免疫とは、体を守るメカニズムであり、体内に異物が侵入した際、異物を攻撃する役割を果たします。原発性免疫不全症とは、先天的に免疫が機能しない疾患の総称です。疾患の種類は現在では300を超え、免疫が機能しないため感染症にかかりやすいことが大きな特徴となります。国立研究開発法人国立成育医療研究センターの小野寺 雅史先生は、原因となる免疫担当細胞によって、現れる症状は大きく異なるとおっしゃいます。では、免疫担当細胞には具体的にどのような種類があるのでしょうか。
今回は同センターの小野寺 雅史先生に、原発性免疫不全症の原因や症状についてお話しいただきました。
免疫とは、体を守るメカニズムです。たとえば、細菌やウイルスなど何らかの異物が体内に入ってきたとき、これら異物を攻撃し、退治する役割を果たします。最もわかりやすいのは感染免疫でしょう。
感染免疫とは、体内に入ってきたウイルスや細菌、真菌(かび)を攻撃し、感染症をそれ以上悪くさせない働きのことです。一方、肝臓や心臓移植において生じる拒絶反応(第三者の臓器を移植することによって生じる反応)も、移植免疫における免疫反応の一つです。患者さんにとって他人の臓器は異物ですから、患者さんの免疫が移植臓器を異物と見なし、攻撃して拒絶反応を起こします。
このように、免疫とは、自己と非自己を区別し、非自己と認識したものを攻撃する働きです。
原発性免疫不全症(PID:Primary Immunodeficiency Diseases)とは、先天的に免疫系のいずれかに障害がある疾患の総称です。
原発性という名称の通り、生まれながらに免疫が機能しないことを意味し、免疫機能が正常に働かないことを意味します。原発性免疫不全症の患者さんは、免疫が正常に機能しないため、発熱を繰り返したり(感染症の頻度が増える)、風邪を引いてもなかなか治らない(感染症が長引く)などの症状が現れます。
さらに、原発性免疫不全症の患者さんはがんになりやすいという特徴もあります。これは、免疫が正常に機能しないため、がんの基となる細胞が体内に出現しても、初期の段階で攻撃する力がないためです。
原発性免疫不全症は、現状では大きく8種類に分類され、機能しない免疫担当細胞(免疫をつかさどる細胞のことであり、白血球などの細胞を指す)の種類や特徴によって300以上の疾患に分類されます。
そのうち、最も頻度が高いのは選択的IgA欠損症です。ただ、この疾患は感染症を含め、症状はあまり強く現れません。
一方、最も重い症状を示すのが重症複合免疫不全症(Severe Combined Immunodeficiency: SCID)です。SCIDは、現在、5万人に一人くらいの割合で生まれ、欧米では新生児を対象にスクリーニング検査が実施され、SCIDが生まれてもすぐに発見されるような体制が築かれています。これは、SCIDが生まれてすぐに重症化するためで、原発性免疫不全症の疾患のなかでも、最も早期発見・早期治療が必要となる疾患だからです。
障害される免疫担当細胞の主なものはリンパ球系のT細胞、B細胞と骨髄球系の好中球です。
T細胞には、すべての免疫細胞に指示を出すオーケストラの指揮者のような役割があります。T細胞が正常に機能しないと、すべての免疫担当細胞が働かず、生まれてすぐに症状が現れ、重症化します。上記SCIDで障害される免疫細胞はこのT細胞です。
一方、B細胞は、抗体(異物が体内に侵入した際に、それと結合し、除去する働きを持つたんぱく質のこと)を作る細胞で、ウイルスなどが体内に入ってきたとき、抗体を使ってウイルスを排除します。赤ちゃんは生まれたときには、へその緒を通して母体から抗体を受け取っており(これを受動免疫とよびます)、このため生後6か月まではあまり感染症が起こりません。ただ、自ら抗体を作れないため、徐々に抗体が減少し、ついには6か月以降で症状が現れるようになります。
最後に、好中球について説明します。好中球は、細菌や真菌を取り込み、殺菌する作用を持つ細胞です。このため、好中球に障害があると細菌や真菌感染の割合が増加します。好中球が機能しない場合は、比較的生まれてすぐに局所的に症状が現れる点が特徴です。
原発性免疫不全症の症状や現れる時期は、どの免疫担当細胞が機能しなくなるかによって異なります。
たとえば、生まれてすぐに全身に症状が現れ、重症化しやすいものはT細胞が機能しない場合でしょう。T細胞が機能しなくなると、重いウイルス性感染症や、通常、健康な人では感染しないカリニ原虫による肺感染症を引き起こします。
B細胞の機能異常では母親から受け継いだ抗体があるので、生まれてすぐに症状を示さず、6か月以降に感染症等の症状が現れます。B細胞が障害されると抗体ができなくなるため、細菌性の中耳炎や気管支炎がよく見られ、また、難治性の胃腸炎を示すことがあります。
好中球が機能しない場合も、比較的生まれてすぐに症状が現れることが多いのですが、全身というよりも局所の症状が強くみられます。特に皮膚や肛門周囲に炎症を起こし、感染部位に膿瘍(膿のかたまり)を作ります。
原発性免疫不全症の原因は遺伝子の異常であり、現在、原因となる遺伝子の数は300程度あるといわれます。
もともと人間の体内には2〜3万ほどの遺伝子があり、現在、研究によって、多くの原発性免疫不全症の原因遺伝子は判明しています。
原因となる遺伝子が解明されていないかった時代は、現れている症状から診断をつけていましたが、最近は遺伝子を解析することで診断を確定するようになってきました。また、
現在も原因遺伝子の探索は進められており、今後も原因遺伝子の数はさらに増加することが予想されます。
原発性免疫不全症は、男児に多い疾患であると考えられています。それは、比較的多くがX連鎖劣性の遺伝形式をとるためで、この場合、女子ではたとえ変異遺伝子を持っていても保因者となり、症状をあまり出さないためです。
一方、母親が保因者の場合は生まれてくる男児は2分の1の確率で発症します。なお、常染色体劣性形式を採る場合は、父母が保因者で、生まれる男女とも4分の1の確率で発症します。
原発性免疫不全症の検査は、一般的に血液検査になります。血液のなかの白血球を調べ、白血球のなかのリンパ球や好中球がどれくらい存在しているのかを調べます。
ほかにも、フォローサイトメターという機械を用い、T細胞やB細胞などの免疫担当細胞の詳細な割合を調べます。また、原因遺伝子を解析し、診断を確定します。
原発性免疫不全症の主な治療法や日常生活の注意点については記事2『原発性免疫不全症の主な治療法・日常生活の注意点』をご覧ください。
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