げんぱつせいめんえきふぜんしょう・せんてんせいめんえきいじょうしょう

原発性免疫不全症・先天性免疫異常症

同義語
原発性免疫不全症候群,PID,IEI
最終更新日
2023年04月10日
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2023/04/10
更新しました

概要

原発性免疫不全症(PID)とは、生まれつき遺伝子の異常によって、免疫系のどこかに異常がある病気の総称です。免疫系とは、人の体に入ってきた細菌やウイルスなどの病原体を排除するための仕組みのことを指します。生まれつき免疫系に異常があると、これらの病原体を排除する力が弱まり、重篤な感染症を繰り返しやすくなって、時に命に関わることもあります。また最近は、自己免疫疾患アレルギー炎症性腸疾患、周期性発熱などを主症状として、感染症にかかりやすいわけではない病気も報告されています。これらを総合して、先天性免疫異常症(IEI)とも呼ばれています。

原発性免疫不全症の発症頻度は、病気の種類によっても異なりますが、おおよそ毎年生まれてくる赤ちゃん1万人に対して1人程度といわれています。2023年現在、診断のついている患者は約2,500人程度と推定され、診断されていないPID・IEI患者も多くいると考えられています。

発症年齢も病気の種類によって異なり、生後まもなく発症する病気もあれば、乳児期から幼児期や学童期に発症する病気もあります。また、成人になってから発症することや診断されることもまれではありません。特に成人の場合は、自己免疫疾患や悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を合併するタイプがあるのが特徴といえます。病気の原因遺伝子によって、男児にしか発症しない病気と男女ともに発症する可能性のある病気があります。

種類

免疫系には、好中球・T細胞・B細胞などの免疫細胞や抗体、補体などさまざまな種類があるため、原発性免疫不全症は実に500種類以上の病気に分類されています。これらを国際免疫学会連合(IUIS)では、大きく10の病気に分類しています。

  • 複合免疫不全症
  • 免疫不全を伴う特徴的な症候群
  • 抗体産生不全症
  • 免疫調節障害
  • 食細胞異常症
  • 自然免疫不全症
  • 自己炎症性疾患
  • 補体欠損症
  • 骨髄不全症
  • 表現系模写(体細胞変異あるいは自己抗体による病気)

中でも、重症複合免疫不全症(SCID)は生後まもなく発症し、緊急に治療が必要となることで知られています。

原因

原発性免疫不全症は、免疫系に関する遺伝子異常によって起こります。前述のとおり500種類以上の病気がありますが、代表的な病気のほとんどは原因となる遺伝子異常がそれぞれ明らかになっており、すでに診断や治療の場で活用されています。

基本的には遺伝性の病気ですが、家族に同じ病気の患者がいないことが多いです。遺伝性の場合、両親のいずれか、あるいは両方に何らかの素因があった場合に、その子どもに遺伝子異常が受け継がれて発症します。遺伝形式も病気によって多様で、X連鎖性遺伝*、常染色体潜性遺伝、常染色体顕性遺伝、突然変異などの形式がみられます。このうちX連鎖性遺伝の病気は、男児のみに発症します。

そのほか、一時的に免疫系が未熟であることによって生じる免疫不全症も存在します。

*X連鎖性遺伝:X染色体上の遺伝子異常が子どもに遺伝することをいいます。X染色体は女性に2本、男性に1本あり、X連鎖性遺伝の病気はX染色体が1本しかない男性にのみ発症することが一般的です。これは女性にはX染色体が2本あり、1本に遺伝子異常があっても、もう一本は正常であることがほとんどのためです。ただし、遺伝子異常のあるX染色体を持つ女性が男児を産んだ場合は、2分の1の確率でX連鎖性遺伝の病気にかかる可能性があります。

症状

原発性免疫不全症の主な症状は、細菌やウイルスなどに感染しやすくなることです。たとえば、かぜにかかりやすくなり、発熱や咳、鼻水などの症状を繰り返すことで入院が必要になったり、気管支炎肺炎中耳炎副鼻腔炎に繰り返しかかったりするケースが想定されます。特に重症の原発性免疫不全症では、感染症がなかなか治らず、命に関わることもあります。

好中球や抗体の産生に関わる異常が起こる病気では細菌感染が起こりやすく、T細胞に関わる異常が起こる病気では、ウイルス感染が起こりやすいことが分かっています。

一方で、細菌やウイルスに感染しやすいという特性を示さず、炎症や皮膚の湿疹(しっしん)、何らかの自己免疫症状、リンパ節の腫れ、がんの発生、アレルギーなどの症状が現れる病気もあります。

検査・診断

日本における原発性免疫不全症の診断基準は、国際免疫学会連合の専門委員会の分類に準じて作成されており、病気ごとに異なります。性別や症状の現れ方などの臨床所見を確認したうえで血液検査を行い、各疾患の診断に必要となる項目の検査などを行います。原因となる遺伝子変異が分かっているものは、遺伝子検査も行います。

なお、同じように感染を引き起こしやすくなる病気として慢性代謝性疾患や染色体異常、HIVなどのウイルス感染症、がんなどが挙げられます。そのほか、抗がん剤や免疫抑制剤の投与、造血細胞移植などでは、感染しやすい状態を作り出していることもあるため、原発性免疫不全症の診断の際は、これらの病気や治療による影響と見分けることが大切です。

治療

原発性免疫不全症の治療方法は、病気の種類や重症度によっても異なります。軽症の場合には、抗菌薬を予防的に服用したり、定期的にヒト免疫グロブリン製剤を点滴や注射で補充したりすることで、感染症を予防できます。加えて日頃から手洗い・うがいを慣行するなど、感染症対策に努めましょう。

一方で、重症の場合には早期に治療しなければ命に関わることもあり、臍帯血(さいたいけつ)や骨髄による造血細胞移植が検討されることもあります。また病気の種類によっては、免疫抑制剤やステロイド剤などによる薬物療法も検討されます。

原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の患者さんとご家族の方へ

原発性免疫不全症・先天性免疫異常症でよりよい治療を行うためには、普段のご自身の症状や状態、治療の希望を医師にしっかりと伝えることがとても大切です。

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