インタビュー

AMPキナーゼが糖尿病治療や動脈硬化予防に効く? AMPキナーゼの活用

AMPキナーゼが糖尿病治療や動脈硬化予防に効く? AMPキナーゼの活用
長田 太助 先生

自治医科大学 内科学講座 主任教授  内科学講座腎臓内科学部門 教授

長田 太助 先生

この記事の最終更新は2017年10月05日です。

AMPキナーゼは、体内のあらゆる臓器に存在し、臓器によって多様なはたらきをみせるキナーゼであることは記事1『AMPキナーゼとは ―ストレス反応性に活性化されるリン酸化酵素』でお伝えしました。それでは、AMPキナーゼはどのような疾患と関連し、どのような作用をもたらすのでしょうか。治療に役立つとされる糖尿病動脈硬化と、AMPキナーゼの関係について、引き続き自治医科大学内科学講座 腎臓内科学部門 教授の長田 太助先生にお伺いしました。

糖尿病

2型の糖尿病の治療において古くから使われているものがメトホルミンという経口薬です。メトホルミンは、AMPキナーゼのはたらきを利用して血糖を下げています。

具体的には、AMPキナーゼが活性化すると、GLUT4という糖を輸送するトランスポーターが細胞の表面に移動して細胞内への糖の取り込みを増やします。これはインスリンとは別は経路を使うため、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい)がある患者さんでも血糖を下げる効果が期待できます。

また、AMPキナーゼはPFKFB3という糖の分解に関連する酵素を活性化させることにより、糖の分解を活性化させて血糖を下げる作用があります。肝臓から新たにつくられる糖を抑えるはたらきもあります。

メトホルミンは、前述の通り2型の糖尿病患者さんにのみ適用です。インスリンの分泌がされない(膵臓にあるインスリンを出すβ細胞が極端に減っている)1型の糖尿病の患者さんには適応となりません。

膵臓のβ細胞が破壊されておらず、ある程度インスリンを分泌できる2型の患者さんでしか使えないというのはとても重要です。

しかしながら、2型の患者さんであっても腎機能が低下している(eGFR 30 ml/min未満)の患者さんでは、メトホルミンにより乳酸アシドーシス(乳酸が増加することで血液が酸性化し、腹痛や嘔吐、意識障害などを起こす状態)という重い副作用を起こす可能性が高くなるといわれています。そのため、腎機能が低下している方にはメトホルミンの使用は禁忌とされています。

動脈硬化

AMPキナーゼには、血管を収縮・弛緩させるはたらきを持つ血管平滑筋の増殖を抑える作用、そして血管内皮細胞(血管の最も内側の層にある細胞)の抗アポトーシス作用(細胞が自死のように自然に消滅することを防ぐ作用)という2つの作用を血管にもたらします。

血管平滑筋の増殖が抑えられると、動脈硬化を予防することができます。

血管は、外膜・中膜・内膜の3層から成ります。正常な血管では、中膜にある平滑筋細胞が血管を収縮する機能を持っています、しかしさまざまなサイトカインやアンジオテンシンⅡなどの刺激を平滑筋細胞が受けると、平滑筋細胞は増殖します。それが内弾性板を越えて増殖すると内膜が肥厚(厚くなること)し、血管狭窄(血管が狭くなること)を起こしてしまいます。

血管内皮細胞は、内膜を覆う細胞です、血管内皮細胞は、血管にはたらきかけるさまざまな物質を放出しており、血管の収縮などの調節、血小板が血管に張り付いたり不用意に集まったりすることを抑え、血管を保護する役割を持っています。

このように動脈硬化から血管を守るはたらきを持つ血管内皮細胞が、何らかの理由でその機能が低下すると、動脈硬化と抗動脈硬化の作用のバランスが崩れ、動脈硬化が始まります。

血管内皮細胞の機能低下の要因として、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、運動不足、喫煙、塩分の過剰摂取などが挙げられます。

AMPキナーゼの活性化だけで進行した動脈硬化を元に戻すことはできません。あくまで動脈硬化に至る前の段階で、AMPキナーゼを活性化すると、動脈硬化になる前に未病の段階で疾患を食い止められるのではないか、と考えています。

また、動脈硬化となる方は腎臓の機能低下を起こしている方がほとんどですから、そういう患者さんにメトホルミンの使用は難しいかもしれません。前述の通り、腎臓の機能が低下している方にメトホルミンを用いると、乳酸アシドーシスという重篤な副作用を起こすリスクがあるためです。

AMPキナーゼの活性化のみに特異的に作用する新たな薬剤が開発されれば、腎臓機能の芳しくない、動脈硬化予備軍の患者さんにもAMPキナーゼを用いた予防的治療ができるのではないかと考えています。

AMPキナーゼは、急性尿細管間質性腎炎などの腎障害によって起こる腎間質線維化を抑える作用があるのではないかという報告があります。しかし一方で腎間質線維化を促進するという報告もあり、まだ結論はついていません。

腎臓の尿細管間質には血管の他に線維芽細胞なども存在し、どの細胞のAMPキナーゼが活性化すると線維化が抑制される(あるいは促進される)のか、まだわかっていません。

私たちは、AMPキナーゼが腎間質線維化を抑制するという考えで研究を進めています。このメカニズムが解明できれば将来的には腎間質線維化を防ぐことができるかもしれません。

長田 太助先生

AMPキナーゼはほとんどの臓器の細胞に含まれているにもかかわらず、臓器によってはたらきが多彩であることから、まだその全容が明らかではありません。

AMPキナーゼの活性化が治療をする上で有利に働くと考えられる疾患の特定もされつつありますが、副作用の面から糖尿病薬のメトホルミンはAMPキナーゼ活性化作用があるものの用いることができない場面も多い、というジレンマも抱えています。ですから、今後研究・開発が進み、余計な他の作用がなく、副作用が出にくいAMPキナーゼ活性化薬が開発されれば、腎臓機能が低下した動脈硬化予備軍の患者さんへの予防的治療にAMPキナーゼを活用できる場面が増えるかもしれません。今後、さらなる研究が進められることを期待するばかりです。

 

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