在する、皮下結節(硬いしこりのようなところ)から組織を得る必要があります。

しかし、必ずしも上手く捉えられる確率は高くないため、通常1回の生検で、2〜3箇所の部位から検体を採取しますし、日を改めて再度の生検が必要となることもまれではありません。

皮膚動脈炎でみられる皮膚外症状としては、発熱や、皮膚病変部位に限局した関節痛と末梢神経障害、筋炎を伴うことがあります。このような場合には、容易に結節性多発動脈炎の診断基準を満たし得ることになります。

結節性多発動脈炎診断基準.jpg

皮膚動脈炎については、本邦から2009年に以下の診断基準案が発表されていますが、未だに国際的に合意を得ている診断基準は存在しません。このため、ときとして患者さんは結節性多発動脈炎と皮膚動脈炎、いずれの診断もがなされ得ることになります。

皮膚動脈炎診断基準.jpg

皮膚動脈炎と診断されるか、結節性多発動脈炎の診断を受けるかは患者さんにとって大きな影響を与えます。これは、治療の強度が全く異なる可能性があるからです。

これまで述べてきた通り、皮膚動脈炎は結節性多発動脈炎と区別がつかない、皮膚に限局した壊死性血管炎を意味しています。このことは、皮膚動脈炎は結節性多発動脈炎のなかでも軽症型の病態を意味している、と捉えられる可能性も含まれています。

皮膚動脈炎と結節性多発動脈炎は治療方法が異なります。2017年に日本皮膚科学会より発表された血管炎・血管障害診療ガイドラインの診療アルゴリズムをみてみると、結節性多発動脈炎では、重要臓器に病変が及ばない場合でも、プレドニゾロン換算で0.5〜1.0 mg/kg/日相当の副腎皮質ステロイドによる治療を推奨しています。これで効果がみられなければ、シクロホスファミドによる、強度を上げた免疫抑制療法が選択されることになります。

一方で、皮膚動脈炎では、一般的に選択される治療薬は非ステロイド性抗炎症薬や、循環改善薬、ジアミノジフェニルスルホン、コルヒチンとなっています。

難治な皮膚外症状や強い炎症反応が認められることによって、初めて副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬が選択され、あるいは経過観察の後、臓器病変を呈すると結節性多発動脈炎の診断に至り、治療強度が上がることになります。

結節性多発動脈炎診療アルゴリズム.jpg

皮膚動脈炎診療アルゴリズム.jpg

もちろん、診療アルゴリズムはあくまでも一般的な治療選択肢を述べたものであり、個々の症例に応じた主治医の判断が治療方針の決定において最も重要であることは当然ですが、一旦軽症であると認識すると、医師も患者さんもなかなか治療強度を上げることに踏み切れないのも無理はないかも知れません。

また、希少疾患であるために、十分な臨床研究が行われておらず、エビデンスレベルの高い治療法が開発されていないという現状もあります。

実際に私達の外来に来られた患者さんを拝見すると、何年も前に皮膚動脈炎と診断され、循環改善薬やジアミノジフェニルスルホンなどで漫然と治療を受け、長年に渡って軽快と増悪を繰り返すうちに、徐々に悪化の一途をたどってきた患者さんは少なくありません。

皮膚潰瘍は安静を保っていればゆっくりと治っていきますが、瘢痕(はんこん:潰瘍が治癒したあとにも残る傷跡)の形成をきたしますので、繰り返すうちにだんだんと修復機構が働きにくくなってきます。

もちろん、副作用の問題がありますので、皮膚動脈炎に対していつも最初から強力な治療を行うことはすすめられません。しかしながら、一部の症例集積研究からは皮膚動脈炎のなかにも皮膚潰瘍や壊疽を呈し、強い炎症反応を認め、抗核抗体やリウマトイド因子といった免疫学的異常を認めるものは、重症化しやすく、ときに結節性多発動脈炎へ移行する可能性が示唆されておりますので、このような場合には、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の使用を積極的に考慮する必要があると考えます。

吉崎先生

前述の通り、皮膚動脈炎を完治させることができる治療法は未だ開発されておりませんが、たとえ難治な症例であっても、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の適切な使用により、日常生活を送るのに支障がない程度まで改善する可能性は十分にあります。これらの薬剤には副作用の問題がありますので、副作用の無い有効な治療法の開発は、これからも進められていくでしょう。

ガンマグロブリン大量静注療法は古くから血管炎症候群の一つである川崎病に対して有効性が示されており、最近では好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に適応症を得ました。

今はまだ保険適用ではありませんが、皮膚動脈炎に対して有効であるとする報告もあり、現在、東京大学大学院医学系研究科・皮膚科学教室ではガンマグロブリン製剤を用いた2つの自主臨床研究を準備しています。

さらに、近年B細胞は自己免疫疾患において重要であることが示唆されており、血管炎症候群に関してもB細胞の関与が病態形成に重要であることが報告されています。B細胞を除去する抗CD20抗体製剤であるリツキシマブは、多くの自己免疫疾患に対して有効であり、血管炎症候群に関しても多発血管炎性肉芽腫症と顕微鏡的多発血管炎に対する適応症を公知申請により取得しています。我々は、これまで主にB細胞と自己免疫疾患に関する研究を行ってきましたが、皮膚動脈炎や結節性多発動脈炎に関しても、B細胞は重要な役割を果たしているという知見が得られており、患者さんの治療へ実際に役立てる成果に結び着くことを目指して、日々努力しています。

 

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