AMPキナーゼとは、ストレス反応性に活性化され、それを生存に有利な方向に働くキナーゼ(リン酸化酵素)の一種です。ほとんどの臓器に存在し、身体、もしくはもっとミクロに見ると細胞がストレスを受けると活性化して、そのストレスによって生じる影響を緩和させるようにはたらきます。糖尿病治療薬であるメトホルミンが作用する機序の一部も実はこのキナーゼの働きを介していることが知られています。
AMPキナーゼのはたらきや活性化のメカニズムについて、自治医科大学内科学講座 腎臓内科学部門 教授の長田 太助先生にお聞きしました。
AMPキナーゼとは、グルコース(ブドウ糖)不足、低酸素状態、ヒートショック(温度の急激な変化で血圧が激しく上下し、何かしらの健康被害が生じること)など、体内の細胞がストレスを感じた際に活性化するキナーゼです。
基本的にはどの臓器のどの細胞であっても、普遍的にAMPキナーゼが存在することが知られています。しかし、臓器によってAMPキナーゼのはたらきはさまざまです。
初期にAMPキナーゼのはたらきについて研究された主要な臓器は、肝臓、骨格筋、心筋でした。
AMPキナーゼが運動(筋肉の活動)によって活性化するともいわれていますが、それは運動によって体が低酸素状態に陥るためだと考えられます。
AMPキナーゼは、体内の細胞が危機的状況に陥った際に、その状態を改善させるはたらきを持ちます。一般的には、エネルギー不足など、細胞の危機的な状況を感知し、それを改善する方向にはたらくことが知られています。
たとえば血管の平滑筋細胞においてはAMPキナーゼが活性化することで動脈硬化を防ぐ方向にはたらくことが知られています。また血管内皮細胞では細胞死を防ぎ、細胞を保護するような役割を果たすとともに、血管新生(新たな血管をつくる)を促進することもわかっています。また、このキナーゼを活性化させるメトホルミンが、糖の代謝を促進する糖尿病治療薬として使われています。
一部では、AMPキナーゼがあらゆる生活習慣病やがんを抑制するという人もいますが、それは言い過ぎでしょう。AMPキナーゼがはっきりとよいはたらきをすることがわかっているのは、ごく一部に限ります。反対に、腎間質線維化など、疾患を増悪(悪化)させてしまう可能性も報告されているため、今後どのように疾患の予防や治療に応用できるのか、検討されるべきでしょう。
AMPキナーゼは、まだそのはたらきのすべてが解明されているわけではなく、今後さらに機能が解析されるとともに、より特異的にAMPキナーゼを活性化できる薬剤が開発されることを期待しています。そうすれば、要らない副作用に悩まされることなく、AMPキナーゼの持つ細胞を守る作用を享受できることでしょう。
また、AMPキナーゼの抗動脈硬化作用に関しても、動脈硬化の前段階である初期の血管内皮障害の患者さんをスクリーニングできる検査方法が開発されれば、AMPキナーゼを用いて、未病の段階で動脈硬化を予防できる可能性もあります。
一方で課題もあります。AMPキナーゼは、その活性化薬(AICAR)が長距離自転車競技においてドーピングに使われたことがありました。これはAMPキナーゼが持つ、低酸素状態におけるATP産生の増強作用に基づく筋持久力の向上を狙ったものです。このような使われ方は避けるべきです。
たとえば体力に不安を感じ始めた高齢者に対して、AMPキナーゼ活性化薬を使用することによって短期的にサポートしてあげて、その間にサルコペニアを改善させる運動や食事による介入をする、といったような使われ方がよいのではないでしょうか。
記事2『AMPキナーゼが糖尿病治療や動脈硬化予防に効く? AMPキナーゼの活用』では、AMPキナーゼの活用について解説します。
自治医科大学 内科学講座 主任教授 内科学講座腎臓内科学部門 教授
長田 太助 先生の所属医療機関
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