インタビュー

原発性免疫不全症(PID)の検査はどこで受けられる?10の徴候も合わせて紹介

原発性免疫不全症(PID)の検査はどこで受けられる?10の徴候も合わせて紹介
今井 耕輔 先生

防衛医科大学校 小児科 教授

今井 耕輔 先生

この記事の最終更新は2017年11月07日です。

新生児マススクリーニング検査では先天性の代謝異常症などは検査できても、原発性免疫不全症(略称:PID)の疾患までは検査できません。小児期の突然死ワクチン接種による重篤な症状などは、PIDの可能性があります。現在はPIDのスクリーニング検査を実施している地方自治体は残念ながらほとんどありません。生まれたばかりの子どもたちを守るためにもPIDのスクリーニング検査の全国的な実施はできないのでしょうか。前回に引き続き、東京医科歯科大学の今井耕輔先生にお話を伺いました。

日本での原発性免疫不全症(略称:PID、以降の記事本文にはPIDと表記)のスクリーニング検査の認知度は高いとはいえないでしょう。

アメリカの場合、患者団体がチラシやポスターやCMを製作することで、PIDの検査の診断率が2倍になったとされています。そのため、アメリカでは現在45州で90%の新生児がPIDのスクリーニング検査を受けることができます。

一方で日本の場合、患者支援団体(PIDつばさの会)はありますが、アメリカの患者団体のように経済的、政治的な力は少ないことが現状です。

日本では、一般の医師がWEB上でPIDを疑う患者さんの診断について個人情報を保護した上で相談できる「PIDJ」というシステムを9年前に作りました。現在までに5000人ほどの患者さんの相談を1200人以上のお医者さん達から受けて、1000人以上の患者さんの遺伝子診断(確定診断)ができました。原因遺伝子が不明な疾患も多いので、臨床的に診断でき、治療につながったのはさらに多くの患者さんになります。少しずつではありますが、地道な活動が認知度を上げてきているのだと考えます。

このほか、PIDを疑う10の徴候というポスターも作成しました。これはPIDのスクリーニング検査で異常がなかった場合や、検査を受けていない方に向けた啓発を目的にしています。肺炎中耳炎副鼻腔炎を繰り返し発症する場合はPIDの検査を受けてみてください。

  • 乳児で、呼吸器・消化器感染症を繰り返す。また、体重増加不良や発育不良がみられる
  • 1年に2回以上肺炎にかかる
  • 気管支拡張症を発症する
  • 2回以上、髄膜炎骨髄炎蜂窩織炎(ほうかしきえん:皮膚の感染症の一種で皮膚の層構造の深いところから皮下脂肪にかけて細菌が感染した状態)敗血症、皮下腫瘍、臓器内腫瘍などの深部感染症にかかる
  • 抗菌薬を服薬しても2か月以上感染症が治癒しない
  • 重症副鼻腔炎を繰り返す
  • 1年に4回以上、中耳炎にかかる
  • 1歳以降に持続性の鷲口瘡(がこうそう:カビが原因で口腔粘膜に白苔が付着した状態)や皮膚真菌症、重度、広範ないぼがみられる
  • BCGによる重症副反応で骨髄炎などに罹患、単純ヘルペスウイルスによる脳炎や髄膜炎菌による髄膜炎に罹患したことがある。また、EBウイルスによる重症血球貪食症候群に罹患したことがある
  • 家族に乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症(PID)を疑う家族歴がある

 

原発性免疫不全

原発性免疫不全症を疑う10の徴候の一部

東京医科歯科大学では、PIDのスクリーニング検査を試験的に行っています。マザークラス(同じ時期に出産予定の妊婦さんが集まり、妊娠中や出産後の生活や分娩、赤ちゃんの世話について学ぶ場。病院や産院、自治体や民間企業などが主催している)で検査の説明を行い、検査に協力してくれる方には出生後に同意書をもらっています。

検査結果が正常であれば1か月健診で検査結果を渡しています。数値に異常があった場合はご家族とすぐに連絡を取り、再検査を行います。数値に異常が出ることはごくまれですが、1人も異常が出ないということではなく、二次性の免疫不全症の場合もあります。二次性の免疫不全症とは、例えば、妊娠中に母親が免疫を抑える薬を服薬していた場合に、新生児のT細胞やB細胞の数が低くなってしまうこともあります。

再検査の場合にはリンパ球の表面抗原をみます。T細胞、B細胞がどれくらいの数かを確認するためです。再検査は数日あればできますが、原因遺伝子を決めるのには時間がかかることもあります。

異常がみられたときや新生児期にスクリーニング検査を受けずに、数年〜数十年経過してから発見された場合や、生ワクチン接種を受けて重症化した際には、治療を行います。

T細胞(骨髄で生成されたリンパ球が胸腺に移送され、成熟したもの)の数が少なかった場合には、空気中のカビから体を守るために、無菌室に入っていただき、細菌や、ウイルスに対する予防的な抗菌薬、抗ウイルス薬や免疫グロブリンの補充を行います。またSCIDの一つであるADA(アデノシンデアミナーゼ)欠損症では、欠損している酵素を補うために酵素補充療法も合わせて行います。

原因遺伝子が判明し、診断がついたら、臍帯血移植や骨髄移植で根治治療をします。海外では、遺伝子治療も成功してきているので、日本でも実現するよう研究しています。

B細胞(抗体=免疫グロブリンを分泌する)の数が少なかった場合には、免疫グロブリンの補充を行います。

走る子ども

PIDJ(原発性免疫不全症をWEB上で相談ができるシステム)の導入後、日本ではPIDの診断率が上がってきています。現在は1日に3人近くの新しい患者さんの相談がきています。

医療が進歩し、人間の寿命が延びているにもかかわらず、PIDの患者さんは新生児期に命を落とすことがあります。

しかし、早期に重症複合免疫不全症が発見できて治療を行った場合、無菌室を出て、幼稚園や小学校で元気に遊んだり、スポーツを行ったりできるようになれます。つまりPIDは、早期に発見できれば完治することができる疾患なのです。早期発見、早期治療を行うためにはPIDのスクリーニング検査を全国的に実施しなくてはなりません。

東京医科歯科大学や一部の自治体でのみスクリーニング検査を行うことは簡単なことかもしれません。ですが、PIDのスクリーニング検査を実施していない地域や、東京医科歯科大学にかかっていない患者さんには、突然死のリスクや感染症に罹った場合に重篤な症状がでてしまう可能性があります。それでは新生児、小児の救命率の向上とはいえません。

また、PIDのスクリーニング検査をした場合、乳児白血病など他の重篤な疾患の早期発見にもつながるという論文も発表されています。PIDのスクリーニング検査によって、さまざまな疾患の早期発見が実現していくのではないでしょうか。

最近、PIDJの研究組織を中心として、日本免疫不全・自己炎症学会を設立しました。学会とも連携して、各地方自治体の状況を調査しながら、PIDのスクリーニング検査の全国実施に向けて取り組んでいます。

しかし、スクリーニング検査の全国実施に向けては、生まれてくる赤ちゃんとそのご家族の協力が不可欠です。私たちは新生児の救命率向上のためにも、PIDのスクリーニング検査導入のために尽力していきたいと考えています。

 

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