
原発性免疫不全症(略称:PID)とは生まれつきの遺伝子の異常により、免疫系のいずれかの機能が正常に機能しておらず、病原体に対する抵抗が弱い疾患の総称です。免疫が弱くなると感染症に罹りやすくなるだけでなく、ロタウイルスワクチンやBCG接種をした際に重篤な症状が出て、命の危険につながってしまう場合があります。ただし、原発性免疫不全症は早期発見できれば治療が可能だといわれています。では、生まれつきの疾患をどのように発見すればよいのでしょうか。今回は東京医科歯科大学の今井耕輔先生にお話を伺いました。
原発性免疫不全症(略称:PID、以降の記事本文にはPIDと表記)とは、生まれつき免疫系のいずれかの機能に異常があり、病原体への抵抗が弱くなる疾患の総称です。PIDは指定難病にも認められています。風邪による症状がなかなか完治しない、肺炎や中耳炎を繰り返し発症するなどの症状がある場合、PIDの可能性があります。
PIDは、欠損する免疫担当細胞(好中球、T細胞、B細胞など)の種類や原因遺伝子によって300近くの疾患に分類されています。代表的な疾患は、重症複合免疫不全症(じゅうしょうふくごうめんえきふぜんしょう)で、SCID(スキッド)と略します。免疫を司るT細胞が欠損しているPIDで、無治療では、空気中や水や食べ物の中のカビや雑菌、ウイルスの重症感染症のために、1歳まで生きることができない疾患です。アメリカでは、無菌の風船(バブル)の中で大きくなった子で有名で、Bubble boy diseaseとも呼ばれます。その他にも、無ガンマグロブリン血症(抗体を作るB細胞が欠損しているPID)、ウィスコットアルドリッチ症候群(WAS、アトピー性皮膚炎と血小板減少を伴うPID)、慢性肉芽腫症(まんせいにくげしゅしょう:細菌を殺菌するために必要な活性酸素が作れないために発症するPID)、などがあげられます。
X連鎖性疾患(X染色体上にある遺伝子の変異が原因の疾患)が多く発見されていることから、男性に多い疾患とされています。また、日本でのPIDの患者さんは、現在1万人ほどだと考えられています。
なお、PIDは生まれつきの疾患なので、後天的に免疫力が低下するエイズとは異なります。
新生児マススクリーニング検査とは、生後4~7日目の新生児に行う検査です。この検査は障害の原因となる疾患の発症を予防する目的で行われています。また、治療可能で、なおかつ放置すれば障害を引き起こす疾患を持つ子どもを早期発見・早期治療することで、小児期の突然死を未然に予防することも期待されています。
新生児マススクリーニング検査の検査方法としては、生後4~7日目の新生児のかかとから、ごく少量の血液を採ります。採血した血液をろ紙に染みこませ、検査機関に送り血液中の成分を調べ、疾患がないかを検査します。検査に使用したろ紙は検査機関で1年間ほど保管したのち、破棄されることが多いです。後ほど詳しく述べますが、新生児マススクリーニング検査で使用するろ紙血でPIDのスクリーニング検査をすることが可能です。
以前は国の事業として、アミノ酸代謝異常症3疾患、糖質代謝異常症1疾患、内分泌疾患2疾患の合計6疾患が新生児マススクリーニング検査の対象になっていました。現在では各自治体が実施主体になり、タンデムマススクリーニングという方法により、対象疾患が有機酸代謝異常、脂肪酸代謝異常を含む20疾患以上に拡大しましたが、PIDは含まれていません。
PIDのスクリーニング検査とは、PIDを出生後早期に発見するための検査です。しかし、現在の新生児マススクリーニング検査の方法では先天性の代謝異常症などは検査できても、PIDの各疾患までは検査できません。
そこで、私は、防衛医大小児科にいた時に、野々山恵章教授と当時の大学院生たちとともに、PIDのスクリーニング検査として、TREC(トレック:T細胞欠損症を検査する方法)、KREC(クレック:B細胞欠損症を検査する方法)という方法が有用であることを発見しました。この研究では、全国の患者さんとその家族、主治医の先生たちにご協力をいただきました。また、スウェーデン、スイス、からも成人の患者さんたちの新生児期のろ紙血をいただくことができました。
TREC.KRECで発見できる疾患は、TRECで約30疾患、KRECで約20疾患、合わせて約50疾患、PID全体の約15-25%と想定しています。
東京医科歯科大学で生まれた新生児には、ご家族の同意を得てから臨床研究の一環としてPIDのスクリーニング検査を2016年5月から行っています。スクリーニング検査で異常が疑われた場合、再採血による精密検査でT細胞やB細胞の数が少なかった場合には、それぞれの治療を行っていきます。詳しい治療内容は記事2『原発性免疫不全症(PID)の検査はどこで受けられる?10の徴候も合わせて紹介』にてお話いたします。
PIDのスクリーニング検査は、アメリカで大規模に導入され、すでに全体の90%である45州で、年間350万人以上の赤ちゃんがTRECによるスクリーニングを受けています。これにより、年間50人以上の赤ちゃんの生命が救われています。台湾でも数年前からスクリーニングが始まっており、スペイン、フランス、イタリア、イスラエル、ブラジル、ノルウェー、スウェーデンなどで試験的に開始されています。
日本では、国立成育医療研究センター病院と、愛知県の一部の病院で、重症複合免疫不全症とポンぺ病(グリコーゲンという物質が分解されにくくなり、全身のさまざまな臓器、器官の細胞に蓄積することによってさまざまな症状を引き起こす疾患)のスクリーニング検査が有料で開始されました。他の自治体でも、検討が進められています。
前項で述べたように、PIDのスクリーニング検査を導入している施設は多くはありません。東京医科歯科大学が研究の一環として行っているのと、先述の国立成育医療研究センター病院、愛知県の一部の病院での有料検査にとどまります。現在、各施設によって費用は異なり、公的な事業として行っているものではないので保険の適用もされません。そのため自己負担となります。現在、愛知県で行われているスクリーニング検査の費用はポンペ病の検査と合わせて6,000円です。しかし、ロタウイルスワクチンは2~3回の接種で約3万円かかります。愛知県での検査はポンぺ病と重症複合免疫不全症の検査を行っているので、6,000円ですがPIDのスクリーニング検査ならば、3,000円前後で行えるのではないかと考えます。
新生児マススクリーニングは、全国の地方自治体では無料で行われています。PIDもその一つとして認めてもらえるようになるといいですね。
防衛医科大学校 小児科 教授
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